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短歌みたいな

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時折つきたい定型のため息
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#演劇

いしころに

飽きもせず訊いているのだ石ころに「おまえはどこからやってきたのだ」 まなじりで語らなければならなくてマスクの下でひび割れる舌 喉の奥いや胸の奥いや腹の底ひとつながりで梅核気

はるのよう

頭ひとつ抜きんでているサドル乗る君は寝癖を直して出掛ける 頭上から降り注ぐ声優しげに「ドアが閉まりますご注意ください」 爆弾のスイッチならば躊躇うものかそれはうさぎのスタンプなのだ

はだし

裸足では帰れないので待っているわたしと靴を取り違えた人 どうしてこんなに柔らかいのか鎧がなければ生きていけない ほんとうに見とれているのは足の爪悟られぬよう目を見て話す

としつき

もう甘くなくていいのだデニッシュをブラックコーヒーで飲み下す朝 素数ゼミならやっと地上に出たばかり目よりも上に耳があっても

劇場から

甲板の先に座ってひざ抱えバルパライソの地図を眺めた サルスベリ散り敷く雨はしとやかに昨夜の映画の女優の怒り