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業務の観察結果が、どのようにUI設計のヒントになったか

こんにちは、freee株式会社でプロダクトデザイナーをやっているひろみつです。freee会計の、アドバイザーさん(freeeでは会計士さんや税理士さんなどを指します)に向けたプロダクトデザインを担当しています。モルカーが好きです。

この記事は、freee Designers Advent Calendar 2022の最終日、25日目の記事です。

先日、アドバイザーさん向けの機能である、複式簿記の形式で記帳を行う機能がリリースされました!
今回は、士業という専門領域の人たち向けにUIを設計をするうえで、どんなことを考えてリサーチを行い設計に繋げていったか、書きたいと思います。

誰向けのどんな機能?

freee会計は、「取引」という構造でお金の収入支出が記録されていきます。取引自体の流れを追えるなど、色々とメリットのある構造なのですが、一方でこれまで複式簿記の形式で仕訳を入力されていた専門職の方がはじめてお使いになる際には、思想や入力操作の差異によりなじみにくいという課題がありました。複式簿記の形式で記帳を行う機能は、そんなfreeeをはじめてお使いになられるアドバイザーさんにとって、freeeへの入り口となる事を目指して開発している入力UIです。

ありのままの業務プロセスを知る

実はこの開発のために行ったリサーチの概要は、8月に開催されたfreee Design Night in Fukuokaで発表しました。このときはまだリリース前だったため、詳細は書けなかったのですが、今回はもっとUIの設計観点に焦点を当てて書いていきたいと思います。

これまで担当したことのない業界のプロダクトのUIを設計するうえで必要となってくるのがドメイン知識です。

このアドベントカレンダーの15日目で、エクスペリエンスデザイン(XD)チームのawaさんが社内にある情報の「発掘」について書かれていました。

社内の情報資産からドメインを理解するアプローチについてはこちらを読んでいただくとして…今回はユーザーさんにお会いする形のリサーチに焦点をあてます。個人的にドメイン知識を吸収する時、以下のようなレベル感があると考えています。

  1. 書籍化や記事化されているような、業界の一般的なプロセスや常識

  2. 業界全体の慣習

  3. 会計事務所毎の慣習や独自の工夫・ルール

  4. 職員さんの業務プロセスや行動、工夫

1は書籍を読めばある程度(あくまで自分の理解のうえで)知ることができますが、3や4の実際は知ることができません。社内には、現場上がりのプロダクトマネージャーやビジネスの担当者がたくさんいますが、デザイナーとエンジニアは関係者からのインタビューベースの理解に留まっていました。

書籍や記事からの情報だけで理解してしまうと、すべてが等価値に見えてきたり、現場の価値とずれていたりする可能性があります。実際の現場を見ることで、プロダクトのあるべき像(to be)の核を考える上で、価値の濃淡をよりよくつけられる可能性が高まります。最終的にはこの濃淡の感覚が、UI設計上の優先度判断や機能の提供順に繋がると考えています。

今回開発するものは、現地で使い物になるかどうかが重要だったため、社内の専門家であるエクスペリエンスデザイン(XD)チームの助けを借りながら、設計前・設計後と何度か業務観察を行ないました。この業務観察をどのように設計のヒントにしたかを掘り下げていきます。

※業務観察とは「人々の実践(していること)のありのまま」を、おもに観察とインタビューを組み合わせて体感・理解しようとすることです。エスノグラフィを応用したリサーチをfreeeではこう呼んでいます。

インタラクションが重要視されるUIの設計のヒントをどう知る?

これまでの業務にインストール型の会計ソフトを利用されていた方が、freee会計で手入力を行いたいという場合、既存の方法よりも遥かに入力速度が劣ってしまうと、会計ソフト選択の土壌に上がれません。そのため、今回の開発では

  • 「仕訳を手入力する際に、既存のインストール型ソフトと遜色ない状態になっていること」

  • 「マウスを使わずにテンキーだけで仕訳の入力が完了できること」

という、インタラクションに関わる2つのポイントがありました。では「遜色ない状態」「マウスを使わずに」という状態はどういう状態なのでしょう?実際に設計・開発を行うには、手入力をどのくらいの速度で行うことができ、どれくらいのレスポンスが保たれていれば初見で拒絶されずに試してもらえるでしょうか?どの業務のどの状況でもマウスを使ってしまうと、要求を満たせないのでしょうか?

