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追悼 千葉真一

千葉真一さんが亡くなられた。先日40代の大学で働いている方と話をした時「千葉真一の代表作って何でしょうね?」と聞かれたからから、「それはやっぱり「キイハンター」でしょうと答えたが、40代の人は「キイハンター」は全く見たことがないということだった。「仁義なき戦い広島死闘編」は代表作になるが、主演映画ではない。「沖縄やくざ戦争」の国頭も代表作になるかもしれないが、主演ではない。主演映画と言うと79年の正月映画「戦国自衛隊」まで千葉真一は主演映画がないのだ。では、この間の千葉真一はどういう活躍をしていたのだろうか?
「キイハンター」でお茶の間の人気が出た、千葉真一を岡田茂が放っておくはずがない。「キイハンター」の軽妙で身体を張ったアクションが出来るスター性のある俳優千葉真一を活かして企画されたのが、「やくざ刑事」シリーズだ。もちろん、この映画をリアルタイムでは見ていないが、何本か新宿昭和館で見た。キャラクターは「キイハンター」の風間さんそのものの、潜入刑事ものなのだが、千葉真一が女装したり、とにかくおちゃらけたキャラクターで、おそらく東映の意向だったのだろう要らないお色気シーンも無駄で、決して出来のいいシリーズではない。1作目、2作目が野田幸夫で3作目4作目鷹森立一。その後、路線を変えて「狼やくざシリーズ」が作られる。これは、「続荒野の用心棒」のフランコ・ネロそのものの扮装で現代の東京に現れる、復讐もので、クライマックスに両手を潰され、アクロバティックな銃撃で相手を倒すなど、とことん「続荒野の用心棒」を踏襲しているが、これは「キイハンター」のマカロニウエスタン企画から派生したものと思うが、エロ要素も少なく、この時期の千葉真一の映画の中では一番面白い。2作目は監督を日活の斎藤武市に変えているが、あまり面白くなかった。
これらの「キイハンター」派生映画から「殺人拳シリーズ」まで、千葉真一の低迷期は続く。
梶原一騎原作の「ボディガード牙」シリーズ、菅原通斎企画で、日本三悪撲滅運動企画の「麻薬売春Gメンシリーズ」香港と合作でノラ・ミヤオも共演した「東京・ソウル・バンコック実録麻薬地帯」等、当時ポスターを見ると、千葉真一のアクション風のデザインの中にエロ要素が加わって、完全にC級映画の作品群だった。中島貞夫監督の作品も含まれていて、最近アマプラで全作見直したが、特筆すべき映画はない。低予算が見え見えで、尚且つそれを逆手に取る工夫もなくヤクザ映画の併映作として消費されていた。
そんな中、ブルース・リーの登場によって日本でも千葉真一主演のカラテ映画がエロ要素抜きで作られるようになった。ここから始まる作品群が海外でも、特にアメリカのマイノリティたちの間で評判となり「サニ千葉」の誕生だった。このカラテ映画は小沢茂弘の「激突殺人拳」も石井輝雄の「直撃地獄拳」鈴木則文の「少林寺拳法」どれも活劇の要素をふんだんに盛り込んで面白かった。C級映画からB級映画のスターになった。一方で先に挙げたような実録やくざ映画で、カッコイイチバチャンのイメージをかなぐり捨てた役を多く演じるようになる。
俳優の諏訪太朗氏から聞いた話だが、「沖縄やくざ戦争」の国頭は、ゴダールの「勝手にしやがれ」のベルモンドの演技を参考にしたと、特に最後死ぬとき「手を使わずに頭から突っ込んで死ぬ」を再現したんだと、諏訪さんの前で再現してくれたそうだ。
とは言え、それでも東映映画のファン以外に、千葉真一を知る人は少なかったと思う。その千葉真一を、お茶の間にもう一度引き戻したのが「柳生一族の陰謀」であり、そのテレビシリーズだ。千葉真一の柳生十兵衛は、他にも「柳生あばれ旅」等でも人気となり、「影の軍団」も好調。角川映画が「戦国自衛隊」「魔界転生」と主演映画に起用して、おそらく俳優としてのピークはこの時代だったのではないだろうか。
その後、真田広之、志穂美悦子を輩出して、JACで千葉真一はアクション俳優だけではなく後進の育成にも励む人として認知され、「戦国自衛隊」「百地三太夫」ではアクション監督に挑んだ、とりわけ、鈴木則文監督の力もあったと思うが、「百地三太夫」は見たことのないアクションとソクブン演出が合いまった傑作になった。
しかし、角川映画でスターになりJACが成功し始めてから、千葉真一は単に役者ではなく、アメリカ進出を夢見る人になっていった。
中島貞夫監督が述懐する「「役者の仕事に絞っていたら、苦労せずに済んだでしょう」と。一時期も僕もJAC全盛期にマネージャーだった方から聞いたが、真田広之、千葉真一主演で「キイハンターのリメイクを何度も東映から打診されたが、千葉真一がプロデューサーとして参加することを譲らず、実現化しなかったと。
80年代後半以降、JACを売り渡して以降の悪評はたくさん聞いたが、それは書きたくない。
やはり千葉真一は役者として生きてほしかった。
数年前、辻さんのVシネに共演した妻は、その時魚卸市場の女将の役で、千葉さんは元やくざの板前、魚を売って帰る千葉さんの背中に「ありがとうございました!」と声をかけると、振り返って笑顔で手を振ったその顔は、年老いてもなおまだあの皆が大好きったスター千葉ちゃんの笑顔で妻は感動したという。
映画界の様々な時代に翻弄された人だったと思うが、やはりスター千葉真一として送りたいと思う。
沢山の映画で、勇気を貰った。ありがとうございました。 

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