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白石忠志教授著『法律文章読本』(弘文堂・2024年)雑感(未定稿)
白石忠志教授の爆売れ著書『法律文章読本』(弘文堂・2024年)についての雑感
ただのメモです。あしからず。
(※全体の雑感は、後日追加するとして、今の時点では、他の書籍にはあまりない本書独自の部分についてだけメモをしたものを載せておきます。)
法令、行政文書、裁判文書で広く通用している(v)公用文作成の考え方を参考とした体系的な書籍であり、法律家や公務員はもちろんのこと、およそ法的な内容を含む文章を書く・読む多くの方にとって参考となる書籍であると思います。
四六判(しろくばん)サイズ(おおむねA6判)で217ページと分量も適度です。
(個人的な見方ですが)文章自体は、教科書的というよりは、講義のような語り口調で多変親しみやすく、かつ、読みやすくなっています。意識してなのか、一文が短く、接続詞をあまり使わない辞書的な文章のように思います。
法学者の著書で公用文考え方の建議(令和4年)についてしっかりとカバーされている唯一の本だと思います(iv・ⅴ)。
公用文考え方の建議について、当方(特にワタクシ個人)でも「これに反発したり無関心を装ったり」していますが、建議は、正確に分かりやすく伝わる文章を書くための様々な知恵が詰まっているとされており、考え方を改めねばな…と思いました(p204-205)。
さて、本書の構成は、次のとおりです。
至誠堂書店オンラインショップから抜粋
(https://ssl.shiseido-shoten.co.jp/products/detail/66775)
【目次】
はじめに
1 本書について
2 正確で分かりやすい文章
3 「公用文作成の考え方」について
4 本書の構成
第1章 入門
1 条・項・号
2 条・項・号をめぐる基本の続き
3 古い用語・表記について
4 基本的なルール
5 基本的な法律用語
6 入門を終えて
第2章 文書
1 文書を作成する際の基本的な考え方
2 正確で分かりやすい文章
3 文体
4 構成
5 字下げ(インデント)
6 文書全体の分量
第3章 文
1 外国語であると考えることについて
2 公用文考え方が掲げる留意点
3 一文を短く?
4 箇条書
5 主語を明示し、それに述語を対応させる
6 どこまで係るのかを明らかにする
7 単語の切れ目を明瞭にする
8 前後・上下・左右などを不用意に入れ替えない
9 読点の打ち方
第4章 用語
1 造語について
2 専門用語
3 外来語
4 紛らわしい言葉に留意する
5 用語に関するその他の留意事項
6 知っておくと便利な法律用語
第5章 表記
1 漢字の使い方
2 送り仮名の付け方
3 外来語の表記
4 数字の表記
5 符号の使い方
6 表記に関するその他の原則
おわりに
1 条文の読み方や扱い方に関すること
2 公用文に関すること
3 私個人の心掛けに関すること
以下、とりあえず、あまり他の書籍にはない、本書独自と思われる部分を抜粋して感想を書きたいと思います。
【入門】(p1-)
法学部1年目の学生や法学を勉強したことのない公務員にも分かりやすくまとめられており、これから法律を読もうとする方々にぜひ一度は読んでいただきたい部分です。
【「第」を書くか省略するか】(p11-15)
「第」を書くか省略するかについて、これほど精緻に詳細に書かれている本は他にないのではないでしょうか。
行政文書においては、基本的に第をつけていることが書かれており、私たちの文書であれば通常は「第」ありでよいことが分かります(ある附属機関の委員の弁護士の方からも、司法文書では第を略すが、それに倣って行政文書で第を略す必要はないといわれたことがあります。)。
また、p57の五類感染症の解説も秀逸ですね。なるほど、確かに序数であれば第五感染症が正しいように思います。
【古い用語・表記】(p24-26)
古い用語・表記も、他の本ではあまり見ない記述です。「かかる○○」「かような○○」「これら○○」「なす」「ないし(乃至)」「けだし」「この○○・本○○」「右」「左の」「一に」についてこれほど詳細に解説した本はないと思います。
「けだし」(p25)については、もちろん意味は分かった上で、使わないほうがよい旨をウィットに富んだ語調で書かれていますので、ぜひ読んでいただくとよいと思います。
短文SNSでも話題となっていましたが、「この法律」と「本法律」について、「本○○」が古い言い回しであるというのは、実は考えたことがなく、最近でも「本補助金」と用いていたので、こっそりと改めようと思っています(「本書」はこの書だと変な感じがします。熟語であるので本書でよさそうです。)。
【事件番号】(p32-33)
条・項・号の基本的なルールの部分で、(2)法令番号のあとに、(3)事件番号があります(p32-33)。これは法制執務の本ではあまり見かけない順番というか位置ですね。というか法制執務系の本にはほとんどないか…。あると便利な知識ですが、法令番号と並ぶとちょっと違和感があります。公務員に限っていえばあまり使わないかと思います。
【和暦か西暦か】(p33-34)
(4)和暦か西暦か(p33-34)において、「法令番号、行政文書、行政官による解説書、判決などにおいて和暦が付けられるのが通常」であることから、西暦だと読みにくいのではないかとの旨の記述がありそのとおりだと思いました。
