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読む『対談Q』登坂淳一さん(アナウンサー)「自分は主役ではない」後編②

HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されている『対談Q』。こちらを未公開トークも含めて、テキスト化した”読む”対談Qです。

今回のゲストはアナウンサーの登坂淳一さん。

前回はこちら↓


視聴者ここでもう”ボウダ”だから 


水野
:普段の会話でも他の方の言葉は気になっちゃったりします?

登坂:いや、そんなに気になったりはしないんですけど、たまに会話で「あぁ、こういう表現するんだ」って思ったときは、覚えようとしたりするところはありますね。

水野:ああ。

登坂:たとえば、ちょっとドキュメンタリーチックな番組を編集しているときに、「ここは良い感じだな、感動できるな」って思える場面があったりする。そこでディレクターが「いや、これね、視聴者ここでもう“ボウダ”だから」って。

水野:ボウダ?

登坂滂沱(ぼうだ)の涙。

水野:ああ、その滂沱か!(笑)このシーンで視聴者が泣くぞと。

引き03

登坂:そうそう。そういう表現で見ているひとを表現するのかぁって。他のひとは「え?」って思うところでも、自分のなかではハマっちゃうこととかたまにありますね。

水野:おもしろいですね。

登坂:水野さんが作った曲で、2012年のロンドンオリンピックのNHK放送テーマソングがありましたよね。

いきものがかり『風が吹いている』

水野:はい、あのときはお世話になりました。

登坂:あの曲、冒頭が<時代はいま 変わっていく>っていう、すごい「お~!」みたいな。来たー!みたいな。

水野:恥ずかしい!デカいですからね、オリンピックというイベントがデカいので。それで大袈裟になっちゃったんですけど。

登坂:その壮大な感じとか、時代感とか世界観…そういう時間の感覚みたいな表現がスポーンッ!と来るタイプです。

水野:すごく嬉しいんですけど、恥ずかしい(笑)分析をされている。そういうところをアナウンサーさんは見ているんですね。

登坂:いや、僕はただ個人的な趣味です。

水野さん04

用意しておく言葉の引き出し


水野
:たとえば実況されるときとか、何かをレポートされるときに、やっぱり引き出しを用意しておかなきゃいけないと思うのですが、そういうものを集めていらっしゃるんですか?

登坂良い表現とか、素敵だなと思った表現みたいなのは、集めていましたね。今も多分、名残はありますけれども。

水野:ノートにメモとかも、されるんですか?

登坂:メモしていました。「これはなんでこういう表現をしたのかな」と考えたり。たとえば、お正月とかだと、喜ばしいときに、嬉しいとか言うよりも、寿ぐ(ことほぐ)のほうが品良く感じるのはなぜなのかなとか。

水野:ああ、なるほど。

登坂:日本語の知らないことがたくさんあったので、そういうことを勉強するためにも、やっていたような感じでしたね。

水野:それって、すぐに出てくるものですか? 覚えたら。

登坂:うーん、使うシチュエーションがどこなのか、簡単にはわからないですよね。それに同じように使ったらただの真似になるので。どういうときにフィットするのかなとか。

水野:溜めていても、このシチュエーションだ!ってときに、パッって出てこない気がして。

登坂:そうですね、そんなにすぐには出てこないですね。

水野:そうですよね。

登坂:スタッフと一緒に番組を作りながら、コメントを考えるじゃないですか。言葉をみんなで探すんですね。そういうことをやっていると、少しずつコネクトが良くなっていくみたい経験はたしかありました。本当に優秀なプロデューサーとかは、どんどん言葉が出てくるんですね。すごいなぁと思っていました。

水野:そういうのが得意な方もいらっしゃるんですね。

登坂:ええ、番組を作っていたりすると、ボキャブラリーがすごくて。かっこいい言葉で、ここで決める。オープニングでもっといい言葉を使おうと。そういうときのワーディングがピタッ!って、くる。「なぜ、~の歌は時代と響き合っていたのか!」みたいな。

水野:ああ、すごいな。

登坂:でも歌詞を作るときって、水野さんはどういう感じなんですか? 全然「冷静」のテーマから離れているんですけど。

水野:大丈夫です。離れるのはいつもなので(笑)

登坂さん04

登坂淳一
1971年生まれ、東京都出身。
1997年、NHK入局。18年、NHKを退社しフリーに転向。
2021年4月末、第1子となる女児が誕生。同年10月に「イクメン オブ ザ イヤー 2021 芸能部門」も受賞している。

”気持ち”は乗ってもいい。でも肝心なところは”聞かせてもらう”


水野
:語彙っていうのは悩むところで。アナウンサーの方もそうだと思うんですけど、あまりに細かい表現になったり、突飛な表現になったりすると、理解されないじゃないですか。

登坂:ええ。

水野:いきものがかりとかは、世代を広くとって、聴いていただいているので、どの世代のひとにもわかる言葉でって考えていくと、いわゆる“普通の言葉”になっていくんですよ。その塩梅が難しくて。

登坂:そうか、そうか。だからスッと入ってくるのもありますし。たしかに幅広い世代に支持される要因がありますよね。

水野:だから自分を出すというよりは、パズルのピースを見つけていくという感じのほうが、近いんです。

登坂:そうなんですね。自分もアナウンサーとしてリポートするときは、伝えようとしていることが、どれだけ引き立つか。際立たせることができるか、みたいな選び方をしていました。

水野:それって苦しくはないんですか? アナウンサーの方って、自分を出しすぎてはいけないという宿命を背負っているじゃないですか。

登坂:主役ではないと思っていましたね。そういうものだって思っていましたから。

水野:ああ、そうなんですね。

登坂もちろん、そこに“気持ち”は乗ってもいいと思うんですよ。相手の話にすごく共感するとか、自分の“気持ち”は乗ってもいい。でも、肝心なところは“話していただく”というか、“聞かせてもらう”というスタンスだった気がしますね。

水野:自分を出さないってことが、詞を作る上でも結構、大事なことだと思っていたんですよ。それと同じようなことをずっと強いられているというか、やらなきゃいけないアナウンサーの方って、どんなふうに乗り越えてらっしゃるのかなって。いつも興味があるんですよね。

登坂:たとえば今だったら、逆に自分の素の部分も含めて出していっているのですが、それはそれで最初はすごく違和感があったんです(笑)

水野:ああ。逆に出すことのほうが不自然で。

登坂:とはいっても、そんなにもともと「俺を見てください!」みたいな感じではないから。

水野:でも、アナウンサーという仕事を選んでいるじゃないですか。人前に出たりとか。なぜ、アナウンサーを選ばれたんですか?

登坂伝えたいと思うことがあったんですよね。自分が言葉で伝えたいって。世の中の同じ社会・同じ時代で暮らすひとたちの日々の出来事の喜怒哀楽とか。その間にあるような微妙な想いをしながらみなさん生きているから。そういう何かを切り取って、今の時代の一片として伝えたいという気持ちがあったんですよね。だから自分を伝えたいわけではなかったんですよね。

水野:かっこいいなぁ。掘っても、掘ってもかっこいいなぁ。

登坂:いやいや。

後編③につづく…


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