読む『対談Q』 水野良樹×Mr.シャチホコ&みはる 第1回:マネしたくなるマネをしろ。
一般のひとがマネできるようになったら勝ち。
水野:さぁ対談Qです。ゲストの方とひとつのテーマを一緒に考えていただこうというコーナーです。今日のゲストはモノマネ芸人のみはるさん、そしてMr.シャチホコさんです。よろしくお願いします。
シャチホコ&みはる:よろしくお願いしまーす!
水野:アッコさんで来てくれた!
シャチホコ:もはやこれが正装だからね。これじゃない私はMr.シャチホコじゃないから(笑)
水野:シャチホコさんには以前、いきものがかりの番組にも来ていただいて。アッコさんのままお話していただいたり、いろんなことやっていただいたんですけど。今日はご夫婦でみはるさんにも来ていただいて、ありがとうございます。
みはる:ありがとうございます。
水野:いきものがかりのデジタルライブにも出ていただきました。
みはる:観ました、もちろん。
水野:吉岡が、「どうやって歌っているんだ」とか、「どういうふうにマネしているんだ」とか質問攻めして。シャチホコさんがアッコさんの感じでいると、僕らが逆に緊張してしまって(笑)。
シャチホコ:でも、ご安心いただいて。もう、この格好のまま普通に喋るっていうのもいけます(笑)
水野:今日はですね、僕が聞きたいところがありまして。プロのモノマネ芸人のおふたりは、シンガーの方やタレントさんをマネしようと思ったとき、どういうところを見ていらっしゃるのかなと。
シャチホコ:多分、時代で変わっていると思うんですよね。たとえば声からマネるひと、見た目から寄せるひと、ひとによって違うと思うんですけど。もう時代の移り変わりが激しすぎて。YouTubeが流行り出す前までは、ひたすら本人のコンサート行ったりね。
水野:はいはい。
シャチホコ:とにかく実物を見て、立体的に捉えるっていうのが主流でした。でも今の時代はデジタルになっちゃったので、いつでもどこでも動画でチェックできる。モノマネ自体の精度が全体的に底上げされていて。いわゆる正統派と言われているひとたちが悲鳴を上げるぐらい、上手な一般のひとたちが増えちゃったんですよ。
水野:なるほど。
シャチホコ:プロじゃないひとたちでも声を上手にマネられる。本人そっくりにするハードルが下がってきているんですよね。じゃあ、どうやってプロと素人の差をつけるか。それはやっぱり「どこを見るか」。まぁ「どこを見るんですか?」って訊かれて、「どこを見るかなんですよ」って哲学的なこと言っちゃうんですけど(笑)。
みはる:ね(笑)。
水野:どこを取り上げるかみたいな。
シャチホコ:そうです。武田鉄矢さんのモノマネをするとき、ものすごく誇張するひともいれば、誇張しないひともいるんですけど、どっちも正解なんですよね。
水野:なるほどなるほど。
シャチホコ:「あのひとのやる武田鉄矢はこうだよね」っていうのが、一般のひとがマネできるようになったら、勝ちというか。
みはる:マネのマネね。
シャチホコ:マネのマネをされるようになって初めて、そのひとのオリジナルというか。
水野:へぇー!
シャチホコ:だからアッコさんの、「君は何をされている方なん?」っていうのを、周りの一般の方々が、「アッコさんのマネ」ってやっていたらもう、「よっしゃ!」ってなるわけです。
水野:それぐらいわかりやすくデフォルメして、それが一般化すると、モノマネが普及したと。
シャチホコ:そうですね。ホリさんはよくモノマネのアドバイスをくれるんですけど。いつも言っているのは、「周りのひとがフレーズをマネしたくなるマネをしろ」って。本人そっくりなのも、ひとつの芸術としてすごいんですけど。マネしたくなるモノマネを作ったひとは跳ねる傾向にある。
水野:ほぉー。
シャチホコ:キムタクさんのモノマネについても、いつもホリさん、「俺なんか別に似てねぇよ」とか自虐でおっしゃるんですけど。でも、みんながゲラゲラ笑って見てる。「ちょ、待てよ!」とか、マネしたくなるじゃないですか。
みはる:うん。
シャチホコ:山本高広さんの、「来たー!」とかも。そういうキラーフレーズだったり、動きだったり。誰かのモノマネをやったとき、「それホリさんのじゃん!」ってみんなが言うぐらいキャッチーなものっていうか。それを探す毎日ですね、僕らは。
語尾3秒気をつけなさい。
水野:結構、先輩からのアドバイスとか情報交換があるんですか? それこそみはるさんは先輩じゃないですか。
みはる:一応、家にいるときは、「こういうふうにやりたいんだけどどうかな?」みたいな話はしますね。
水野:ご夫婦の会話はやっぱりモノマネ中心になるものなんですか?
