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水野良樹×市島晃生 茶会 ~食べ方は今の自分を測るためのツールでもある~


今回はHIROBAの水野良樹の先輩でもあり、崎陽軒のシュウマイ弁当の食べ方を研究している食べ方学会の市島さんと対談をお送りします!


◆シウマイ弁当編

市島:今回の『食べ方図説 崎陽軒シウマイ弁当編』は、手としては“43手”でしたね。意外と多かったです。

水野:『dancyu』編集長の食べ方、おもしろいなぁ。

市島:シウマイ寿司を作るっていう。やってみたくなりますよね。最初のほうで一回シウマイを切って、その断面に醤油をかけて“漬け”にするんですよ。そしてしばらく忘れておいて、中盤ぐらいから寿司にする。しかも生姜風味。シウマイとご飯だけじゃなくて、間に千切り生姜を挟んだりしてシウマイ寿司を作っているんです。ご飯も1俵だとちょっと多くて、シウマイ半分に対して半俵ぐらいがちょうどバランスが良いと。

水野:細かいなぁ!

市島:意外とおいしいんですよ。あとさっき水野さんにもシウマイ弁当を食べていただきましたけど、唐揚げ行ってから、あんずに行ったじゃないですか。マッキー牧元さんは、唐揚げとあんずを一緒に食べること推奨派なんですよ。

水野:えー!油と酸味ってことですか?

市島:いわゆる酢豚のパイナップルみたいな。

水野:マッキー牧元さんはご飯の食べ方も独特ですね。L字みたいなのを作るって。

市島:ポイントは小梅の下のご飯なんですよ。そこのご飯の酸っぱい部分は食べたいじゃないですか。でもちゃんと工夫して食べないと、無駄が出てきちゃうって。

水野:すごい。みんなそれぞれ食べ方があるんだ。

市島:でも水野さんも良かったですよ。後半ずっと筍煮のゾーンを取っておいて、最後にここでリズムを作っていましたよね。

水野:そう、僕はやっぱりこの筍ブロックでのリズム作りが大切なんですよ。なんか、食べ方の話って止まらなくなりますね。こんなに盛り上がるということにどうやって気づかれたんですか?

市島:まずこの表紙って、僕が完璧だと思っていた食べ方なんですね。シウマイに始まり、シウマイに終わる。おかずとご飯を綺麗にフィニッシュさせるための食べ方。で、これって、他にも食べ方あるのかな?と思ったんですよ。でも、シウマイ弁当を食べるときに、誰かとこんなふうに食べ方を語りながら食べます?

水野:いや、食べないですね。

市島:そんな恥ずかしいことしないじゃないですか。だけど本当はみんな心の中で考えているんじゃないかなって。次はシウマイだな、とか。これは取っておこう、とか。あーご飯が少なくなっちゃった、とか。その頭の中のシミュレーションに、ちゃんと日の目を浴びさせたかったというのが最初の気持ちで。そうやって始めてみたら、意外とみんな食べながら考えていることがわかったんです。

たしか小山薫堂さんもそうですけど、自分の食べ方をラジオで言ったり、ブログに書いたりすることはあるんですよ。ただ、それだけだと流れていっちゃうから、大切な文化が(笑)。ちゃんとみんなの目の前に集めて、ひとつの形にする、簡単に言うとフィールドワークみたいな感覚で始めたんですよね。しかも聞いても聞いてもパターンが終わらない。今日の水野さんのパターンも初めてでしたし。

水野:こんなに人間性が出るものもなかなかないですよね。あと、さっきちょっと格好つけて「筍ブロックでのリズム作りが大切」とか言いましたけど、年齢に応じて好きなものも変わっていくので、シウマイ弁当の食べ方でその時その時の自分に出逢えるというか(笑)。だからもし5年後にもう一回見ていただいたら、僕はまったく違うものをメインにしているかもしれない。

市島:そうですよね。日によっても年齢によっても変わるから、パターンが尽きないんですよ。崎陽軒の社長にも食べ方を聞いているんですけど、今聞いたらまた違うかもしれないし。まさに自分を測るためのツールでもあると思います。その都度、自分を見つめなおして「あ、俺、鮪の照り煮に対してこんなに成長したんだな」とか(笑)。弁当箱の中身がほとんど変わってないからこそ、人のデータが取りやすいところもありますよね。

水野:崎陽軒の社長は、このシウマイ弁当のラインナップというか、フォーマットはずっと変えていらっしゃらないんですか?

