見出し画像

持たざる者のサバイバル・タロット愚者の旅5

占い婆はシーツを半分に引き裂き
手際よく赤ん坊を包むと、自分の懐に入れ
その上からマントを羽織った。
「サルル、いいかい?よくお聞き。
 この赤ん坊のことは秘密にしな」
「でも婆さん、大奥様はエマがお産すると分かっていた風なんだよ」
「そりゃあそうだろうよ、アタシを連れて行けと言ったんだろ?
 大奥様はお見通しだよ。だから・・・
 だから赤ん坊は死んで生まれたとお伝えしな」
「えっ?だって・・・」
「じゃあどうする?お前さんが育てるのかい?」
「そ、そ、そんな無理言われたって」
「だろ?この子はこの婆が連れてく。
その代わり赤ん坊の瞳の話は誰にも言うんじゃないよ、いいね?!」
「うん、うん、分かってる、言えやしないよ」
「さぁ、もう夜が明ける、今日は春祭りで忙しいんだろ、
さっさとお屋敷に戻って大奥様に報告しな
『エマは難産で、赤ん坊も泣き声も上げずに
母子揃って死にました』
後のことは占い婆が万事片づけましたってね」
サルルは目を見張り占い婆を見つめたが
直ぐ我に返り、お産の形跡を手際よく片付けると
お屋敷に走って戻った。

春祭りとはいえ、まだ早朝は寒い。
占い婆は広い農場を横切り、町へと急いだ。
町に入るには堀に架かった石造りの橋を渡らなくてはならない。
どこの町もそうだが、橋には橋番がいて、違法だと言われようが
通行人から通行料をせびり取っていた。
占い婆は橋に着く手前で野良ネコを拾い、抱きながら橋を渡った。

「おや婆さん、やけに早いじゃないか、お屋敷で美味い飯にはありつけたかい?」
「ちょいと忘れ物さぁ、通しとくれ」
「なんだ手ぶらかよ」
しぶしぶ通しかけて、橋番のユーゴが占い婆の肩を背後からつかんだ。
「婆さん、赤ん坊かい?やけに泣いてるが・・」
無遠慮に腕の中を覗き込むユーゴに向けて
「これだよ、寒さ凌ぎの温石替わりさ」
婆さんは腕に抱いた子猫を見せた。
(やれやれ、ユーゴに弱みや秘密なんぞを握られたら
一生たかられるってもんさ。お前のお陰で助かったよ)
喉を撫でられた子猫はミャアと甘えた声を出した。

橋を背に真っすぐ続く石畳の道は
名実ともに町の中心としてそそり立つ、教会へと続いていた。
占い婆はそこから横道に逸れた。
横道の突き当りは、左右に分かれた路地裏に続く。
其処は石畳などではなく、水たまりにはゴミや
小動物の死骸が転がり、煤や水の腐った饐えた匂いする迷路だ。
占い婆は迷うことなく一軒の家に辿り着きドアを叩いた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?