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理論ではなく感情

HIROBA TALK 水野良樹×上白石萌音
2020.05.11

上白石萌音さんが歌う「夜明けをくちずさめたら」。
「NHK みんなのうた」から楽曲制作の依頼をいただき、
「いつか自分が書いた曲を上白石さんに歌ってほしい」
という念願が叶いました。

一言一言に説得力がある上白石さんの歌声。
その理由が知りたくて、
表現者としての上白石萌音さんの思いを聞かせていただきました。

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空気感や信頼関係は作品に表れる

上白石 いきものがかりさんが大好きなんです。

水野 ありがとうございます。きっかけはどの曲だったんですか?

上白石 「YELL」で小学6年生のときでした。

水野 最近「小学生の頃から聴いていました」と言っていだくことが増えてきて。もう少しすると「お母さんが聴いていました」ってなるんだろうなと(笑)。

上白石 そうですよね。聴いてくださる世代がどんどん広がっていきますよね。

水野 上白石さんがお芝居や歌を始められたのはいつだったんですか?

上白石 5歳のときからミュージカル教室に通っていました。

水野 早いなぁ。そういった世界に憧れが?

上白石 ありました。とにかく歌が好きで、ダンスも好きで。全部やりたいと思ったときに「ミュージカルだ!」と。母親に頼んで教室に連れて行ってもらいました。

水野 何がいちばん楽しかったですか?注目を集めたいという気持ちはありましたか?

上白石 それが全くなくて。むしろ、前に出たくないくらいで。私、小さい頃は人付き合いが苦手だったんです。

水野 はい。

上白石 そんな私でも、こんなに楽しい瞬間があるんだって気づいて。音楽が流れると本当に楽しくて「こんなに楽しんでいいんだ、私」と思っていましたね。

水野 そうなんですね。

上白石 その頃は主役もやったことはなくて。2時間の公演でセリフひとつあればいいというような感じでしたね。

水野 吉岡(聖恵)も最初は木の精霊だったって言ってました(笑)。

上白石 私は鳥です(笑)。あとはウサギとか。

水野 芝居や歌をやるときはどういったところに喜びを感じますか?

上白石 お芝居しているなかでは、自分の心とセリフがスッとリンクしたときですね。

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水野 へー!けっこう素の自分が役に入っているような感じですか?

上白石 そうですね。私はそんなに器用ではないので、どっぷり浸からないとできないタイプなんです。演じていて邪念が一切なく、セリフが口からではなく心から出ているような感覚になることがまれにあるんです。それはもう…震える瞬間ですね。

水野 すごい。

上白石 あとは、すごい方のお芝居を目の前で受けたときは…感動しますね。そこに一緒について行けたとき、あとはみんなでつくっているという実感が持てたときは本当に楽しいです。作品の放送や公開のタイミングよりも、つくっているときのほうが喜びを感じていますね。

水野 それは面白いですね。芝居している最中の「今まさに何かができあがっていく瞬間」なんですね。

上白石 そうです。やっぱり現場がいいですね。大人の方々が集結して、自分の力を最大限出し切って、みんなでひとつのものに向かっている。誰ひとり手を抜かない、プロフェッショナルな集団がすごく好きです。

水野 お芝居されている方々は長期間一緒にいることが多いですよね。

上白石 そうですね。

水野 ドラマの撮影も何カ月もかかるでしょうし、寝食を共にするくらいの感覚で。

上白石 まさに。

水野 僕ら視聴者は現場の様子まではわからないじゃないですか。ドラマの番宣なんかを見たときに「共演者の方たち、めっちゃ仲良いなぁ!」って(笑)。

上白石 (笑)

水野 コミュニケーションがしっかりあるものなんですね。

上白石 めちゃくちゃ喋りますね。私は共演者だけでなくスタッフさんとも喋りたくて。

水野 コミュニケーションによって作品の温度も上がっていくものですか?

