読む『対談Q』登坂淳一さん(アナウンサー)「冷静でも”冷めて”いるわけじゃない」後編③
毎回15分終わると、ヘロヘロだった
水野:でも、不思議なのは、ご自身を抑えてニュース原稿を読んでいたのに、登坂さんじゃないと醸し出せない空気が出てくるっていう。
登坂:ニュースを担当して、たくさんのひとに知ってもらったのもありますけど、そこで、みなさんにネットでもいっぱい書かれるとか、いじられるキャラというか、そうなったのがすごくビックリでした。僕はわりと「道の端っこのほうを歩いていたんですけど…」って意識だったので。驚いたし戸惑いもありましたね。
水野:なんか、ぬぐい切れないものが出ていくんですかね。持っているお人柄なのか。
登坂:まぁ、髪の毛を染めるのをやめたとか、それも自然体でというか。そういう意味では、自分を押し殺していた部分をやめて、出ていますからね。
水野:でも、一方で納得する部分もあります。不思議なのは、じゃあ、あのニュースのときの登坂さんと、今の登坂さんとが違うひとかというと、そういう気もしないというか。
登坂:あぁ、そうですか。
水野:ギャップはあるんです。でも、やっぱり上品さとか、穏やかな優しさみたいなのは、もとから持っていらっしゃるものが広がっていったんだろうなって思うのは、なんでなんですかね。
登坂:えぇー。なんか痒くなってきた。
水野:ははは。
登坂:でも、やっぱり伝えるときに、本当にこれをどうしても一生懸命届けたい、伝えたいっていう気持ちはあったんですね。ニュースはわずかな時間で終わってしまうので、これを一度で多くのひとにできる限り伝えたいっていう、そのエネルギーは毎回毎回すごく出していて。
水野:ああ、なるほど。
登坂:毎回15分終わると、へろへろみたいな感じにはなっていたので。この情報が多くのひとに届いてほしいというエネルギーはすごく乗せていたと思うんです。
水野:すごいことですよね。それは、本当にすごいことをされていて。
登坂:でも、自分自身が出てくるっていうのはよくわからないですね。人柄ってなんとなくそういうところがあるのかもしれないですね。他の方を見ていると、滲み出ているなーって感じることはありますから。
冷静でも”冷めて”いるわけじゃない
水野:その場で本気でやられているから、出ていくんですかね。
登坂:音楽でも、ひとつの曲にいろんな想いを乗せて、届け!みたいな気持ちは入っているわけじゃないですか。
水野:ええ。
登坂:そこにエネルギーが乗る。それは目に見えないものなんですけれど、そういう気持ちの強さみたいなものが、ちょっと理由としてあるのかもしれないですね。
水野:デビューした頃に「最終的にはひとだよ」っていろんなひとに言われたんですよ。どれだけ愛されるかとか、どれだけ人間力を持っているかみたいなことだよ、みたいな。
登坂:おお、そうなんですね。
水野:僕はすごく天邪鬼だったので、いや自分は“曲”だと。“曲”で愛してもらうんだと。ということで、人柄なんて関係ないんだって思ってずっとやっていたんですけれど。だんだん最近それに打ちのめされてきて。やっぱり“ひと”って大事だなって。
登坂:やっぱり年を重ねていくことで、考え方とか感じ方とか変わっていくじゃないですか。少しずつ変わっていくのは、自然なんじゃないですかね。それは強くその意識を持って続けて、広がっていって、ステージが違うところに行って、感覚が変わられた…とかそういう感じなんじゃないですか。
水野:そうなんですかね。でも、だから、ずっと冷静でいて、自分を抑えてということをやられている登坂さんに、興味が沸いたんだと思うんです。
登坂:たしかに、たとえばドッキリとか仕掛けられても、状況を把握するとかそういうことを自然にやってしまうので。職業病なんですよ。部屋に入って「あ、机の下に誰か寝そべってるな。これはカメラあるな。手前に座ろうとしたら「奥へどうぞ」って。奥に行ったら壁があるから、あぁなんかここから出てくるな」みたいな。
水野:バラエティ的には、いちばんダメな(笑)
登坂:ははは。ダメですよね。だから展開がもう予想通りで、驚けない。自分がNHKにいたときは、制作する側だったから、作り手側の思考のほうが慣れているっていうか。考えちゃうっていう感じでしたね。