他の会計ソフトの機能や速度感を真似るにも膨大な機能がありますし、設計コンセプトも異なります。そのため、設計に落としていくには、行動のその裏にある「なぜ」まで遡り、自分達のコンセプトを基礎とした設計に組み替える必要があります。

特に今回の開発テーマのUIを設計するためには、日々会計事務所の方々が仕事道具として使っている会計ソフト上で「無意識的にやっている細かな操作」や「いつものとおりに入力している速度感」まで知る必要がありました。

そうだ業務観察をしよう

ベースとなるβ版を作成した後、実際の会計事務所に私たちが伺い、UI検証と業務観察を行いました。今回実施した業務観察の目的は下記の2つ。

  1. 会計事務所の現場を見て業務を理解する

  2. 現在設計しているあるべき姿の妥当性を確かめる

1は実際の業務プロセスの理解と利用の状況の把握、2は社内関係者で整理した業務プロセスの答え合わせの意味合いがありました。業務観察のリクルーティングや準備は、冒頭でご紹介したスライドを見ていただくとして…。

実査当日は、ご協力いただけることになった職員さんが普段業務を行っているデスクの近くにお邪魔して、普段通り業務を進めていただきました。普段の作業を解説するデモのようになってしまうと「ありのまま」の行動から外れてしまうため、「普段通り」の業務を続けていただくことをお願いし、黙って視界に入らない位置で業務を見せていただきました。

その後、ひとかたまりの業務を見せていただいた後に、確認のために見せていただいた業務を簡単に説明していただき、気になった行動やその意味などをインタビューで掘り下げていきました。

画面外の業務環境を知る意味

プロダクトデザイナーとして設計するのは、モニタ内で使うWebのインターフェースです。しかし、デスクの上には資料があったり、電卓や定規、ペンなどさまざまなものが置かれています。ユーザーとなる方は、この机のうえの資料とディスプレイ上に表示されているUIを行き来しながら業務を進めています(実際に観察してみると、時折机横のキャビネットにまとめられている資料を取ったりもしていました)。

  • 用意されている文房具はどう使われている?

  • どんなキーボードを使っている?それはなぜ?

  • 入力している際のキータッチは?右手と左手はどこにある?

  • 画面外の資料類と画面内をどのように視線移動していそう?

  • 操作する前に物理的に準備していることや、操作後に行うことは?

  • どのくらいの速さで仕事が進んでいる?

これらに注目することによって、頻繁に画面内外を視線移動するため、負荷を減らさなければいけないことや、キーボードショートカットで使えそうなキーボードの範囲、どのくらいのレスポンススピードが必要そうかなどなどを知ることができました。それによって既存のソフトウェアがなぜ今の形になっているのか、意味を理解することもできます。

百聞は一見にしかず

私が一緒に開発をしているチームには、プロダクトマネージャー、エンジニア、QA、デザイナー(私)がいます。業務観察には、彼らにも一緒に参加してもらいました。

業務観察の結果は、協力していただいた方の背景情報や業務プロセスを分析しまとめています。しかし、このドキュメントだけでは、場の雰囲気や普段の操作の速度感といった感覚を伝えることは難しいと思っています。

今回の調査のなかで、入力はリズム(テンポよく打てること)という言葉を何度か聞きました。慣れ親しんだ環境での入力はものすごく早いのです。今回設計するにおいて、このユーザーの感覚と、それが当たり前の品質になっているということを知ることが重要でした(たとえば、1分間で100仕訳打てること、と文字で書いたとしても想像しにくいですよね)

今回、チームで同じ場を観察したことによって、なかなか文字では表現しにくい感覚を共有することができました。これにより、要件への対応の必要性や、操作速度の肌感を持つことができ、メンバー間である程度同じイメージで議論ができる土壌ができたのではないかと思っています。

まとめ

今回は業務観察のなかでも、どのポイントを細かなUI設計のヒントにしたかという視点で記事を書いてみました。

今回紹介した業務観察は、「人々の実践(していること)のありのまま」を、おもに観察とインタビューを組み合わせて体感・理解しようとするリサーチ方法です。

現場で働く人の業務の「ありのまま」を観察することで、行動のその裏にある「なぜ」にまで遡り、それによって自分達のコンセプトを基礎とした設計に組み替えることができるようになります。画面外の環境を知る事で、普段の操作の速度感など、文字では表現しにくい感覚やユーザーをとりまく環境からの制約を設計のヒントとして得ることができます。

このような情報のなかには、文字では伝えにくいが体感すれば理解できる情報もあります。出来ればそれをチームで体験することが、迅速な議論や、齟齬の少ないよりよいチーム開発に繋がると思っています!

ご利用は計画的に

リアル環境で調査を行えば、感覚も含めた大量のヒントが手に入る一方、実際に先方の環境に伺って観察させてもらうことは、協力者・観察者双方にとってオンラインよりもコスト高になります。

コロナ禍により、オンライン会議を行うことが当たり前になり、オンラインでのリサーチもやりやすくなりました。
すでにいくつかの現場のイメージ(ドメイン理解が一定度進んでいる状況)があったり、画面内で行われている操作が重要な場合はオンライン。「見たこともない」ドメインを「見たことがある」にすることそれ自体に意義があったり、画面外の資料や手元操作などの環境が設計の判断材料になる場合はオフラインでの業務観察にチャレンジしてみるのがよさそうです。

オフラインでの調査はメリットもあるけれど、ご利用は計画的に。業務観察の準備などの詳細は、freee Design Night in Fukuokaでの発表資料にもまとめていますので、気になった方は合わせてご覧ください。

おわりに

最後までお読みいただきありがとうございました!
freee Designers Advent Calendar 2022は今日で終わりです。他にもfreeeのデザイナーが色々な記事を書いているので、気になる方は一覧を覗いてみてください〜!
来年も、どうぞよろしくお願いします!


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