シャチホコ:なりますね。それぐらいしかむしろ話すことが…。
みはる:そんなことはないよ! 夫婦の仲悪いみたいになっちゃうから(笑)。
シャチホコ:違う違う(笑)。やっぱりいちばん好きな趣味がモノマネだから。モノマネの話をする時間がいちばん長い。
水野:プロの方って、「新ネタこれいいと思うんだけど」って、どこから直していくんですか? 「もうちょっと抑えたほうがいいんじゃない?」とか?
みはる:私は最初に歌マネとかでも、「語尾、気をつけたほうがいいんじゃない」って話はしたと思います。たとえばビブラートの数が、本人は8個ぐらいやっているのにモノマネが5個で終わっちゃうと、ちょっと似てなくなっちゃう。せっかくそこまで似せたら、1個足したらもっと似るかもね、みたいな話はするかもしれないです。
シャチホコ:モノマネって頭の3秒が大事っていうのは基本にあるんですけど。だからこそ、フレーズの終わり際って、おろそかになりがちなんですね。そうするとちょっと残念になるんですよ。
みはる:頭で「あ、似てる!」ってなっても、最後まで聴いたらちょっと似てない部分が残っちゃうのがもったいない。
シャチホコ:だから、「語尾3秒気をつけなさい」って。
いかにバレないように忍者になれるか。
水野:前にみはるさんが、テレビ番組で中島みゆきさんとか椎名林檎さんのマネをやられていて。僕は歌をすごく聴いている人間なので、「ブレスの位置が同じだ」とか、「ビブラートでちょっと裏声が混ざるポイントが同じだ」って。シャチホコさんが桜井さんやられるときも、息の使い方や掠れるタイミングが、非常にリアリティがあるって思ったんです。
みはる:ショータイムだと全体で見るので、細かいものよりは、MCでそのひとっぽく見えるとか、そういうのも大事にするんですね。でもテレビで1曲しっかりやるときとかはたしかに、「ここでちっちゃい息吸ってる」とか、ノートに書いてやっているかもしれない。
シャチホコ:いかにバレないように忍者になれるかというか。
みはる:お。
シャチホコ:やっぱりチェックされちゃうんですよね、今の時代って。
水野:虫眼鏡で見るように。
シャチホコ:ネット媒体にすべての正解が載ってしまっているので、比較とかされちゃう。それが結構キツイというか。モノマネって本当に同じにしちゃったら、別に本人でいいやんってなっちゃうし。
みはる:うん、CDと一緒のね。
シャチホコ:適度にアンチの方というか。「腹立つな」って本当に怒るひとがちょっといて。で、ケラケラ笑うひとがいて。「そんなのやってねーよ!」って言われるバランスというか。
水野:はいはいはい。
シャチホコ:チェックされにくいところに自分のスパイスを織り交ぜていく。ちょっとずつバレないように自分の色を入れていく。そういう作業を結構しますね。だから桜井さんとかも、『ONE PIECE』主題歌の「fanfare」って曲を、普通に歌ったら、「悔やんだって後の祭り~♪」。今なんの感情もなくやりました。
水野:(うますぎて)恐ろしいですね(笑)。
シャチホコ:それにちょっと誇張を入れると、「悔やんだって後の祭りぃ~♪」って。「りぃぃ~♪」って。
みはる:CDとかで魅せる技術とはまた違う。
シャチホコ:「え、本人ってどうだった?」って見たひとがわざわざ思わないように。もうとにかく、「似てたー」ってそこで満足して完結してもらえるようにする。
みはる:モノマネってそれが醍醐味かもしれないですね。今は動画が出ているので、あら探しをしようと思ったらいくらでもできちゃうから。
シャチホコ:だから、ファンのひとに向けて作りすぎると、ものすごくつまらないものになっちゃうんですね。歌マネってとくに。ファンに怒られないように、嫌われないようにって作りすぎると、本当に色味のない、当たり障りない、ひとつも角のないものができてしまう。
みはる:そうなんだよね。
シャチホコ:ファンのひとに、「全然似てない」って言われるのを承知の上で、ちょっと降りていかなきゃいけないというか。“好きでも嫌いでもどっちでもないけど、聴いたら知ってる”ぐらいのひとが大多数なわけじゃないですか。そうすると、その層に合わせたものがポピュラーになるので。
みはる:モノマネとして喜んでいただくには、平均点を提示してあげなきゃいけない。細かいところも本人と変わらない100点のものは、コアのファンだけが喜ぶようになっちゃうんです。
シャチホコ:そこに自分流のものを足す。ここでマイクこうやるよねとか、「そんなのわかんねーよ」ってツッコまれないぐらいナチュラルに入れるんです。好きなひとは気づいて喜んでくれるし、どっちでもないひとには追及もされない。そのバランスみたいなものが大事ですね。
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