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詩とおもう(スケッチ)

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情景やら心象やらを集めました。
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2019年12月の記事一覧

ウロボロス(2019.12.23)

その眼差しを その横顔を その背中を それをわたしは決して見ることができない 透明な箱に入っている 手で触れることはできる 思いを感じることもできる それをわたしは決して見ることができない あたらしい土地 のこり続ける記憶 ひとつの星 それをわたしは決して見ることができない わたしが わたしと呼ぶもの わたしをやめてしまってもなお それをわたしは決して見ることができない

散歩(2019.11.7)

歯車は きちきちと おのれの場所を ぬかりなく 刻んでいるのですが 時おり その耳に染みついた きちきちという音も その身を削るほどの ぬかりなさも すっかりうっちゃって まろやかに刺すような 月の光に誘われたせいにして ふらふらと 横道にそれては 鼻歌なんか歌ったりして なんの役にも立たない だれの為にもならない どこにも辿りつかない そんな散歩をしてみます もっとも 次の朝には きちきちと ぬかりなく 歯車らしく おのれの場所に かしこまっているのですが

ささくれ(2019.11.30)

指さき 透ける青い静脈に納得がいかなくて ささくれを 引き毟る 滲んだ赤い血としつこい痛み 後悔と安堵を かわるがわる吸っては吐いて ようやく 爪先まで辿り着く 触れられた先から割れては毀れて くつくつと沸き立つ そんなものを信じてはいけない ピルエットは永遠に続かない  永遠? 塔の先に届いたからと言って 胸に誓いをたてたからと言って それはなにごとも保証しない  保証? どれほど疑っても ふたつの 手のひらがあることを 青い静脈に赤い血が流れていることを もう試さずにすむ