市島:基本的には変えていないんですけど、やっぱり中には“あんず批判主義者”がいるんですよ。「あんずって要らなくない?」という。そういう世間の声に一時期、屈したことがあって(笑)。そんなに言うんだったらって、たしか違う具に変えたんです。そうしたら“あんず派”から大クレームですよ。それでまた元に戻したんですね。

水野:たしかに、崩れてほしくないと思います。配置も含め、これを変えることはもう野球のルールを変えるようなものだから(笑)。それはやっぱりダメですよね。ご飯も8俵であってほしいし。

市島:そうそう。ただ、シウマイはもともと4つだったのが1つ増えて、この配置になったんですよ。それで5個目がここにいるんです。この子を仲間外れとみなすか、一匹狼とみなすかによって、自分の気持ちの投影の仕方が変わるじゃないですか。だから野球のような長い歴史の中でも、ちょっとしたマイナールール変化はありますね。

水野:ふとおもしろいなと思ったのですが、こうやって食べ方を聞いていただくと、たとえたくなりますね。たとえば僕は野球が好きなので、序盤はオープン戦だな、とか。途中で指向を変えて交流戦だ、とか。多分、他の人もそれぞれいろいろなたとえをしている気がします。あんずをどういうキャラクターとして捉えるか、みたいな。

市島:水野さんは筍に想いを投影していましたもんね。最初は、音楽にたとえるのかなと思ったんですけど。最初は前奏で、シウマイに入るくらいから歌が始まる…とか。

水野:僕は順番物をたとえるときって、いつも野球なんですよね。だからいきものがかりのライブでセットリストを決めるのも、打順で考えます(笑)。たとえば、みんなが知っている「ありがとう」のような曲を4番バラードと呼んでいて。そういう曲が続くと、4番バッターばかりじゃ良くないな、どれも消し合っちゃうな、と。もうちょっと繋いでくれる曲も欲しい。で、トップバッターはトップバッターでヒットを打ってくれないと困る。かといって「じょいふる」的な4番バッターが、初っ端から来ちゃうのも良くない。だからちょうどいいバッターを…とかたとえるんです。

市島:シウマイ弁当で言うと、水野さんにとっての4番は誰ですか?

水野:やっぱりシウマイですよ。ただ、今だから告白するんですけど、僕は野球を観ていて4番バッターを好きになることってあんまりなくて。みんなが好きじゃないですか。もちろん僕も原監督や松井秀喜さん大好きだし。でも目が行くのは1番2番なんです。僕の時代で言うと、緒方耕一さんとか、川相昌弘さんとか。自分自身が少年野球で2番ショートだったこともありますし。だからシウマイ弁当で言うと、繋ぎ役の筍が好きなんです。

市島:そういうことかー。2番ショートと筍にシンパシーを感じていたんですね。そして最後に筍を残したのは、繋ぐ自分に対しての今のところの気持ちの投影みたいな。

水野:そうかもしれないですね。シウマイは5個、ご飯は8俵、って数がわかるのに、筍はなんとなくわーっていっぱいあるじゃないですか。これってやっぱり繋ぎだなって。口直しにもなるし。そういう繋ぐものに憧れがあるのかなぁ。繋ぎこそがいちばん大事という気持ちもありますし。

市島:ちなみにセットリストで言うと、筍の役割はどの曲になるんですか?