一部で西暦ハラスメント?西暦クレーマー?が流行りました。申請書等においては、和暦を義務付けるものではありませんので、西暦で書きたければ西暦で書いてもらって構いません。
なお、昭和から平成に代わったときの行政の取扱いについては、次のようなルールがありました。
①新しい元号「平成」について(昭和64年1月7日・内閣総理大臣談話)
・新しい元号は、事情の許す限り速やかに改元を行うという元号法の趣旨、国民生活の便宜等諸般の事情を考慮して用いられる。
・新しい元号の仕様については国民各位の理解と協力をお願いする。
②「元号を改める政令等について」(昭和64年1月7日閣議・内閣官房長官発言要旨)
・一般国民は元号、西暦を自由に使い分けて良い。
・公的機関の事務については従来から原則として元号を使用してきたところであり、この慣行は今後も当然に続けられるべき。
・西暦で記入されたものも受理できる。
・届出等で既に旧元号が印字されているものは、改元後そのまま使用しても法律上の効果は変わらないが、できるだけ新元号に訂正して使用するなど、混乱を招かないように配慮する。
・法令の中の旧元号は元号改正によってもその法律上の効果は変わらない。
また、これらを受けて、当方では次のような取扱いを全庁宛て通知しました。
①「改元に伴う文書事務の取扱いについて(通知)」(平成元年1月9日)
・昭和64年1月8日以後の日付で作成済みの文書は作成し直す。ただし、印刷済みのもので時間的余裕のないものは補正の上、施行する。
・感謝状、表彰状等は全て作成し直す。儀式等の日程に間に合わないものは後刻作成し直したものを交付する。
・元号初年の表示は「元年」とするが、年月日の文字の記載を省略する場合は「1」とする。電算処理による場合は所管部局が定める。
・文書の記号及び番号は、昭和63年4月~平成元年3月は「63」、平成元年4月~平成2年3月は「1」を用いる。暦年で表示するものは番号を更新する。
・会計年度は、昭和63年4月~平成元年3月は「昭和63年度」、平成元年4月~平成2年3月は「平成元年度」を用いる。
・昭和による期日、期限等の表示について、公布済みの条例、規則、告示等は当面改正を要しない。契約書の類で締結済みのものは改正を要しない。許可証、通知文等で許可・通知済みのものは当面は措置しない。
・市町村への届出、申請書等の扱いは、旧元号や西暦による記載であっても受理する。許可証等に申請の年月日を表示する場合は新元号を表示する。
・様式中の昭和は平成と読み替える。当該様式を使用する場合は訂正して使用する。その後は法規担当課からの指示により規則改正を行う。
・旧元号を冠した事業名等は改正の手続きを要しない。既に外部に示した事業名等は平成に読み替えるものとする(昭和64年第1回○○講習→平成元年第1回○○講習、昭和64年度○○の募集→平成元年度○○の募集)。
②「新元号制定に伴う関係条例の整理について(続)」(昭和63年10月5日)
・新元号移行に合わせ関係条例を改正する必要が生じたが、本件は解釈運用の範囲内で対応可能であり、直ちに改正しなくても効力に影響を及ぼすものとは解されない。
・今後の対応については法律等の処理に準じ行うこととしたい。
【(3)括弧書きを減らす】(p77)
悪い例と改善例が大変分かりやすいのですが、仮に条文の形にした場合であれば、改善例は、「未就学児は入場できません(特別に許可された未就学児は入場できます。)。」となりますかね。
なお、例えば、裁判所法第10条第1号では、
「一 当事者の主張に基いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを判断するとき。(意見が前に大法廷でした、その法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するとの裁判と同じであるときを除く。)」
となっており、このような用例もあります。
【○○性】(p106)
法律文章では多用してしまいがちですが、筆者から記述の簡略化のためのものであり、法律文章を難しく見せてしまっているのではないかとされています。おっしゃるとおりだと思います。分かりづらくさせているような面があると思います。
要件なのか性質なのかも考えながら読まなければならないという部分もそのとおりであると思います。
【(2)多義的な用語】(p122-)
「意義」が「意味」の意味で用いられることは、いわれて気づきました。もうそういうものだと染みついてしまっていてはっとさせられました。「一般」も同様です。
「から」と「より」(p124)についても、公用文で誤用の多い単語だと思います。いまだに比較ではないのに「から」ではなく「より」を使ってしまう公用文が散見されます。
なお、公用文考え方と解説で違う例を挙げている部分の指摘については、読み込みの凄さに圧倒させられました。
【6 知っておくと便利な法律用語】(p150-)
ここも大変役立ちます。法律文章を読む前に一読したいものです。「当該」と「同」(p152)については、その違い(違和感)はそのとおりだと思いますし、この一般性があるか(高いか)の違いは意識してみると確かにそうだと思う部分です。
「それぞれ」(p156)、「旨」(p159)についても、このように詳細な解説を見たことがありません。大変勉強になる部分だと思います。
【「、」と「,」】(p190)
令和4年の建議をもとに「、」に移行しているとされ、原則として「、」でいいことが分かります。
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