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読む『対談Q』 世武裕子さん(映画音楽家) 前編①

読む『対談Q』 水野良樹×世武裕子


HIROBAの公式YouTubeチャンネルで公開されている『対談Q』。こちらを未公開トークも含めて、テキスト化した”読む”対談Q

今回のゲストは映画音楽家の世武裕子さん。
10月28日発売の『OTOGIBANASHI』にて「哀歌」という楽曲をサウンドプロデュースしてくださっています。水野良樹とは、なんと同い年。はからずも同級生対談となった2人のトークは、笑顔が絶えない明るいトーンのまま、さりげなく深いところまでたどり着きます。



「音にするとはどういうことか?」をテーマにしたけれど


水野
:よろしくお願いします。始めたいんですが、収録始める前に、もうだいぶ喋っちゃったな。

世武:40分ぐらい喋ったので、もはや喋り終わりましたね(笑)

水野:『対談Q』はひとつの問いを立てて、その問いを一緒に考えて頂くコーナーでして。

世武:ああ、はい。

水野:映画とかドラマとか、ポップスも含めていろいろな音楽を作っている世武さんには「音にするとはどういうことか」という問いをね、一応、考えたんですよ、真面目なテーマを。どうですか?

世武
:「音にするとはどういうことか」って…YouTubeでそんな真面目なこと、知りたいひといる?(笑)

水野:そう!YouTubeで真面目なことをやろうとしたら、全然再生数、伸びないんだよ(笑)!でも、それでいいの!僕が聞きたいことを喋っているんだから。そういうスタンスで行こうかなと。

チャンネル登録よろしくお願いします…。ぜひとも…。

世武:そうか。私なんか、「5秒のうちに笑えないと」みたいになっちゃって。だから、メールでこの企画をもらったときに「いやまぁ良いですけど…」って思って、スルーですからね。返信すらしてないで今日ここに来ています。

水野:で、来た途端に全然関係ないことを喋り始めて(笑)。

世武:そうそう。

水野:「東京は合わない」とか言い始めて。

世武:ははは。

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世武裕子さん(映画音楽家)
映画音楽作曲家。近年手がけた主な映画に『Pure Japanese』(松永大司監督/22)『空白』(吉田恵輔監督/21)『Arc アーク』(石川慶監督/21)『星の子』(大森立嗣監督/20)などがある。また、編曲家・演奏家としてもFINAL FANTASY Ⅶ REMAKE、Mr.Children、森山直太朗などさまざまな作品やアーティストを手がける。

水野:今ね、世武さんは(広島に)生活拠点を変えたりされていて、常に広島東洋カープを応援する日々を送られていると。東京は合わないですか?

世武:久しぶりに来たら「あれ?」みたいな。東京って何がおもしろかったんだっけ?ってなっちゃった。

水野:そういうセンサーがいつも張られていますよね。いろんなことに対してビビッドに応える方だなって思うんですけど。

世武:ほとんど反射神経かもしれないですね。良ければいいし、悪かったら「はい次」って感じだから。どんどん流していっているので。

水野:うん。

世武:だから、今、おもしろくないことでも、もしかしたらおもしろいかもしれないのに「あ、もういいや」ってなっちゃうこともあって。(流すのは)良くも悪くもですね。まぁ悪いときのほうが60%くらいだけど…。


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水野:音楽作るときに、論理でいくタイプですか?

世武:論理じゃないと思う。だから今回アレンジやったじゃないですか。多分早かったと思うんですよ。作ったの。

HIROBA『OTOGIBANASHI』
世武さんには、皆川博子さん作詞、吉澤嘉代子さん歌唱の『哀歌』をサウンドプロデュースして頂きました。

水野:早かったよ。ビックリしたもん。あれ、打ち合わせしてホント数日後ですかね。もう「バイク便を送ったら、返ってきました」ってくらい。本当にすぐ「第一稿ですよ」って来て。

世武:打ち合わせして、待っていたんですよ。吉澤さんがどのキーで歌うか、その連絡が来たらすぐやろうと思っていて。

水野:はいはい。吉澤さんの仮歌がまだ届いてなかったんだよね。

世武:そう。私、吉澤さんが歌ってくれる前の、水野さんのものすごいこぶしが効いた仮歌の、熱いパッションのデモを聞いて、つくりはじめちゃっていて。

水野:仮歌がくどいって有名なんだよ、あれいつか公開するから(笑)

