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持たざる者のサバイバル・タロット愚者の旅 第6話

占い婆が粗末な扉を叩くと
ドアが細めに開いた。
「ハンナ、私だよ」
「あぁ婆さん、こんな朝早くに誰かと思った」
「旦那は?」
「夕べから帰ってない」
「また賭場かい?相変わらずだねぇ」
ハンナは半笑いで占い婆を部屋に招き入れた。
「旦那が留守ならちょうど良い、
 ちょいと頼みごとがあってね、
 この赤ん坊をしばらく預かってくれるかい?」
赤ん坊と聞いてハンナは真顔になり
婆さんの懐に目をやった。
シーツに包まれた小さな赤ん坊を受け取るや否や
ハンナは胸をはだけ赤ん坊に乳を含ませた。
「よかった、まだ乳は出るよ」
愛おしそうに赤ん坊を左から右側に抱き直すと
ハンナはもう片方の乳も含ませた。

「勘弁しておくれ、子供を亡くしたばかりのお前さんに
 こんなことを頼むのは惨いとは思ったんだが・・」
「婆さんらしくもないよ、遠慮だなんて
 アタイも亭主も婆さんのお陰で
なんとか暮らしてるんだ
 この子は先月死んじまったボルの生まれ変わりだ、預かる」
「悪いね、この婆じゃ乳は出ないからさ」
二人は乾いた声で笑うと、無心に乳を吸う赤ん坊を見つめた。

「生まれたばかりかい?やけに小さい子だね」
「ちょいと訳ありでね、早産かもしれないが
 母親はお産と同時に逝っちまって、詳しいことは何も。
 それにその娘っ子は買われて1年も経っていない奴隷さ
 この国の言葉も満足に話せなかったらしいから
 聞いたところでお互いどこまで了解できたか」
「詳しい話は聞かないよ、この子はうちらの子として・・」
「ありがたいけどね、場合によっちゃあ
 ハンナの子として育てる訳にはいかないかもなんだよ」
「えぇ、アタイはもう情が移っちまったよ
 可愛い娘だよ、ねぇ」
愛おし気に赤ん坊の顔を覗き込んだハンナは
「おや?この子の目・・」
「そうなんだよ、青いだろ?しかもよく見ると両目とも半分が青で
 半分が緑なんだよ」
「え?じゃあこの子は・・・」
「そうなんだよ、女ならよかったんだが
余計なモノがついてるのさ」
ハンナはマジマジと赤ん坊の顔を見た。
赤ん坊は満足したのか、小さく欠伸をすると眠りについた。

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