上白石 絶対にそうだと思います。空気感や信頼関係は作品に表れるんですよ。

水野 なるほど。

上白石 みんなで話し合いながらつくった作品の温度は、見たときにもう一度自分のなかに湧き上がってくるんですよね。見てくださる方々にも伝わったらうれしいですね。

水野 そうですよね。

上白石 音楽番組の現場は逆で、出会って別れてじゃないですか。

水野 そうですね。

上白石 最初はすごくカルチャーショックでした。

水野 (笑)

上白石 短期間だけの間柄みたいな。

水野 そうですね。音楽番組で他のアーティストと仲良くなることはまれですね。みなさん自分の出番に集中しているので、現場で深い会話をするタイミングもないですしね。役者さん同士のつながりがまぶしく見える瞬間がありますね。

上白石 そうなんですね。

水野 レコーディングの場面で、サポートミュージシャンの方々に演奏でプラスアルファの部分をどう出してもらうかを考えたときに、テンションの持っていき方、コミュニケーションの取り方はすごく考えるので、そこはお芝居の現場ともリンクするのかもしれないですね。

上白石 向かっている方向が合っているのかなとか。

水野 そうですね。

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理論ではなく感情

水野 お芝居のときは、目の前で先輩方の名演を見て「すごい!」と思うと同時に、次のセリフを言わなきゃいけないじゃないですか。

上白石 はい。

水野 そのときは、見ている自分、演じている自分というように、いくつかの視点があるんですか?

上白石 あるべきだと言われますね。俯瞰した目を持ったほうがいいと。

水野 やっぱりそうなんですね。

上白石 でも、すごく難しいですね。どうしても役に没入してしまいがちで…でも独り善がりになってはいけないですよね。

水野 はい。

上白石 お芝居とは「会話」で、「空気のなかにいるもの」なので。その空気を上から見る目を持っていなさいと教わりましたが…。

水野 難しいですよね。矛盾してますもんね。

上白石 どういうこと?って感じになりますよね(笑)。

水野 そうですよね。自分が演じる人物の状況に没入しますよね。だけどそれを客観的に見ている。

上白石 はい。

水野 2つの人格がないといけない。

上白石 特に舞台はそうですね。やっぱり舞台は空間なので。いちばん後ろの席の人にもわからないといけないですから、自分の近くだけで完結してはいけない。ちゃんと放出しないといけない難しさがあります。

水野 そうか。

上白石 それを叶えるのは理論ではなく感情なんですよね。

水野 感覚的なものですか?

上白石 私もまだよくわかってはいないんですが…役者の感情がお客さんにも伝わるというか。芝居の大きな魅力ですね。

水野 舞台だとお客さんの反応が目の前で見られるじゃないですか。

上白石 はい。

水野 お客さんの反応を見て、芝居は変わっていくものですか?

上白石 変わります。笑いの量、シーンとしているときの空気感、クライマックスのすすり泣き、そういった全てを敏感に感じ取っちゃいます。

水野 ああ、そうなんですね。

上白石 「何があってもブレずにやりなさい」という人、「毎日違うものでいいんだよ」という人、演出家さんによって考え方は違いますね。

水野 面白いなあ。

上白石 でも、絶対に毎日同じようにはならないので。ライブもそうですよね。

水野 そうですね。全然違いますね。

上白石 そこも楽しさのひとつですよね。

水野 難しいですね。いきものがかりでは、僕が曲を書いて吉岡が歌う。お芝居でいうと、セリフ書く人と演じている人が違うというか。

上白石 はい。

水野 音楽の世界だとシンガーソングライターのように、曲を書いている人と歌っている人が同じということが多いですよね。

上白石 そうですね。

水野 曲を褒めていただくときに、僕は「つくった歌そのものがいい」と言われたい。逆に吉岡は「歌い手による表現がいい」と言われたい。その緊張感が大事だと思っています。

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上白石 なるほど。

水野 上白石さんは、どこで評価されたいですか?

上白石 私は作品ですね。

水野 ああ、そうなんですね。素晴らしい。

上白石 逆に目立ちたくないです。この作品のなかで自分にはどんな役割があって、どういう働きをすればいいんだろうと考えます。まさに歯車ですよね。

水野 はい。

上白石 作品は監督のものなので、自分はひとつの駒でしかないです。

水野 すごい。

上白石 でも、初めて作品を見るときは全然冷静になれなくて。自分の芝居ばかりに目がいってしまって「もっとこうすればよかった」とか。

水野 反省というか。

上白石 はい。なので作品を純粋に見られたことは一度もないです。

水野 難しいんですね。

上白石 演じるときは、作品が全てで自分は二の次ですね。

水野 でも、全く自我がない状態だとお芝居はできないですよね?

