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朱鞠内全三話

#2
「今まで鶏と関わったことはありますか」
今年の九月、鶏にエサをあげる係を任せられた私にTさん(M夫妻の息子さん)が聞いた。不思議な質問に戸惑っていると、Tさんは続けて聞いた。
「どんな関わり方されたんですか」


2020年師走、再び朱鞠内を訪れた。ちょうど芋とかぼちゃの出荷作業の忙しい時期であり、磨いては箱に詰める作業をやっていた。朱鞠内では師走の時点で屋根の雪おろしをする必要がある。毎日忙しく過ごしつつ、その空いた時間で鶏を捌くことになった。
夏に来た際には九羽いたのが、六羽に減っていた。雪の降る前に彼らのハウスを小さくしたせいでストレスが溜まったせいか、ケンカが起こり死んでしまったそうだ。
夏の一週間は、私が鶏の世話を行っていた。朝と昼にご飯をあげ、水をあげ、産んだ卵を回収するのだ。

鶏たちは食欲旺盛であった。鹿肉、いろいろな栄養が混ざったフード、M家族が育てた有機野菜のハネ品などを食べていた。特に鹿肉が彼らの大好物で、ばら撒くと一斉に集まり、瞬く間に消えた。私が様子を見て鹿肉をあげないでいると、催促するように私に飛び乗ってきたり、足をつっついてきたりするやつもいた。
生意気に、トマトとズッキーニは好きなくせに、ナスにはあまり群がらなかった。

Pm5時半。
六羽の鶏を順番にしめていくときがやってきた。一人が暴れないように体を持ち、一人が紐で首を横に押さえつけながら斧で切る。

目を見開き何か悟るもの、静かに観念したかのようにうなだれるようなやつ。九羽のうち唯一の雄鶏は、ちょん切る直前なにかを感じ取ったように暴れ出した。それをたしなめるように、願うように、力強く押さえつける。首を失った鶏は、そのまま手を離すと走り出してしまうらしい。バサバサとものすごい力で抗ってくる鶏をそのまま雪の中に突っ込む。頭を下にしてそうすることで血抜きも行える。首をちょん切っても体が動くというまか不思議さ。

六羽分の首をちょん切り、沸かしておいた鍋のお湯に潜らせて、羽をむしりとる。羽の部分は結構硬いので、ペンチを使って綺麗にとっていく。二十分くらい夢中でとっていると、見慣れた鳥の肌になってくる。

それが終わるとついにもも肉、むね肉、手羽、臓器類をわけていく作業である。 

解体していると外側だけではわからない事実がたくさんある。鶏は一日に一個卵を産む。私も夏の間みんなが産む卵を毎朝楽しみに小屋に行っていたものだ。その卵は、体の中で生成されていて、黄身の状態のものがお腹に五、六個あった。すごく小さいものから、もう明朝には出る寸前のような卵。それは薄い殻ができ始めている。確かに、今ちょうどウンチが出そうだったやつも、ちょうど卵を産もうとしてたやつもいたかもね。鶏の都合もあったろうに、と思った。六羽分の肝臓(レバー)、心臓(ハツ)、砂肝を食べた。それらは突然焼き鳥屋に出現するわけではなくて、鶏の中から現れる。
また鶏の喉元には一時的に食べ物をしまっておく袋状の食の貯蔵庫がある。そこには食べたばかりのエサやそばの実が詰まっていた。

手羽、胸肉、モモ肉、臓器類に分けるとあとは残りの骨をスープにするために煮込む。

私が家でパパッと料理で使っている鶏ガラスープの粉末は、この鶏のガラ、であったのだ。私は今までなにを鶏ガラだと思っていたんだと恥ずかしくなった。
二日間煮込んだ鶏ガラスープは美味しすぎた。鶏、本当うまかった。

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