結婚願望
自分の名字に違和感がある。未だに病院で呼ばれるとああ私小林だったわ、と毎回認識させられる。学生時代あだ名をつけられるときはいつも下の名前をそのまま呼ばれる人間だったから余計に自分の名字に馴染みがない。本当は名字で呼び捨てにされている姉御みたいな子に憧れていた。
その名字が松田だったらもっといい、というくらい私は松田という名字が好きである。梅田でも竹田でもない松田。目立ちすぎず地味すぎない、名字の中でも浮かないのに単体でも十分成り立つ。名字について他人に聞いてみると案外みんな意見を持っているものなのでぜひ聞いてみるといい。ある人は、特殊な名字が故に、応募類は一切できないらしい。万が一に当選した場合、名字が出て本人が特定されるのを恐れているのだ。またよしのちゃんという友達は、運命の相手が吉野くんでないことを願っている。ここまで名字に振り回される人は稀であるが、私にとって松田は憧れであった。
先日姉が結婚した。以前から付き合っていた同い年の彼氏ではなくて、私の知らない間にできたらしい10個上の男だった。はじめまして松田です。初めて家に来たとき名乗った名字は私が求めていたものだった。10個上にもかかわらず姉のペースにいつも巻き込まれているのだろうなと想像できる松田さんは優しい人であった。小林から松田に変わった姉はなんだか生き生きしているように見え、残された小林はまだ私兄父母の4人で優勢なはずなのにちょっと気まずかった。父が作った料理を遠慮せずに食べる松田君。初めての彼女の家のくせしてもりもり食べる姿はなんて素晴らしんだ、と父は松田を認めたらしかった。
私も早く平凡な小林から松田になりたい。私の中の小林を人工淘汰して姉の旦那の松田と姉の松田と私の未来の松田さんと四人で遊ぶんだ。ということで松田求む。
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