水野:激しめの曲とかわかりやすい曲は、いくつもあるとお客さんが疲れちゃったり飽きちゃったりするんですね。だから、シングルにはなってないけどアルバムに入っている曲とか、サラッとした軽やかなものですね。たとえば「Happy Smile Again」という曲とか。これもカップリング曲だったんですけど、本当に良い繋ぎになりますね。こういう曲が大事だなって。
※「Happy Smile Again」
歌詞:https://www.uta-net.com/song/71757/

市島:そういえば小山薫堂さんも同じようなたとえをしていました。シウマイ弁当における唐揚げが、ユーミンのコンサートにおける「卒業写真」だって。アンコールになって曲が流れたとき、それがシウマイのような曲だとまたご飯が欲しくなるじゃないですか。でもそこで唐揚げが出ちゃうと、もうこれで満足だなと思えるんだって。

水野:なるほどなぁ!じゃあ筍はエンドロールの曲でもあるかもしれない。スタッフクレジットとか流れて。

市島:感謝しながらね。この人たちがこのライブというシウマイ弁当を繋いでくれたんだって(笑)。

◆たまごサンド・カツカレー編

市島:たまごサンドとカツカレーは、基本的に食べにくいところが特徴だと思っていて。まずたまごサンドをコンビニとかで買うと、たっぷりたまごが入っているところと、全然入ってないところがあったりするじゃないですか。だから、齧り方を間違えると最後に全然入ってないところを、なんとなく空しい気持ちのまま食べることになるんですよ。そういうことを無くそうと。齧り方ひとつ工夫するだけで変わるんですよ!

水野:また『dancyu』編集長は変わった食べ方を…。

市島:たまごサンドには結構うるさかったんですよ。食べるときには、ど真ん中の卵がいっぱい入っているところをまずガブッといく。そこがいちばん美味いから。ただ、食べながら歯でクッと奥に押せって言っていました。そうすると何も入ってない角のところにも卵が行く(笑)。でもひとつ問題なのは、歯形がたくさんつくので、そこのところをどうするか…。

水野:市島原さんはなんでこんな企画を思いつくんですか(笑)。

市島:え、自分で食べていて疑問に思うことありません?

水野:シウマイ弁当はたしかに自分の中で会話をしながら食べていましたけど、たまごサンドを食べるときには何も考えてないですね。

市島:でも最後の寂しいところが残ったことってありますよね?

水野:それはあります。日常茶飯事です。

市島:ですよね!そのとき、自分の心の中に深く刻まれませんか? あぁ…寂しくなっちゃったなぁって。まぁ、たまごサンドって意外と2切れ入っていることが多いじゃないですか。だから仮に1切れ目を何も考えずに食べて、寂しくなっちゃったとしても良いですよ。でも2切れ目で挽回しようと思うじゃないですか。

水野:…(笑)。ひとつのサンドイッチにつき、こっち側から食べたほうが良いなんて考えたことありませんでした。

市島:でもたしかに、たまごサンドの食べ方の本をわざわざ作ったことによって、水野さんのように気にしていなかった方も気づくかもしれませんね。多分、メーカーのひとたちも「あ、痛いところ突かれた」って思うはずなので、たまごをたっぷり入れてくれるようになるんじゃないですかね(笑)。そうすると良いたまごサンドの世の中ができてくるのかなって。

水野:お仕事で企画を考えるときも同じような感覚で思いつくのですか?

市島:日常の中で「これってどうなんだろう?」って、ちょっと疑問に感じたことをほじくっているところはあります。みんながスルーしているところって意外と多いから。それで視聴率が取れるのかと聞かれると微妙なんですけど、思いつくのはそういうところからです。カツカレーに関しても、日本人は経験からなんとなくスプーンで食べていますけど、実は妥協しているんですよ。これについても説明していいですか?

水野:お願いします!