水野:ははは。
登坂:でも「冷静」って、一定だとか、微動だにしないということでもなくて。感情の振れ幅はあるんですよ。
水野:ああ。
登坂:だけど、ある一定の線をはみ出ると、コントロールが効かないというか。感情のほうで「楽しいね!」ってなったり、ビックリしたり、それに振り切ってしまう。だから何かを感じていながら、ギリギリのところで少しだけ突き抜けない。そんな感じを保っていたような気がします。
水野:そのザジ加減は…。
登坂:それが自分の呼吸を乱さないとか、そういう方法論でやっていました。本当に興奮しちゃうと、我を忘れてワーッ!ってなりますでしょう。そういうふうにならないように。
水野:感情は、ここの幅のなかで納めようっていう、その幅のなかでの“密度”がすごく濃い気がします。揺れはすごい細かく振動していて。
登坂:そうですね。かなり振動していますね。そこを保たないと、やっぱり当時やっていた仕事では、パフォーマンスが下がるって自分で思っていたんですよね。
水野:あまりに冷めすぎちゃうときもあるんですか?
登坂:いや、冷静だからといって、冷めていることはないんですよ。逆に冷めるっていう感じはなくて。むしろ結構な高い温度で保たれている感じの冷静。
好奇心で掴みつつ、声は整えて。
水野:それを振り返って、登坂さんのYouTubeを観てください(笑)。
登坂:あれは勢いもありますからね(笑)あとは、あまり先入観を持たないでやっているんですよね。集中してやらないといけないところもあって。入念に何度も、何度も読んだあとにやるとかはしていないんですよ。
水野:そうなんですか。
登坂:そうなんですよ。わりとファースト。1回でやる感じ。
水野:読み直しとかしてないんですか?
登坂:明らかに間違えたときはやりますけど、なるべくならないように。
水野:THE FIRST TAKE的な。
登坂:ははは(笑)なるべくそういう感じで。そのほうが没入感が自分のなかでもあるんですよね。要するにニュースでも、新しく入ってきたツッコミのほうが「何があったんだろう」って集中するので。ふっと湧いた疑問とか、好奇心とかで、そこを掴むみたいな感じでやっていたんです。そっちのほうが慣れている。
水野:好奇心で掴みつつ、声は整えて。
登坂:そう、声は普通に出す。
水野:すごいな。だって、このニュースの展開が次にどうなるかわかっていないわけですもんね。
登坂:そうですね。でもそんなに一報で長いことはないので、紙にすると2枚ぐらいだとするじゃないですか。そうすると、パッともらって、開くわけですよ。タイトルとか見て、何が起きたかを把握するわけですよ。それで2秒くらい「おぉ…!」ってなっているんですけど、表情を動かさない。
水野:うわぁ、こわいなー。
登坂:だから本当、一時、能楽とかに興味をもった瞬間がありました。あのひとたちすごいなって思ったときがありましたね。顔には出さないで、すごいことが起きているっていう気持ちは持って、1回落ち着いて、やる。「今入ったニュースです」みたいな感じで。
水野:今のお話って、芸事に繋がる気がするんですよね。やっぱり歌も、盛り上がりすぎちゃうとダメだっていうのは、よくみなさんおっしゃいますから。言葉とか音声を使ってやる仕事には、めちゃくちゃ参考になるお話をいただいた気がします。
登坂:えー、そうですか。いやぁ…なんか全然…。
水野:多分、ご自身の価値に気づいていらっしゃらないんじゃないですかね(笑)。僕が言うのも大変おこがましいんですけど。みなさんすごく「面白い」とか「このひととんでもない」っていうふうに。まだ登坂さんに発見がたくさんあるんじゃないかなって。
登坂:ありがたいですね。自分ではあんまりよくわかってないところは結構あります。
水野:長らくお話を伺ってまいりましたけれども、今日のゲストは登坂淳一さんでした。ありがとうございました!
登坂:ありがとうございました!
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