臭気判定士になるための,嗅覚検査を受けてみた


以前,『臭気判定士』という資格について書きましたが,その資格を取るためには嗅覚の検査を受ける必要があるとのことで,ま,ペーパーテストの方は合格しましたので,ちょっと行ってみたわけです.
ふつうの嗅覚があることを試す検査ですので,喫煙者を除けばだいたい合格するとのことでしたが,実際に受験するとなるとやはり緊張します.
先に言い訳をしておきますと,当日は鼻が凍り付きそうな寒さで,しっかりマスクとネックウォーマーで温めながら向かわねばなりませんでした.
直前に暖かいお湯を飲んで鼻腔に湿気を与えようとポットのお湯を持って行きましたが,直前に口に含んだところ,猛烈な熱さで舌を火傷してしまったのも誤算でした.
試験官と一対一で向かい合って座るわけですが,相手が若い女性だったのも想定外で,余計な神経を費やしてしまって集中できませんでした.

検査には,幅が7ミリぐらいの短冊状の,吸取紙のような紙片が使われます.これらを5枚,扇形に広げてクリップで留めたものを持たされます.そのうちのどれか2枚にはにおいが付けられていて,嗅ぎながらどの2枚が匂うのかを当てるというものです.いわば連勝複式というやつでしょうか.

5種類のにおいについて次々に実施されるのですが,原則として全レースで的中させなければなりません.もし,外した場合は,1種目だけなら,敗者復活戦のようなものに参加させてもらえますが,そこで2連勝しなければならないという,なかなか厳しい状況に置かれます.

5種目のにおい物質はあらかじめ決まっていて,3つは好ましい香りですが,2つはクサいにおいです.
クサい種目のひとつ,『イソ吉草酸』というのが最も心配でした.嗅覚も年齢とともに次第に衰えるわけですが,顕著に現れるのがこれの感知能力なのだそうです.「汗でむれた靴下のようなニオイ」とされていますが,そういえば最近自分の靴下が,あまり匂わなくなったような気がします.以前はもっと臭かったはずで,飲み会などに参加して会場が座敷だったりすると弱ったものでした.
練習のために,数日間同じ靴下を履き続けて匂ってみたりもしてみましたが,あまりイソ吉を感じません.わたしは目が悪いのですが,嗅覚もいよいよだめかと不安になっていました.
もうひとつ,『スカトール』という種目もあり,これは糞便のニオイとして有名です.おならの成分は,ほとんどが窒素や水素などの無臭のものらしいですが,このスカトールがわずかながら含まれているがために,あの臭気になるのだそうです.
ただ,これは百合の花にも微量ながら含まれているとのことで,量によっては好ましい香りになり得るようです.人前では,一気に大量に出すとクサがられるでしょうが,少しずつ小出しにすると「百合の花のような素敵な人」と思われるかもしれません.微妙なコントロールに自信のある人は試してみられるとよいでしょう.

ちなみに,検査には使われませんが『酢酸エチル』という有機化合物があり,これはウイスキーの香りの重要な要素です.エタノールと酢酸が結合したものらしく,いかにも熟成の過程で起こりそうな変化です.酢酸は,エタノールの酸化でも生じますが,樽材から溶出するものが多いようです.パイナップルのような甘酸っぱくフルーティな香気で,シングルモルトの銘柄なら『グレンモーレンジー』によく感じられます.
しかし,これは環境省が22個指定している『特定悪臭物質』のひとつでもあります.量によっては悪臭公害の原因になってしまうようです.確かにシンナー臭がしてしまっているウイスキーもあるにはあります.

さて,そんなことはともかく,結果としては合格できました.イソ吉も,スカトールも,十分に匂うことができて,なんだか嫌な気分です.ただ,花のような好ましい香りとされる種目が,とても判別しずらくて焦りました.よい香りには普段から縁がないからでしょう.けっこうギリギリの合格だった気がします.
これで,晴れて環境省が認める臭気判定士になれるようです.

(ひろかべ)


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