市島:まず、スプーンでカツカレーを食べるときって、カツを落とさないようにそーっと食べるじゃないですか。果たしてそんなことで美味しくカツカレーを味わえているのかなって。あと、フォークや箸がついてきたとしても、カツを齧ったあとに、スプーンでカレーを運ぶわけで、カツとカレーが一緒になるまでに結構タイムラグがあるんですよ。

水野:ありますね。それ良くないですね。

市島:本当はカツと同時に食べたいのに、スプーンを持ち替えてごにょごにょやっている。その間って実は、口の中のカツの味を感じないようにしているんですよね。カレーを入れた瞬間にやっと味わうみたいな。そうやって口の中に無駄にカツがある状態を、僕は味の脳死状態と呼んでいます(笑)。となると、そのタイムラグが短ければ短いほど良い、もしくはカツカレーが成立するための新たなカトラリーがあったほうが良いはずなんですよ。そこを工夫することによって、美味しくカツカレーを味わえるんじゃないかなと。

水野:そういえば、全国ツアーで金沢に行ったときに、ゴーゴーカレーを食べたんですけど、フォークが出てきたことが衝撃でしたね。いつもスプーンで食べていたけど、たしかにフォークだよな!なんで気づかなかったんだろう!って。

市島:金沢カレーがフォークだけで大丈夫なのは、ルーがドロッとしているからちゃんと掬えるんですよね。ただひとつ問題点があって。フォークとお皿が両方アルミのような素材じゃないですか。だから底のほうを食べるとき、フォークとお皿がこすれてキキッてなるんですよ。あれをどう克服するかということも、一応本に書いていて。後半のほうで、カツをフォークに刺してモップ状にしてたべると、怖くないっていう…。

水野:フォークに刺したカツで皿のカレーをぬぐうように食べる、と。もう…精進料理か!って(笑)。

市島:そう、もともと日本人がわかっているテクニックなんですよ。それを我々がB級グルメだからとやっていないだけで。日本の食文化の基本に戻ろうよ!って。まぁこれは今思いついたことなんですけど(笑)。

◆牛丼、天丼、キャラまんetc.

水野:でも僕ずっと笑っていましたけど、さっきたまごサンドの話で「メーカーさんが気づいてくれるかも」とおっしゃっていたじゃないですか。そう考えると、めちゃくちゃ有意義なことをされているなって。こういうことを語り合うことで、みんなが当たり前だと思っていたことが改善されたり、新しいメニューが生まれたりするわけですよね。

市島:そう思っています。カツカレーの形自体も変わるかもしれないじゃないですか。今、料理ってミシュランだなんだって評価があって、味のレベルはどんどん上がっていますよね。でも意外と食べ方って昔から変わっていないものが多くて、本当はもっと改善点があるんですよ。

水野:たしかに、こうやってひとつの料理について話し出しただけでも止まらないですもんね。あー、今思い出したんですけど、僕らがすごくお世話になっている音楽プロデューサーの本間昭光さんは、吉野家で“本間流”という食べ方をするんです。全国ツアーで何度もごちそうになって、それを叩き込まれました(笑)。まず牛丼は頼んじゃいけない、牛皿を頼めと。牛丼で頼むと、ご飯が少なかったりとか、その時々で量が中途半端だったりするから。ちゃんと白米でいただいて、そして生卵を頼んで、それを溶けと。そこに肉をつけてすき焼きのように食べる。そうすると、牛皿のたれがどんどん卵に入っていって、肉を食べ終わったら最後にその卵をご飯にかけるわけですよ。これがベストの食べ方だそうです。

市島:なるほど!味のついた卵になるんだ。綺麗にまんべんなく食べられますね。きっと本間さんは「こんな発明を俺は独り占めにして良いのか?」と、みんなに教えたんでしょうね。多少は強制だったとしても、みんなが幸せになるならという、博愛精神もあると思います。

水野:なんか、市島さんに預ける企業はいないのかって思いますね。シウマイ弁当は、市島さんが好きで始まったことじゃないですか。でもたとえばその吉野家の牛丼でも良いですし、天丼とか、いろいろ食べ方を分析してくれないかと。吉野家なんてすごいファンのひとたちいるし、実際いろんな食べ方のパターンがあるし、そういうのをやったら一大コンサルタントになり得るんじゃないですかね。