世武:上手でしたよ。だから実はインタールード、途中の間奏を作っているときぐらいに、吉澤さんの仮歌がきて。

水野:もう進めていたんだ。

世武:そう。で、吉澤さんの歌が来たら差し替えて。でも、そうするとニュアンスが変わってくるから、そこで尺をまたちょっといじったり。修正をして。

水野:パッとイメージが沸いたものに対しては早いってことですか?

世武:それがね、もちろんイメージが湧かないと曲は書けないし、アレンジはできないんですけれど…。イメージが沸くか湧かないかをもう通過してない。

水野:通過してないんだ。

世武「今、私はアレンジをやるって決めました。やるって決めたから、はい、やって!」って感じなんです、自分自身に対して。「どうしようか」って一回考える段階がないんです。

水野:いやぁもう…ズシズシくるわ。すごいなぁ。

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世武:もしかしたら脳みそを通過してないのかも。

水野:頭でこねくりかえすんじゃなくて、バッって入って来て、一瞬で転換されて音になっていくってことなのかな?

世武:喋っているときもそうだし、大体全部そうなんですよ。「これを言うか言わないか考えてから喋って」ってよく言われるんですけど、それと一緒です。

水野:うん。

世武:出さないと飽和しちゃうんですよ、脳みそが。だからどんどん出して、出したらある意味、無責任に、自分のものじゃなくなる。そうするとまた次、生まれてくるものがあるから、ちょうどバランスがとれるというか。

水野:推敲することはあるんですか? 出てきました!ラフでデモを作りました!さぁ、そこから修正というか。「やっぱりイメージ違ったな」みたいなことはあるんですか?

世武:うーん…。ない気がします。

水野:ないんだ。

世武:コンプレックスでもあるんですよ。たとえば、作ったものが、もしかしたらB案が良いのかも、C案が良いのかもってやるひといるじゃないですか。

水野:はいはい。

世武:それが、全然できないんで。ああいうのやっているひとって、我慢強くて人間の器デカそう、みたいな(笑)。羨ましい。

水野:たとえば「哀歌」の話でいうと、曲6分くらいかな。全部ひと通り、浮かんでくるんですか? 

世武歌詞を置いておいて、歌詞を見ているんだけど、あんまり何も考えてない。ただその文字を見て、そこに自分がどう思うかを考えてない。すごく言葉で説明しにくいんですけど。文字だけ見ている。文字だけ見たもので、何にも考えないで作る。これ意味わからないかもしれないんですけど…。

水野:よくわかるけど、自分はそれできない。

世武:じゃあ、たとえば今回の曲どうやって書いたんですか?

水野:皆川先生から歌詞が来ました。で、ズシンと来た。ていうのは「これ、書けるのかな?」みたいな。読んじゃうときは論理で考えるから。読むと「あ、これは生死を扱っている言葉だな」って。

世武:うん。

水野:いろんな想像が始まっちゃうじゃないですか。そうすると「これに向き合うの大変だな」ってところで一旦止まっちゃうんですよ。だから結構、歌詞を眺める時間が長かったというか。「始めるのどうしよう」って。

世武:ああ。


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水野:でも(世武さんに)合わせるわけじゃないんだけど、つくり始めたら違うものが働くんです。違うエンジンが働く。頭で考えるっていうよりは、感覚で導かれるように出てくるというか。「ああ、そっちなんだな、こっちなんだな」って。

世武:歌詞に引っ張られていくというかね。

水野:そうそう。あと絵が浮かんでる。映像が浮かんでることが多くて。パキッとしたものじゃなくて、イメージが連続してて。共感覚に近い。この場面にはこのメロディーだっていうのがあるんですよ。それを探し当てるような感じ。

世武なんか音楽家のひとの話って面白いなぁ

水野あんたこそ音楽家や!!(笑)

世武:すごいリスナーの気持ちで聞いてた(笑)でも言っていることは、(私と)そんなに遠くないんじゃないですか。

(前編②につづく)




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