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詩とおもう(スケッチ)

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情景やら心象やらを集めました。
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2020年9月の記事一覧

残暑(2020.9.11)

彼の岸は 空の向こう やがて踏む梯子の先 ひんやりとした青い色は 地上の名残を滅するほどの 陽の熱すらも懐にして ひんやりと笑っている 焼かれ燻され墜ちていく 熱された体から惑い出た もう望めない声たちを その懐に抱こうと 彼の岸は 空の向こうに ひんやりと待っている 外された梯子の まだ下にいるわたし 手のひらを陽に焼きながら 彼の岸を睨む

うわのそら(2020.9.6)

「上空はどうだい?」 「どうって?」 「どんな感じかなってさ」 「可もなく不可もなく」 「そうなんだ?」 「そっちはどうなんだ?」 「どうって?」 「どんな感じなんだ?」 「上空が気になる感じかな」 「そうなんだ」 「いつ戻るんだい?」 「いつ?」 「そう」 「わからないな」 「待ってていいのかい?」 「待っていたいなら」 「待たなくてもいいのかい?」 「待ちたくないなら」 「そうか」 「うん」 「…ほんとのところ、上空はどうだい?」 「…ああ、悪くはないよ」

未明(2020.9.4)

薄い闇のなかで 目をひらいて 手をひらいて 指を数えてみる わたしがにぎれば にぎる わたしがひらけば ひらく だから わたしの指だ 薄い闇のなかで 指は ぼんやりと 滲んでいる 薄い闇のなかで 見ているのは 見られているのは わたしの目と指だと どうしても わたしは 思いたいのか 目を閉じてしまえ お前が誰でも 夜は明ける