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読む『対談Q』柴那典さん(音楽ジャーナリスト)前編②

HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されている『対談Q』。こちらを未公開トークも含めて、テキスト化した”読む”対談Qです。

今回のゲストは音楽ジャーナリストの柴那典さん。

前回はこちら↓


:平成が終わった直後って、まだ平成という時代をどう総括するか、フワフワしていた気がするんですよね。たとえば経済だったら、失われた何十年って言い方とかも定着しているし、イメージも固まっているけれど。我々が対象にしているポピュラー音楽、J-POPの平成ってどんな時代だったか。変わった直後は、僕もよく位置付けられてなかったんですけど。まぁ今になって、本当に言えるのは「平成=コロナ前」っていう。

水野:ああ、なるほどね…。

柴那典
1976年7月19日神奈川県生まれ。京都大学総合人間学部卒業。
2014年4月初の著書『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』刊行。
新刊は『平成のヒット曲』(新潮新書)
編集/執筆活動のほかテレビやラジオにも出演。
 

:本当にその記憶とイコールになってしまった。とくに最後の10年、2010年代の10年って、たとえばフェスだったり、アイドルだったり、EDMだったり、集まってみんなではしゃいで踊って楽しむみたいな。

水野:「会えるアイドル」ですからね。

:そうそう、握手もできたし。「恋するフォーチュンクッキー」だったら、あんなに集まって踊っている。あのMUSIC VIDEO、去年これを書いているときに観て、「密だな」って思っちゃって。

AKB48『恋するフォーチュンクッキー』


:この感覚の変化は、時代にとって大きな分水嶺になった。年号で何が変わるんだっていうこともあるんだけれど、令和と平成とで音楽って、コロナ禍以降、ルールが変わった。ヒット曲の生まれる場所も、生まれ方も、変わっちゃいましたね。ストリーミングが日本で本格的に普及したっていう意味でもね。

水野:会えること、もしくは皆で集まって同じ時間を過ごすことに、重きがなされていたと仮定すると、それって共時性を大事にしていたとも言える。

:ええ。

水野:たとえば、アイドルがテレビのなかにいるのではなく、実際に生きていて、しかも握手ができる。同じ空間で同じ時間を過ごせる。フェスについても、音楽はコピーできるけれど、体験はコピーできない、この時間はコピーできない、と盛んに言われていた。今、この瞬間、この空間を共有しているんだっていう、共時性がすごく重要だった10年間だった。そう仮定するとコロナ渦っていうのは、その共時性をどう意識するのかが、すごく難しい…。

:難しいですよね。

水野ただ、悲しいかな、皮肉なことに、これほど「同じ時代を生きている」ということを、みんなで共感し合える時代も少ないなと。

:そうですね。同じ状況。

水野:たとえば僕らが経験してきた、悲劇。阪神大震災や東北の震災もそうだし、いろんな悲劇がありましたよね。平成っていうのは悲劇の時代だったけれど、それって僕も含めたほとんどのひと、95%のひとにとっては、傍観者であった時代だと思うんですよ。

:はい。

水野:テロが起こっても、震災が起こっても、被害当事者であるわけではなくて、それを助ける側であったり、それを応援する側であった。被害に合われてしまった一部の方々を除いては、要は“対岸”であったということは、悲しいけれど事実だと思うんです。

 水野:だけどコロナの蔓延が始まったとき、何をみんなが思ったかっていうと、もしかしたら明日自分もかかってしまうかもしれない。仕事が無くなるかもしれない。下手したら死んでしまうかもしれない。本当に当事者としてみんな思っていた。こんなに共時性を感じられる状況はなくて。

:そうですよね、全員が当事者。

水野:僕らは戦争を経験したことがないけれど、下手したら、それ以来だと言えるくらいのことだと思うんですよ。そのなかで、じゃあ音楽って何が求められるんだろう。フェスができない、ライブができない、もちろん会うこともできない。そのなかで、ヒットしている曲たちっていうのは、どういうふうに捉えられているんだろうって。

:自分のなかでもまだ消化できてない問題ではあるんですけど。震災とか、大きな出来事があったときに、いろんなミュージシャンが「じゃあ、自分には何ができる?」って考える。それが結果的に世の中に広まっていく。それでいうと、まさに今水野さんがおっしゃったように、誰かのために作るとか、この苦しんでいるひとたちのために音楽は何ができるんだろうかっていうよりは、まず自分ですよね。まず自分をどうしよう、みたいな。

水野:ええ、そうです、そうです。

:端的に言うと、ツアーが飛んじゃった、リリースもなくなった、みたいなひともいるし。映画が公開延期になったとか。さまざまな延期や中止があるなかで、やはりアーティストたちが当事者になっていて、誰かのために何かをするモードではなかった気はしますね。

水野:おっしゃる通りだと思います。

:でもそんななかで、たとえば、平井大さんとかに話を聞いたんです。そうしたら、コロナになって全部の予定が飛んで、とにかく曲を書いた。それを毎週、毎週ストリーミングで配信リリースした。まぁ大変だけど、やってみようってやった曲がたくさん再生されて、今年紅白に出るみたいな。

水野:ああ。


:狙っていないところから、とくに自分のために、自分がもがき続けて、止まっているわけにはいかないからとりあえず何かやってみようってやったもののひとつが、うまく聴き手にハマったみたいなヒットは去年から今年にかけて、いくつかあったなとは思いました。

水野:星野源さんとかはどう捉えていらっしゃいますか? 本にも書いていらっしゃいますけど。

:星野源さんは、やっぱり「恋」があって、あの後「うちで踊ろう」を出したのは、本当に…。でも星野さんも一緒ですよね。直接お話を聞いていないですけど、映画とか、きっといろんなものが飛んで。ミュージシャンだけじゃなくて俳優もやっていらっしゃるから。

水野:そうですよね、いくつも中止になっているでしょう。

:もう全部の予定がバーンって空いたときに、よし「うちで踊ろう」を作ろう!って、あの瞬発力って、本当にすごいなと思いました。僕もミュージシャンやアーティスト側の人間ではないので、リアリティはそこまでないんですけど、きっといろんな面倒くささが(笑)。誰と誰を説得して…みたいな。

水野:そうでしょうね。すごくフランクにやっているように見えていますけどね。

:けど、きっとそういうところもちゃんと筋を通してというか。このコロナ禍だから、みんなに、少しでも遊べる道具を提供したいって。で、多分みなさんも予定が空いて、そのみなさんがワッと集結して。それぞれ、すごく小さな規模でインスタでアップしたのが、雪だるまのような現象になっていくっていうのは、とても象徴的だなって思いました。

前篇③へつづく…


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