川崎港海底トンネルを歩いて渡ろうとしてみた(2/2)

「川崎港海底トンネル」を東扇島から内陸に向かって歩いて戻ろうとしているわけですが,道中で困るかもしれないと思い,公園の中にあるトイレに寄ります.最近ではもう珍しくなった古いトイレの匂いを大量に吸い込むことになります.ほとんど管理されていない感じです.

さてトンネルの入口小屋から階段をどんどんどんどん降りていきますとようやく目当てのトンネルを見ることができます.幅が3mぐらい,高さも3mぐらいでしょう.四角い穴が延々と奥へ続いています.天井には蛍光灯が点いており,床はなぜかピンク色に塗られています.
ここにたどり着くまでが大変でしたので,もうすっかりくたびれていました.それでも,なんとしても生きて帰るために歩き始めます.そう,最後の人間かもしれない自分には人類の未来が託されているのです!

「歩行者専用です.自転車は降りてくださいっ!」
といったアナウンスが30秒に1度ぐらい響きます.久々に聞く人間の声かと思いましたが,違うかもしれません.とても機械的な女性風の音です.両横の壁から車が走るような音が聞こえてきます.どうやら双方向に向かう車道に挟まれた位置に,この人間用の通路があるようです.

最初のうちは緩やかな下り坂です.ただひたすらピンク色の床を進み続けます.人っ子一人いません.黙々と歩いていると,ちょっと不安になります.景気づけに歌でも歌ってみようかという気にもなります.曲はもちろん,ジャニス・イアンの「ユーアーラヴ~復活の日」です.
やがて床は平らになります.

ひたすら誰もいません.日本人はもちろん,物見高い外国人観光客ですらここでは見かけません.さすがに怖くなります.こんな時に停電したら… とか,地震が起きて海水が入ってきたら… とか,嫌な想像ばかりしてしまいます.もしそんなことになったら,きっと冷静さを欠いてまたまた愚行を重ねてしまうのでしょう.そもそも今歩いていること自体が愚行だと思うわけです.

誰もいないのは嫌ですが,もし誰かが歩いてきたらもっと怖いことに気付きます.自分で言うのも何ですが,こんなところを歩くのは変な奴に決まっています.
幅3メートルでは逃げ場はありません.今,前から来られたら全力疾走で戻れば先に脱出できるかもしれません.後ろから来られたら,まだ前途は長いので逃げ切れないでしょう.その場合は,もう戦うしかありません.せめて傘か何か持ってきておくべきだったと後悔します.海底トンネルの中で殺されたら,文字どおり浮かばれません.

そんなことを考えていると足もどんどん速まります.
やがて上り坂になり,ついに上り階段に到達です.15分ぐらいの距離のはずですが,もっともっと歩いた気がします.もう心身とも疲れ切っていますが,ヒィヒィ言いながら階段をよじ上り,ようやく地上に戻ります.

太陽が眩しいといった劇的なことは,特にありません.その日は曇りでした.達成感のようなものも,ほとんどありません.
やはり鬱蒼とした公園を抜けてバス停までたどり着きますと,スーツ姿のビジネスマンがバスを待っていました.久しぶりに人間を見ることができてかなり安心しました.

まさかとは思いますが,この駄文を読んで自分も行ってみようと思った奇特な人へのアドバイスを書いておきます.

・バスは,何としても「JERA川崎火力発電所前」で降りること.
・バス停の右前方にある公園に入り,かなり奥にある白い小屋状の入り口を見つけること.
・その後はグズグズせずに,ただひたすら歩くこと.
・東扇島に出たら,島内を歩き回ることは絶対に考えないこと.(後に島内にコンビニがあることを知りましたが…)
・なるべくトイレにも寄らずにさっさとトンネルを引き返すこと.
・念のために武器を持っていくこと.

(ひろかべ)

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