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読む『対談Q』 水野良樹×ジェーン・スー 第4回: 自分の居場所って、自分がいちばんわかるから。

HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されている『対談Q』。こちらを未公開トークも含めて、テキスト化した”読む”対談Qです。

今回のゲストはコラムニストのジェーン・スーさんです。

前回はこちら


結局、ユリイカのために生きている。

水野:読者のみなさんから、「同じような経験をした」とか、「文章に勇気をもらった」とか、たくさん来ますよね。なんなら、仕事のジャンルは違っても同じように、「何か自立の道を歩んでいきたい」とかおっしゃる方も多いと思うんですけど。そういう言葉に対しては、どんなふうに感じるんですか?

スー:「わかる」って言ってもらえるのが、いちばん最初にポッと花開く感じ。熱がポッと上がる感じで嬉しいですね。で、次の段階になると、それをもう一段深めてくれたり、私が思いつかなかった言葉で感想をくれたり、本当書いてよかったと思う。私、結局、ユリイカのために生きているということが最近わかって。

水野:なるほど。

スー:「そういうことか!」っていう楽しみって、お金じゃ買えないし、その瞬間に自分で味わえるもので、それにいちばん価値がある。そのために書いている感じですかね。だから感想で、「わかる」とか「私はこう思う」とか言われると、自分の書いたことに「あー、なるほど」ってもう一段、理解が深まって嬉しい。

水野:追っかけられるのはどうですか?

スー:追っかけられてないですよ。

水野:いや、追っかけられている気がする。フォローするというか。「こうなりたい」って。

スー:あー、なんかニヤニヤしています(笑)。本当にこうなりたい? よーく考えて? 安全圏から見ていたほうが多分楽だと思うよ? って。まぁなんとなく、「ああはなれないけど、見ていておもしろいおばさん」というか。

水野:そっかぁ。でもやっぱりそこにすごく冷静なのが、「品」なのかなぁ。


4階マジやべー。


スー水野さんがさっきからおっしゃっている、踊り場感っていうのは、私は体感としてはめちゃくちゃわかるんですよ。ただ、私の方が多分、踊り場に腹が括れているんだと思うんです。水野さんはずっと、「4階に来い」って話が来ているんですよ。

水野来る。

スー:私は4階からとくに勧誘がこないから、ここで「よし、キャンプ張るぞ」ってなるけど。水野さんは、4階から誘いが来る。そのために自問自答しなきゃいけないから、大変だなとは思う。

水野:下品なことを言っちゃうと、僕が商品としてみなさんに価値を生むものって、やっぱり4階だと思うんです。4階って、太陽が当たるところみたいな感じですかね。で、「そこにいる人間だ」って言われ続け。だけど、そうじゃないってことの折り合いが最近になって、どんどんつかなくなっている感じがある。

スー:でもさ、4階行ったら、全然音楽と関係ないCMにひとりで出るとか、そういうことだよ?

水野:ないと思うんですけどね(笑)。

スー:それができるひとっているじゃないですか。まったくそれを嫌だと感じずにできるひと。それが4階の住人ですよ。

水野:すごいと思う。

スー:ホントすごいよね。4階マジやべーって感じ。

水野:こないだね、別名義で小説を書きまして。曲を作って、ミュージックビデオを撮ってもらったんですよ。僕、ひとりのミュージックビデオって初で。自分だけが映る状態が、非常に笑けてきちゃって。なんならカメラは僕を狙っているわけです。当たり前ですけど。

スー:そりゃあそうですね(笑)。

水野:メイクさんとかも、ピアノ弾いているときにちょっと髪がかかったほうがカッコいいからとか、丁寧にやってくれるわけです。なんかもう…笑けてきて。これをまともに受けられるひとって、すごいなって。

スー:そう。で、どこまでそうやっている自分を楽しめるか。何回もやれば慣れるとは思うけど、イベントとしてじゃなく本質的にそれを楽しめるか。そこはやっぱり神様に指をさされているか、さされてないかだと思う。

水野:そうですよね。だから自分はそこには行けないんだけど、これが、めんどうなことに”グループ”はそこに行かなきゃいけないから、ややこしいんですよ。

スー:わかるわ。大変でしょうね。でも、それでニヤニヤやっていくしかないんじゃないですか? オーケストラピットみたいなものですよ。あそこ踊り場じゃないですか。他にそういうバンドってありそうですけどね。

水野:でも大体、作っているひとと歌っているひとが同じ場合が多いんですよ。比べちゃいけないんですけど、サザンオールスターズって、桑田さんじゃないですか。

スー:そうですね、桑田さんですね。

水野:で、もう国民の人気者じゃないですか。わかりやすいじゃないですか。…なんか愚痴になっちゃうな(笑)


チーム・踊り場でいましょうよ。


スー:おっしゃりたいことはわかります。でも、自分の居場所って、自分がいちばんわかるから。注意深く見ているとわかると思いますよ。「あ、ここ、無理だ」とか。私はそれで撤退した場所もいっぱいあるし。私たち、運がいいのは、4階に行きたくて行きたくてしょうがないのに、神様に指さされないひとが9割じゃないですか。……って、その顔(笑)。

水野(笑)

スー:でも、それがいちばん苦しいと思うんですよ。ほとんどのひとが目指すところが4階だから。

水野:ライブハウスで対バンしていたバンドたち、99%もういないんですよ。

スー:そうでしょうねぇ。

水野:僕より才能あったミュージシャンたくさんいたし。タレント性があったミュージシャンたくさんいたし。だけど何の因果か、僕はまだやれている。そうなったときに、「お前、4階に行ける可能性があるのに、何迷ってやがるんだ」っていう気持ちが、なんかあるんですよ。

スー:なるほどね、なるほどね。

水野:こんなこと思う必要ないのかもしれないけど、なんか、失礼だなって。

スー:もう、水野さん、何も背負わない! 2022年は何も背負わない。誰の何も背負わないで、自分のことだけ考えて。真面目が裏目に出そう。やりたいんだったら、やったらいいと思うんですけど。でも私は絶対に背負わないようにしています。誰かのためにみたいなことは。

水野:そうなんですねぇ。かっこいなぁ。

スー:チーム・踊り場でいましょうよ。

水野:チーム・踊り場(笑)。

スー:これ言ったら渋公にめっちゃ怒られるけど、渋公って踊り場じゃん(笑)。この先に行けるのか、行けないのか。

水野:絶妙なんですよー。

スー:ずーっと渋公やっているの。「あ、このひと渋公なんだ」って。

水野:渋公の2階席の関係者の表情って、本当に絶妙なんですよ。「ここから行くぞ」って顔もしているし、「俺たちが育てたぞ」って顔もしているし。

スー:でも、水野さんは同じチームのメンバーに、神様に指さされたことに何の疑いも持たない方がいらっしゃるじゃないですか。それはその列車に乗せてもらいましょうよ。

水野:そうですね。いやぁ…ちょっとおこがましいんですけど、共通点も話させていただきましたし。その共通点があるからこその、先輩からの助言をいただき。

スー:超偉そうでごめんなさい。

水野:総じて、適度な距離感であったり、適度なフランクさであったり、「適度」っていうのが大事なんですよ。絶妙にいい感じっていう。それが全体の信頼とか品に繋がっているっていうことは、今日のお話を振り返っても、わかるんじゃないかなと思いました。また、家に持ち帰りまして…。

スー:いやいやいや。

水野:考えすぎるなって(笑)。

スー:「4階に行かないことが品」っていう(笑)。

水野:今日のゲストは、ジェーン・スーさんでした。ありがとうございました。

スー:ありがとうございました。


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