旅について

成田空港で、日本食をなんとなく食べてみる。とりあえず食べておく感。私たち、死なないよね。たかが学生の旅なのに私は友達とインドに行く前こんな会話をした。2017年夏
「私たち。これから楽しい旅するんだよね」
「そうだよ。旅行だよ、楽しい友達との」
念入りに確認しあった。中国とタイの先にある国インド。一人じゃないからって安心、とはいえない未知への不安があった。北京でトランジットをしたとき、中国人の団体、祖国に帰るインド人に私たちの不安はさらに膨れ上がった。
「あの人たちインドが祖国なんだよ」
「いいなあ」

25リットルのバックパックには詰めた服や地球の歩き方や本が入っている。バックパックは4キロ以内を目指すが服より本の方が多いときもある。南京錠を買い忘れるため、探検用に買ったカラビナや、ヒモなどでリュック周りを固めてそれを背負う。私は東京に行くときも同じバックパックでcityも旅もどちらも使うことを自慢と思っている。元々荷物が多いのが好きではないのでこれくらいでちょうど良いと思いながら、ヨーロッパに行ったときは、自分の小汚さと夜に食べる美味しい料理のアンバランスさにウケる、と思った。


飛行機が動き出し、ゴオオオという音とともに上昇して行く。私もそれにともなって地からエネルギーが湧いて来る。いくぞおおおおという思いのまま天までいく。心がほとばしる。このとき一瞬だけこのまま死んでも大丈夫と思う。そのまま突き抜けたいと思う。


空港について案外簡単にバスに乗れ、宿に着く。自分をもう少し信頼してもいいなと元気が出る。でも一日目の宿は怖い。絶対に泣く。怖い、なんでこんなところに来ちゃったんだろう、と遠くの日本を思う。家族を思い出したとき、一度兄の姿が小学生のときの状態で思い出された。時間も距離も遠く歪んだ。

どこからかモワアと浮かんだ「インドへ行く」という思念がいつのまにか確信に変わって気づいたらインドにいる。私はその自分の突飛さに呆れながらも、毎日チャイをいっちょまえに3杯飲む。

そして気づいたら今はもう日本の家にいる。日常に戻りあのときのことは嘘なんじゃないかと思う。あんなに楽しかったこと、が遠いものなのに、それが今続いていないことが不思議であった。初めてインドに行ったとき、日本に帰ってからもしばらく思いはあちらへ行っていた。もうあの頃に戻れない。あのときの私よかったねえインドに行けて、と何度も励まし、またきっと行きたいなと何度も思うのだろう。


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