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詩とおもう(ステイトメント)

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声明っぽいものを集めました。
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2019年6月の記事一覧

クロニクル(2019.6.29)

紙の辞書で 性的な言葉を手繰っては 白白しく端正に記述された 空空しいフォントによる その定義を疑っていた頃 二千年代の人類は 終末後の僅かな生き残りで 生殖は当局に管理されている というフィクションを 予言のように信じていた頃 するよりもされるほうが 値打ちだという信仰を あげつらいながら それを刷り込まれていることに 身を裂かれて気づいた頃 鏡で見てきた その時時の顔は 常にわたしであり 常にわたしではなかった 掠れて滲んだ黒いひと筆書き ばらまいたものは ばらま

底(2019.6.15)

埋めても埋めても 突き破ってくる 怒りと憎しみと恐れと 埋めても埋めても 湧き上がってくる 悲しみと後悔と絶望と パンドラは それでも希望を残した わたしの箱には底がない 神話ではないから 生きている限り 滾滾と うみ続ける ひび割れた古木の根元から 噴き出す緑の若木 埋めても埋めても 己を終われないことに われ知らず 震えている

紫陽花(2019.6)

紫陽花の花を 両手でおし頂いて 炒り卵みたいに かぶりついたら 梅雨が明けるように この胃の腑も 晴れるだろうか 紫陽花の花の中に 無数の青い星があるのを 見つけた 星を喰らって 星になれたらいい 人でいなければいけない理由は もうなくなったから でもわかっている 人でなくなっても 星にはなれない ただの死体だ いつか死体になって 誰かが弔ってくれるのなら 紫陽花を 紫陽花を 棺に入れてくれまいか

連結(2019.5.20)

せめて という思いで 電車の連結部に立つ そんなことは 誰も知らなくていい ぐらぐらと 不安定な足場を 踏みしめていれば 何となく 有意義な気がするまでだ せめて は誰への 何への せめて なのか そんなことは 誰も知らなくていい 線路の果てを 知る必要がないように 今までも これからも 途中下車し続けるのなら なおさら ぐらぐらと 時折 つんのめったりしながら せめて と呟いて 電車の連結部に立つ