市島:考えたことなかった(笑)。でもたしかに最近、吉野家の牛丼を食べたとき、上に乗っているお肉に長いのと短いのがあることに不具合を感じました。牛丼の結構な部分を長いのが占めているのに、これをひと口で食べたら良くない。本当はこの半分の長さで良い。かといって、齧って切るのもね。じゃあ焼肉屋さんみたいにハサミがあればいいのかな、とか。天丼はちょっとカツカレーに似ていて、エビを齧ったあとどこに置くかとか、ご飯を入れるまでに時間がかかるとか、いろいろ問題がありますよね。

水野:やっぱりいかにご飯とのバランスを取るかという点が大事になってくるんですね。

市島:あと、キャラもののお菓子とか、ネットを見ると大抵「こんなふうに食べちゃいました!残酷!」みたいな面白がり方をしていたりするじゃないですか。本来それじゃダメだと思うんですよ。ファンだったら、いかに可愛いままで最後まで食べるかを大事にしないと。メーカーも作るだけ作るんじゃなくて、こう食べると可愛いですよ、とか…。

水野:絶対そんなこと考えないですよ(笑)。ちなみに、この「風船食べ」ってなんですか?

市島:基本的にキャラまんは、ちゃんと目が残るように食べれば、最後まで可愛いんですよ。それを割っちゃったりするからかわいそうなことになるのであって。ずーっと見つめ合って食べて、最後の最後にひと口でパクンといけばなんの罪悪感もありません。「風船食べ」はその応用編です。先に中の具を食べちゃって、空洞を作るんですね。そこに皮を押し込むと、キャラまんがちょっとプチキャラみたいな、違うキャラになるんです。しかも、胸のボタンを付け替えて、赤いほっぺにしたりとか遊べるし。さんざん可愛い可愛いって堪能して、最後にパクンと食べる。そういう食べ方。

水野:なるほどなぁ…。「お気に入りのフィギュアに乗せて仮装パーティー」…(笑)。

市島:そう。シウマイ弁当にも「食前の儀式」ってありますけど、キャラまんも食べる前にちょっと遊ぶ時間があって良いと思うんですよ。彼らには体がないことが多いから、画用紙に体を描いてあげたり。そうするとその子がお散歩しているみたいになって、ちょっと楽しめるじゃないですか。今はちょうど、ローソンに「シナモロールまん」が出ていて、それも何か作りたいなと思っています。

水野:こういう食べ方研究はずっとやられていくんですか? ネタのきりがないじゃないですか。

市島:多分。でもみんなが「あー!そうそうそう!」って思うものじゃないと、ただの独りよがりになっちゃうじゃないですか。だから共感できるものを探していきたいなっていうのと。あと、カツカレー編は英語版が出ているんですね。なぜかというと、カツカレーが今イギリスで大ブームらしいんですよ。国民食って言われているぐらい。そういう記事を読んで、これはイギリス人にも食べ方を教えてあげないと、って思ったんです。彼らもそうとう食べ方に苦労しているはずなので。そういう広げ方もしていきたいなと思いますね。

水野:英語版すごく恰好いいですね!いずれ「世界で最も影響力のある100人」とかに市島さんが出てきそうな気がします(笑)。カツカレーを世界に広めた、みたいな。でも本当、外国の方なんて日本の食べ物の食べ方はわからないから、ちょっとドメスティックなものの食べ方とかって、めちゃくちゃ参考になると思います。

市島:まだコロナが広がる前は、流行っていたのか富士そばに外国人がたくさん来ていたんですよ。でも観察をしていると、やっぱり間違えてしまっていることも多くて。よく頼まれているのは、そばと天丼のセットなんですけど、まずそばのつけつゆをどうしていいのかわからないんですよ。これを天丼にかけたらいいのかとか。そういうのはちゃんと教えてあげないといけないと思うんですよね。