上白石 そうですね。女優の富司純子さんに頂いた印象的な言葉があるんです。「表現者は常に真っ白な服を着て、監督によってその人の色に染まりなさい」。作品が終わるたびに洗濯して真っ白に戻って、次の作品でまた違う色に染まっていくという仕事だと。「ああ、自我じゃないんだ」とそのときに思いましたね。流れに身をまかせて漂うように、どこまでその色に染まることができるかが大事なんですよね。

水野 なるほど、受け入れるというか。

上白石 俳優さん、女優さんはキラキラしていてスターというイメージですが、そうではない人もいるんだとその言葉で気づかせていただいて。私もそういう役者になりたいと思ったんです。

水野 自我は僕も興味があるというかテーマとして考えているくらいで。いきものがかりも作品がすべてという考え方で楽曲至上主義的な部分があって、吉岡は自分の色が出ないように、聴いた人の解釈が広がるように、気をつけて歌ってくれています。

上白石 なるほど。

水野 HIROBAの対談でも「気をつけて歌ってきたけど、私を通して歌うといきものがかりになるんだよね」と言っていて。僕もその通りだと思っています。

参照 HIROBA TALK 水野良樹×吉岡聖恵 人生で初めて「これが…“あうん”か」って

上白石 ああ、そうですよね。

水野 上白石さんが役者として真っ白でいようと努力をしながら、上白石さんを通るからこそ出てくるセリフや表現がきっとあるんだろうなと。自我とその人にしか表現できないものの、いい塩梅が…。

上白石 そうですよね。役をいただく時点で、「この役者さんのこの役が見たい」と思っていただいているんですよね。だから、求められてはいるはずですよね。

水野 そうですよね。

上白石 自分を出そうと思わなくても出ちゃうものなので。

水野 ああ、そうかもしれないですね。

上白石 出そうと思わず、「出ちゃったものはしょうがない」くらいの気持ちのほうがいいのかなと思っています。自分らしさを消そうとする必要はないですしね。

水野 なるほど。

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凝り固まっていてもつまらない

上白石 曲をつくって吉岡さんに歌っていただくまでにディスカッションはあるんですか?

水野 それが、ないんですよ。何も言わない。

上白石 ええ!

水野 今回の「夜明けをくちずさめたら」は上白石さんにディレクションさせていただきましたが、いきものがかりの曲ではデモを渡すだけでディレクションもしないんですよ。

上白石 そうなんですか!

水野 ディレクターもいますしね。山下(穂尊)も同じ考えで、僕らのカラーを出さずに吉岡の解釈で歌ってもらおうと。

上白石 信頼関係ができているんですね。

水野 そうですね。あとは、客観的なものになるほうがいいだろうと思っていて。

上白石 なるほど。

水野 僕らが曲をつくって仮歌を入れるんですが、作り手なのでどうしても歌い方が濃くなっちゃうんですよね。

上白石 主観的になっちゃいますもんね。

水野 そうなんですよ。でも、吉岡がその歌をフラットなもの、客観的なものにしてくれるというか。

上白石 すごいなぁ。私、3人で歌っている歌も好きなんです。

水野 確実にコアファンですね(笑)。コアファンの方がまず言う一言がそれですから。

上白石 (笑)めっちゃ好きなんです!

水野 ありがとうございます。お芝居のときの演出は、自由にやってくださいというのと、細かく指導してもらうのと、どちらがいいですか?

上白石 私はできるだけ多くのダメ出しがほしいです。言われないと不安になっちゃうんです。「見放されたな」と思ってしまって。

水野 いったん、自分で構築するんですか?

上白石 そうですね。考えては行きますが、凝り固まっていてもつまらないですし、「違う」と言われたときに対処できなくなってしまうので、フワフワと柔らかい状態にしておいて、現場で演出家と相手役の方とやり取りをしてつくっていきますね。台本を渡されて「好きにやって」みたいなことはほぼないですね。大ベテランの方だと話は違うかもしれませんが、私は細かいやり取りがないとダメですね。

水野 そうなんですね。

上白石 ディレクションしないというのは目指す最高地点のような感じですよね。何も言わない崇高さというか。

水野 いやいや。たまたまですよ。

上白石 どんな感じなんですか?兄弟みたいな感じですか、それとも家族みたいな。

水野 うーん、どう表現したらいいかわからないですけど…時期によって変わってますね。10代から一緒にいるので、もちろん家族みたいな部分はありますね。僕は兄弟がいないので、妹ってこんな感じだろうなと思ったり。デビューする前は学生のノリでしたが、デビューしてからは多くの方々に支えてもらって、言葉にせずともプロフェッショナルであろうという気持ちを持ってやってきました。とは言いながらも3人で振り返ってみると「20年、めっちゃ青春してたね」と(笑)。

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上白石 素敵!

