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読む『対談Q』 水野良樹×武部聡志 第4回:探し続け、見つけ続けることがロマンティック。

HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されている『対談Q』。こちらを未公開トークも含めて、テキスト化した”読む”対談Qです。

今回のゲストは音楽プロデューサーの武部聡志さんです。

前回はこちら


日本の音楽が世界的に評価されないジレンマ。


武部:日本でポップスというフィールドで我々、仕事してきてさ。悔しいのはこういうものがワールドワイドに評価されないっていう。

水野:はい、はい。

武部:悔しい思いをずっとしてきている。次の今の若い世代に、是非ともそういうワールドスタンダードな作品を作り上げて、世界に打って出ていってほしいと思うんだよね。

水野:僕は自分のルーツとして、J-POPという言葉で括られるものにすごく影響を受けていて。日本的なメロディーというか、ユニークなものって、絶対に世界で受け入れられるはずだと思っているんです。それは広がってほしいですよね。

武部:そうだよね。「言葉のせいじゃないか。だから英語でトライしよう」とか。「サウンドのせいだろう。サウンドを全部向こうのエンジニアやミュージシャンでやろう」とか。今までも様々なトライがあったと思うんだけど。僕の考えとしてはね、日本人であることを強く意識した作品じゃないと世界では評価されないんじゃないかなと思う。

水野:だからやっぱり「上を向いて歩こう」とかの成功例が。

武部:そうなんだよね。

水野:あの曲はいろんなヒントを持っている気がして。今、武部さんがおっしゃっていたように、日本人である、日本でスタートしたっていう大事な部分を持っている。その一方で、和洋折衷でもある。

武部:うん。ドレミソラドで出来ているメロディーだけれど、サウンドは戦後の匂いのするちょっとジャジーな洋楽のサウンドでもあるし。

水野:外のものを取り込んで自分のものにしてしまうのも日本のすごいところだと思っていて。独自の唯一のユニークなものを作る。「上を向いて歩こう」って意外とそれな気がしていて。

武部:映画とか建築とかファッションとかって、世界的に評価されているひとってすごくいるじゃない。だけどなぜ音楽が世界的に評価されないのか、すごくジレンマを感じる。世界に届けたいっていう姿勢がないのかな。どうなんだろう。

水野:いやぁ…。憧れがありすぎるんじゃないですかね。まず洋楽に追いつこうみたいな瞬間が、もっと前の時代からあって。

武部:洋楽コンプレックスみたいな。俺らもあったしね。

水野:最初のスタートラインを考えれば、すごく乱暴な言い方をすると、本物があっちにあるみたいな図式ではなくて。よくよく考えたら、こっちに本物がある。でも踏み切る自信というか、そこが難しかったんですかね。でも、今20代前半から半ばぐらいのトップのシーンにいるようなミュージシャンって、デジタルネイティブで。

武部:そうだよね。

水野:情報の時間差もなく。なんなら60年代の曲を最新の曲と同じ土俵で聴いている子たちばっかりだから。さらにもう一歩、世界に近づいているというか。


残っているひとって、みんなワンアンドオンリー。


武部:よい音楽家、難しいよね。でもさ、我々が仕事をともにしているミュージシャンとかアーティストとか、同じような志を持っていたり、同じような価値観を共有できたりするじゃない。だからみんな僕から見れば、よい音楽家だし、素晴らしい音楽家はまわりにいっぱいいて。自分も負けないようにしなきゃなって思うよね。

水野:武部さんのなかで、理想とされるのはどこなんですか? どういう音楽家でありたい、どういう音楽家になりたいみたいな。

武部:うーん。ミュージシャンとしてはね、自分はテクニックがないのがわかっているから、一音でひとを泣かせられるような音を出したいなって思う。ってずっとやってきたし。1個コードを弾いただけで、「あ!」って思えるような響き。そういう響きが出せるピアニストというか、ミュージシャンになりたいなと思っている。

水野:はい。

武部:プロデューサーとしては、さっきの「ハナミズキ」の話じゃないけれど、そういう普遍性を持った作品をあといくつ作れるかなって。こればっかりは、無理して作るようなもんでもない。タイミングや偶然やアーティストのリレーション、いろんなことでふっと生まれるから。自分が現役でやっている間に、それを作りたいっていうのはいちばんの夢だよね。

水野:すごい…。それを追いかけたいですね。

武部やっぱり残っているひとって、みんなワンアンドオンリーというかね。そのひとにしかできないことを極めたひとたち。ユーミンも吉田拓郎さんも。山下達郎さんも小田和正さんも井上陽水さんも、そのひとにしかできない世界を形にできたひとだと思う。だからみんなが憧れるし、フォロワーがいっぱいいる。一青がデビューするときに、「それを一緒に見つけような」って話したの

水野:なるほど。

武部:要するに、誰かのモノマネとか、誰かのフォロワーじゃなくて、一青窈ってジャンルを作れるような、そういう音楽を作ろうねっていうところでスタートしたのね。そういう思いってすごく大事だと思っていて。ともすれば、憧れているひとのコピーで終わってしまう瞬間があるからね。

水野:わかります。「ハナミズキ」はまさに一青窈さんじゃないと。

武部:彼女じゃないと書けない詞だったと思うし、彼女じゃないと歌えない歌だし。いろんなひとがカバーしたりもしているけれど、僕が弾いて彼女が歌ったときがいちばんいい。それを超えるものはないと思っている。

水野:前に一度だけ、小田和正さんと曲を作らせていただいたんです。もちろんたくさんダメ出しを受けたんですけど、途中で気づいたことがあって。コードの運びとかメロディーのニュアンスとかで、「~風」みたいなものが一瞬匂うと、それをめちゃくちゃ嫌うんですよ。

武部:あぁー。

水野:ちょっとありがちな雰囲気とか、そういうところ必ず突っ込んでくるんです。それは今、武部さんがおっしゃったように、「このひとはこの形じゃないとありえない」というところに向かおうとしていたんだって。普遍的なものとかワンアンドオンリーなものを作り上げたひとは、必ず自分にしか出せない何かの形を、見つけようとされているのかなって。


「やーめた」っていうのは簡単だけど…。


武部:そうだよね。これはゴールがないんだよきっと。だからみんな現役で続けているんだと思うし。そこで、「やーめた」っていうのは簡単だけど、それを探し続けたり、見つけ続けたりすることが、ロマンティックなんじゃないかなと思う。

水野:それを45年のキャリアを持つ先輩に言っていただけると、めちゃくちゃ下の世代の励みになります。

武部:とにかく続けることしかないもん。続けるなかでしか見えないから。なんか今日は偉そうなことばっかり言ってるね。

水野:いやいやいや。先輩に、「続ける」ってことを言っていただけると、やっぱりロマンを見続けられるんですよね。背中を追いながら。

武部:いきものがかりもさ、何ステージ目かに来ていると思うの。

水野:山下もいなくなっちゃったし。新しい形に。

武部:新しいステージに立ったときに、どういう作品で、どういうパフォーマンスで、どういった届け方をしていくのか、すごく楽しみだよね。

水野:頑張ります。またおもしろがっていただけるように。

武部:音楽ってさ、その年齢じゃないと届けられないものとかもあるじゃない。聖恵ちゃんも今の歳だから歌える何かもあるだろうし。だからすごい楽しみなんだよね。

水野:さぁそういうわけでございまして。「良い音楽家とは?」というテーマから、本当にいろんなところで深いところにたどり着けたんじゃないかなと。貴重な話を伺いました。今日のゲストは音楽プロデューサーの武部聡志さんでした。ありがとうございました!

武部:ありがとうございました!


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