水野:本当そうですね。外国の方はシウマイ弁当をどうやって食べるんだろう。

市島:まず台湾では向こうの方に合わせて、弁当が温かいんですよ。冷たい弁当を食べるという文化がないらしくて。たとえば日本だと作ってもらった弁当を朝、子どもが学校に持っていくじゃないですか。でも台湾ではお昼前に、作りたての温かいものをお母さんとかが学校へ持っていく。そして温かいボックスに入れておいて、子どもたちは温かいまま食べるそうなんです。日本人はお寿司もそうですけど、冷えているものを美味しく食べられるじゃないですか。きっとそういう影響もあるんだろうなって。

水野:めちゃくちゃ広がりがありますね。食文化を伝えるというと、どうしても寿司とか、日本人にとってもちょっとお金がかかったり、敷居が高かったり、マナーがあったりするものについての話になりがちじゃないですか。でも、シウマイ弁当とか、たまごサンドとか、カツカレーとか、庶民の生活に近い、みんなが普段食べているものについての話だと、よりハッピーになりますよね。

市島:外国の方でも、考えながら食べているひとっているのかなぁって考えると、またおもしろいですし。でも日本人みたいな細かい人種だから考えるのもなとも思いつつ。

水野:あー、ハンバーガーの食べ方とか考えるのかな…。

市島・ハンバーガーって、すごくでかいポテトとかついているじゃないですか。あれ、食べるときにちゃんとハンバーガーとポテトがピタッと食べ終わるように考えているのかな(笑)。ケチャップとかディップするやつも、途中でなくなったりしそうだし。でも彼らは、おかわりすることや残すことに躊躇がないので、そういう違いもありそうですね。

水野:日本人はどうしても「ちゃんとしなきゃ」って思いがちですもんね。僕も「もうちょっとちょうだい」って言うことないもんなぁ。

市島:カツカレー食べていて、ご飯が余りがちになっちゃったからって「カレーかけてもらえます?」って、なかなか言いにくいじゃないですか。でもそういう性質を持っている日本人だからこその感性って、なんとなくみんなわかりますよね。それがいろんな世界のひとの感性もわかるようになったりしたら、おもしろいなと思ったりしますね。

水野:今日お話ししていて、当たり前だと思っていることをもう一度考えるという機会は、本当に大事だなって感じました。考えると自分自身がまた変わってくる気がします。食べる順番もそうだし、もうちょっと丁寧に食べるようになるし、味わって食べるようになる。食べる楽しみが膨らんでいくなと思いましたね。

市島:あと、今日知った水野さんの食べ方を、僕はあとでやると思うんですよ(笑)。それで「あー、こういう味なんだね」って、そのひとの味を追体験することもできる。たとえば好きなタレントがいたとするじゃないですか。そうしたら、同じ食べ方をしたがるんじゃないですかね。

水野:なるほど(笑)!そうですよね。そのひとの故郷に行ってみるようなことと同じですよね。

市島:多分、好きなひとのいろんなことを知りたいですからね。しかも「いちごが好き」だとかは公表していたとしても、料理の食べ方なんてあんまり言ってないと思うので。「こう食べて、こういう味だったのね!」と知ることは面白いんじゃないかなと。ちょっと気持ち悪いことを言っていますけど(笑)。でもそういう意味でも、食べ方を知るって、まだまだいろんな楽しみ方があるんだろうなと思いますね。

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<プロフィール>
市島晃生
フリー番組ディレクター。「食べ方学会」会長。神奈川県出身。神奈川県立厚木高校卒業、早稲田大学商学部卒業後、日本テレワーク、ウイルスプロダクションを経てフリーに。「カノッサの屈辱」「料理の鉄人」「ウンナンのホントコ!」「マジック革命!セロ」「100キロ超級ダイエット あの日に帰りたい」など人気番組の数々を担当。2017年夏コミケで『食べ方図説 崎陽軒シウマイ弁当編』を頒布。以降「食べ方図説シリーズ」を刊行している。

3月22日から東急ハンズ新宿店2階にて開催されている、おもしろ同人誌バザール」にて『食べ方図説 崎陽軒シウマイ弁当編』が取り扱いされています!

食べ方学会 Twitter
https://twitter.com/tabekatagakkai

Text/Mio Ide(Uta-Net)


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