大嫌いな父
8/15 さきほど父が旅立ちました。
昨日からずっと意識がなかったのですが、夕方フッと目を開け呼びかけにも頷いて応えてくれました。
必死に口を開け力を振り絞り、家族へ最後の言葉をプレゼントしてくれました。
**『ありがとう』 **
それが最後の言葉でした。
命の火は大きく揺らめいた後、静かに消えました。
自宅で家族に見守られながら。
あと数時間と言われてから結局1日近く頑張ってたのは、僕達家族の心の準備が出来るのを父は待ってくれたんじゃないかな。
父のことが好きかと聞かれたら、僕は間違いなく『嫌い』だと答えます。
あなたとの楽しい思い出は何一つ思い出せません。
あなたはいつも怒っていましたね。
勉強しろと言われたことはなかったけど、手伝え!働け!とばかり言ってましたね。
おかげで店の手伝いはほぼ毎日させられてました。
うなぎと茶碗蒸しは僕の仕事でしたね。
巨人戦がある日はテレビのチャンネルは変えることは許されませんでしたね。
俺はアニメが観たかったんだよ。
父は生まれて物心つく前に父(僕の祖父)を戦争で失くして、戦後の混乱期は厳しい親戚の家に預けられて、親の愛情を感じることが出来なかったと聞いたことがあります。
あなたは必死に『父』であろうとしていたんじゃないですか?
不安だったんだろうな。思うようにならずに悔しかったろうな。
だから怒っていたのかな?
今となってはもう分からないけど。
優しくて頼れる素敵な父親には程遠い、愛情表現の下手な、不器用な人でした。
せっかちで短気な人でした。
お洒落が好きで僕の着る服によく文句をつける人でした。
我儘で勝手な人でした。
天邪鬼で憎まれ口の多い人でした。
でもたぶん、寂しがりやで愛情深い人だったんじゃないかと思います。
たぶん。今はそう思います。
今でもやっぱり好きじゃない、でも僕はあなたの息子でよかった。
こっちは俺がいるから大丈夫。安心してな
『ありがとう』
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