見出し画像

見栄

私達は社会で生きていく上で意識して様々なキャラクターを演じています。同じ人が家ではお父さんや夫、会社では上司や部下、社会では親戚や取引先やご近所など場面によって色々な立場があります。その中で、相手によって異なった自分を演じています。少なくとも会社でのキャラと家庭でのキャラは大抵の人の場合、異なっているように思います。

見栄とは

英語で人間をpersonと言いますが、その語源はラテン語のペルソナから来ているそうです。ペルソナとは仮面という意味ですから、人間とは仮面をかぶっている生き物であるということでしょう。私達は色々な自分を様々な人の前で演じています。これは役割もありますが『よく見られたい』という見栄からも来ています。

そしてこの見栄を満たすために私達は場所や相手によって仮面をかぶり分けています。色々な仮面を使い分けられるようになると『大人になったな』と言われます。

でも見栄を張ってあまり仮面をかぶり過ぎると素顔の自分が分からなくなります。自分の素顔が分からなくなると自分が何者かまで分からなくなり、自分が本当に望んでいる事や自分が本当にやりたい事を見失って、悪くすると生きる力まで失ってしまう事もあります。

見栄で始められた仕事であっても自分の成長すべき方向が見えてくる事はあります。無理な仮面をかぶり過ぎると窒息しそうになる事や、あまりに重い仮面だと肩が凝りそうになります。その意味では見栄は過ぎると私達を生き辛くさせます。人は見栄によってなかなか仮面を外せません。でも自分らしく幸せに生きる為には時には顔にこびりついた仮面を外してみる事も大事です。

創業した頃

会社を始めた頃は一人でしたから会社として期待に応える大きな力があるはずありません。それでも会社として立ち上げるには頼りない小さな会社だと思われないように、精一杯の見栄を張っていました。創業前から海外のプロジェクトを扱っていた為、各分野でのプロを仲間として集めないと目指している仕事は自分だけの力では進められない事は分かっていました。

その頃特に重要だと思った自分に求められる能力は仕事全体を俯瞰してゴールするまでの工程をシュミレーションする創造力と仲間造りにも必要な情報の発信伝達力です。そして仕事を成功に導く意志に基づく気迫です。ついて行ったら勝ち組に入れると思ってもらわない限り、誰からも見捨てられます。大企業に所属しているサラリーマンは概ね農民兵と似ています。その頃は戦国時代の武将や喧嘩が仕事のヤクザの親分と似たような気持ちになっていた気がします。

初めてのTV中継車の納入

納入式典はTV中継されました

創業5年目で総勢10名にも満たない頃、詳しくは別の記事に書きましたが、たぶん見栄から始まった総額2百万ドルでフィリピンの民間放送局向け大型TV中継車を受注/納入しました。要望された納入期限が5か月後に予定されている新大統領の就任記念に使うという事で、受注後4か月で製作完成して納入する事が条件でした。

この条件に応じる事ができる会社は世界中にほとんどありません。先ず当時日本で左ハンドルの10tトラックのシャーシの納入に必要な時間が2か月、自動車の枠造りと機器の設置に必要な期間が4か月という事でしたので、最短でも合計6か月は必要です。

その記念日に間に合わせると言わなければ受注できないという事でしたので、誰にでも出来るような仕事のやり方では注文は取れないと考え、とにかく『間に合わせます』と答えました。これだけでも当時かなりの見栄を張っていたと思います。

受注を確定させた後でメーカーや製作に必要な関係する会社に協力頂き、製作時間短縮に取り組みました。あの時、見栄を張っていなかったら受注出来てなかったし、また関係する会社の協力が得られなかったら、とても納期を守れなかったという案件でした。見栄を張っていた分、無理もしましたが、見栄のお陰で協力頂けた多くの会社とも強い絆が出来た事は次の案件にも結び付く大きな経験と会社としての財産になりました。

この案件で関係が深まった取引先は、放送局・銀行・放送機器/自動車メーカー・運送会社・海運会社・設計会社・車体の施工会社・等々多岐にわたる業界があり、見栄から始まったとしても初めての大きな作品として時間内に仕上げられたのは人知を超えた力の導きによって奇跡が生まれたのだと振り返ってみて思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?