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摂食・嚥下チームアシスタントレポートVol.4「呼吸と嚥下」〜胸郭可動域編①〜

はじめに


 摂食嚥下チームアシスタントレポートにお越しいただき誠にありがとうございます。2021年もいよいよ後半戦を迎えました!皆様にとってはどんな半年間だったでしょうか?自分たちは、この摂食嚥下チームを通して、仲間の大切さを改めて実感しております。一人では、超えられない壁も、仲間がいれば超えられます!もし、周りにそんな仲間がいない!という方は、ぜひこのブログを通して一緒に成長していきましょう!
前回は呼吸機能や咳嗽力の土台となる腹圧(腹部の張り)を高めるため股関節と骨盤に注目してお伝えさせて頂きました!

前回の振り返り


 嚥下障害の誤嚥防止機構のために咳嗽力や呼吸機能を向上させる基盤となる腹圧を骨盤底筋群に関連する「股関節」の視点から見ていくことをお伝えしました。座位では股関節内旋位、臥位では股関節外旋位の方がを骨盤底筋群のが働きやすくなること、また骨盤底筋群は直接触知できないため股関節外旋筋や大殿筋との繋がりで評価・介入していくことの大切さをご理解いただけたと思います。

前回のレポートはこちら

 今回は「胸郭可動域」と題しまして、呼吸と嚥下を胸郭に注目してお話していきたいと思います。

1. なぜ胸郭をみるのか

 嚥下障害のある方は、廃用症候群やサルコペニアで胸郭が広がりにくい方が多く、長期臥床による悪影響が呼吸と嚥下の関係性に及んでいます。

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〈長期臥床の悪影響〉

①立位姿勢では腹腔内にある腸などの臓器は重力の影響で下がっているが、臥床するとそれらの臓器が背側横隔膜の上に乗る状態になり、横隔膜の運動を妨げる。
②支持基底面と接した胸郭は体重の影響を受けて押されて広がりにくくなる。
③不活発による抗重力筋の短縮で可動性がなくなる。
④胸郭が膨らまないので肺活量が少なくなる。
⑤一回換気量が少なくなり呼吸が浅くなる。

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〈呼吸と嚥下の繋がりについて〉

①咀嚼時には鼻呼吸を行っている。
②嚥下反射時には呼吸が止まる。
③嚥下反射の後は呼気になり誤嚥を防止する。
④咽頭侵入もしくは誤嚥をしたときに咳嗽反射が起こる。


このことから
1回換気量を改善することで、食事中も安定した呼吸ができる。
つまり⇒胸郭と横隔膜の動きを出すことが大事ということですね。

2. 胸郭のしくみ(解剖・運動学から)

 胸郭とは 胸椎・肋骨および胸骨で囲われた部分を胸郭といいます。 胸郭は心臓や肺、肝臓などの重要な臓器を守る役目があります。

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上位肋骨はポンプハンドルモーションと言って上下の動きが必要になります。
下位肋骨はバケットハンドルモーションと言って左右の動きが必要になります。

この動きが複合し、胸郭の呼吸運動は、吸気では後方回旋、呼気では前方回旋します。

3. 胸郭可動域評価

  ●視診:姿勢、胸郭の動き(安静呼吸時の動きや上下幅、左右差)
●触診:①骨のアライメント確認
      ②筋の固さや左右差をみる
      ③呼吸時の胸郭に動きに手を添わせて、  
            呼吸パターンやエアー入りをみる
*腹圧や咳嗽力を高める為に、ここでは前方回旋することが大切です。また臨床で多い円背の方は後方回旋(吸気時の胸郭を広げる)が難しい。逆に伸展パターンの方は前方回旋(呼気時の胸郭を狭める)動きがが難しいことが多いです。


[ポイント]
①棘突起と肋骨突起との間の溝(棘突起の一横指外側)に母指を置き肋間に沿わせて手指全体を添え、呼吸に合わせて動きを感じる(上部・下部)
②脊柱起立筋群の第7胸椎付近は固くなりやすいのでチェックする(頸部伸筋群や僧帽筋・広背筋などの付着が影響しやすい)
③手指のみで動かすのではなく重心移動を意識する。また相手の重心と自分の重心位置を合わせ、運動を追従させる。

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4. 実技

〈胸郭モビライゼーション〉

〜背臥位〜
下部は左右交互に、上部は上から、肋骨の方向をイメージして、手のひらで押す。
押された胸郭が弾力で跳ね返ってきたところを邪魔せずに添ってから、再度押す動作を繰り返す(ポンピング) 

少し動きが良くなったら、回旋を意識した方向へも動かす。

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[ポイント]
①はじめに肋骨下部を左右からゆっくりと押して、どこまで動くか最終可動域を確認しておく。
②押す時に、自分の重心を相手に近づけて相手の重心が左右に揺れるのを感じながら動かす。

〜側臥位〜
支持基底面の方の肋骨は止めて、動かす方の肋骨は前方回旋させます。
この動きは呼吸や嚥下だけではなく、腹圧を上げ、寝返り・起き上がり・リーチ動作のような基本動作や生活動作へつながっていきます。

①腹部を把持し矢印の方向に誘導。腹圧が入るかを確認する。

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②肋間筋の収縮を促すように肋間に指をおき、肋間の走行に沿って動かす。

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<リスク管理>
癌の患者さんは、原発臓器や病期によって骨転移がないかを確認し、骨折を起こさないようにリスク管理をする。

まとめ


 今回は嚥下障害の誤嚥防止機構向上させる為に咳嗽能力や呼吸機能を向上に関与する「胸郭可動域」の視点から見ていくことをお伝えしてきました。今回のポイントは以下の3点です。

①胸郭をみる目的は1回換気量を改善することで、食事中も安定した呼吸ができるように胸郭と横隔膜の動きを出すことが大事。
②胸郭可動域の評価では胸郭が前方回旋できるかどうかをみることが大事。
その際の触診では胸郭の動きの妨げにならないようにする。
③胸郭モビライゼーションでは、胸郭の運動の方向を意識すること弾力で跳ね返るイメージを持ちながら押す(ポンピング)することが大事。

おわりに


 同じ嚥下障害に悩む患者様を担当されているセラピストの皆さんに一人でも多く、知っていただき、一緒に嚥下障害を治療していく仲間が増えることを私達摂食嚥下チーム一同願っております。
一人でも多くの皆さんに知っていただけるよう、私達の活動を応援していただけると幸いです。今後も摂食・嚥下アシスタントレポートを宜しくお願い致します。

ごあんない

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