マガジンのカバー画像

短歌みたいな

34
時折つきたい定型のため息
運営しているクリエイター

2019年4月の記事一覧

いまごろ

いつか子に織音(オリオン)と名付けたい友が言った夏の夜の空の下 スマホに点る蛍火を眺めていたいから既読つくのが遅い 会いたいひとに会えた空ひょっとして生まれ変わったのかわたしは 湯を含みコーヒーの粉ふくらんで湧く泡にあなたを見たような

きおくれ

細胞は知らぬはずだがこの記憶わたしを苛むアポトーシス 遠足のバスの座席の最後列座れないまま卒業し 車にも酒にも自分にも酔わず地図も読めてなお恋に迷う 死んだ人の言葉ばかりを読んでいる夜には葉桜見失う

おもおう

どうしても思い出せないわたしとの思い出があると君は言うが 「思い出す?くそ甘いこと言ってんなこちとら忘れたことすらねえ」 ひとひとり大人に育つ年月にひるむわたしは橋を渡れず ひとまずは我が胸のうち脇におき業務連絡のLINEする

にちにち

知りながら知らぬ振りして愛想よく相槌を打つひっぱたきたい 将来も老後も未来と言っておく好きな言葉はエントロピー 昼時に食べたい味がわからない春雨スープ選べない朝 生きるってリンボーダンスでわんこそば食べ続けるってことか知ら

ふたりと

月が見たくて降りたバス停で前触れのない後悔にたじろぐ なぜ一緒にいるかわからぬ二人なぜこの二人なぜあの二人 「間が持つ」と理由教えてくれた友あたしも今だけ煙草吸いたい ため息が飛行機雲になればいい君よ目覚めよ空を見上げよ

みちなりに

手と足でユンボをあやつるひとに見惚れゆっくり進む誘導路 会えれば嬉しい帰れば寂しい音沙汰なければ憎らしい君 塗られてないぬり絵落とした子はほかに何をして紛らわしたろう 和牛という店を背に立つ男ありバッファローの体躯して

はるかな

タイトル、短歌シリーズはネタ切れ。無念。 「これだけは言わせてほしい」ランニングしながら男子中学生 うす青い空「予感」と文字が見えたきりのない地球の明け暮れ 置物のように黒猫据わりおり花と吾とは風によろめく

まあ短歌

天井をぶち抜く視線で見上れば正午の太陽地下二階 思い出はあるかあらぬか見えぬからわたしは髪を伸ばし続ける 雨晴れてふやけた蚯蚓の骸(なきがら)をレインブーツで踏むまいとする 「太陽のせい」と嘯く何もかもうつくしい朝晴れている朝

短歌だそう

散り初める刻を謀るや桜たちストップモーション息ひそめ 根があれば疑うほうが楽なのだ信じるつらさ根のないつらさ 沈黙に研ぎ澄まされた切っ先ならば抜くまいと己に頼む 寒そうな背骨をさする大きな手見えないように泣いている空