水野 でも、ここから続ける上ではいい意味で青春ではいられないというか、フェーズを変えていかなければということで、「さよなら青春」という曲をつくったんですよね。

上白石 うわぁ、今のお話を踏まえてもう一回聴きます!

水野 (笑)

上白石 刺さりますね。

水野 歌づくりに対しても、もう少し自分を出してもいいのかなとも思っています。

上白石 放牧(活動休止)で変わったこともありましたか?

水野 変わりました。

上白石 それぞれの時間を経て。

水野 そうですね。

上白石 私、集牧(活動再開)のあとの紅白歌合戦を見て泣いたんですよ。

水野 コアファンですね(笑)。

上白石 おかえりなさい!って、大晦日に(笑)。

水野 紅白の本番も緊張感はあったんですけど、リハーサルのときにグッときてしまって。ポップアップ(舞台の下から上がる演出)だったんですよ。上がったときに目の前にすごい数のスタッフや記者がいて。「ああ、戻ってきたな」みたいな感覚で。吉岡も同じようなこと言ってましたね。

上白石 山下さんは冷静なんですか?

水野 山下はね…何考えてるかわからないから(笑)。

上白石 私、山下さんには「History of Pops 70s」でお世話になっているんです。

「History of Pops 70s」 1970年代の名曲の数々をライブとドラマで披露する音楽イベントで2017年に開催。上白石萌音が出演し、山下穂尊がイベントテーマ曲を書き下ろした。

水野 ああ、そうですよね!山下は良くも悪くも学生の頃から変わらないんですよね。

上白石 3人のバランスがいいですよね。

水野 そうかもしれないですね。わりと僕と吉岡がバーッと前に行っちゃうので。

上白石 そういう3人のバランスも大好きです(笑)。

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水野 上白石さんにはずっと歌っていただきたかったので、今回は本当にうれしかったですよ。

上白石 いやぁ、もう本当にうれしいです。小6の私に伝えたい!

水野 (笑)「ミュージックステーション」でご一緒したときもお話するタイミングはなかったですが、上白石さんの歌唱を見て、堂々とされていてすごいなと思ったんです。

上白石 ありがとうございます。

水野 「多様性を認め合い、手を取り合おう」という今回の「みんなのうた」のテーマもよかったですよね。

上白石 本当にそうですよね。

水野 僕自身が考えていることにもつながるし、上白石さんの声にもつながる。すごくいいタイミング、いい巡り合わせでつくらせていただくことができました。

上白石 こちらこそ、ありがとうございます。夢って叶うんだなと思いました。

水野 また機会があったら作品をつくらせてください。

上白石 ええ!今の言葉、録音されてますからね!

水野 いいですよ(笑)。僕はいつでも大丈夫ですから。

上白石 このインタビューをスクショして額縁に入れておきます(笑)。

水野 曲を書いたりはしないんですか?

上白石 曲はないですね。詞はいくつか。

水野 詞、書いてくださいよ!

上白石 ええ!

水野 機会をいただけるのなら、ぜひ。

上白石 汗が止まらないです(笑)。

水野 曲づくりも一緒にできたら楽しいですね。

上白石 ぜひ!己を磨いておかないと。ありがとうございます!

(おわり)

上白石萌音(かみしらいし・もね)
1998年生まれ。女優・歌手。
2011年にデビューして以降、映画、ドラマ、舞台を中心に幅広く活躍。
2020年1月から放送されたドラマ「恋はつづくよどこまでも」が
大ヒットし、“恋つづ”ブームを巻き起こした。
5月11日に配信シングル「夜明けをくちずさめたら」をリリース。
この楽曲はNHKみんなのうた 4月〜5月にて放送中。
同曲が主題歌の日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2020
NHKみんなのうたミュージカル「リトル・ゾンビガール」

7月17日から上演予定。

上白石萌音オフィシャルサイト
Twitter
Instagram

Photo/Manabu Numata
Text/ Go Tatsuwa
Hair & Make/Tomoko Tominaga(allure)
Styling/Takashi Shimaoka(Office Shimarl)


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