黒猫は泣かない。解題




僕はよく曲から着想を得て作品を描くことが多いのですが、
この作品も多分に漏れずそうです。


それでも世界が続くなら
「参加賞」

苦しくていい 慣れてるから
辛くてもいい 慣れてるから
痛くてもいいよ 慣れてるから
でも優しくしないでよ 泣くから


この歌詞を聞いたとき、
自分の経験と重なり、
中盤の回想シーンが浮かびました。

YouTubeを見てくれている方にはわかるかもしれませんが、
僕の子供時代は家にも学校にも居場所がなく、毎日が地獄でした。


ただ、僕は山田くんと違ってとても弱かったので
毎日のように泣いていました。本当に毎日。
泣かない日がなくて。


それでもあまりに辛い日々の中、
ある時、
「感情を殺してしまえば楽になるのではないか?」と思うようになりました。

そして、2週間ほど、
自分を感情のないロボットと思い込み生活するようになりました。


ちょっとだけ楽になりました。

泣く回数が減りました。


ただそれと同時に、

何か心の中でとても大切なものを失っていってるような気がして、
でもそれには気づかないふりをして日々を過ごしていました。



ある日、
前の席の女の子が、

「大丈夫?」

と心配そうに優しく顔を覗き込んできました。

「やばい…」

と思った僕は何とか
周りにバレないよう我慢して
唯一1人になれる
帰り道に辿り着いたとき、
そこで一気に涙が溢れました。

それまで2週間、堰き止められたダムが溢れ出すように。



いま大人になって思うのは、

人間というのは
嬉しくても泣くことがあるし、
辛くても笑うことがある。

それはきっと精神衛生上あまりよろしくないことかもしれないけど、

ただ、
まだその感情の発露があるうちはいいと思うんです。
それが人間だから。


きっと一番問題なのは、
全ての感情というものを失ってしまったとき。
心と呼んでいいのかもしれないけど、
それを失ってしまったとき、
人は人でなくなってしまうのではないのかな、と思います。



痛いのはやだし、
辛いのも悲しいのもやだけど、
でもそれがなくなると、
人に優しくされて温かいと思うところや、
嬉しいと思う気持ちも同時にになくなってしまう。

だとしたら
そっちの方が嫌かもな、、と


今はまだそんなことを思えています。




また、
これはエレクトピアにも通ずる話ではあるのですが、

そうして人間性が欠落し、機械的になるほど、思考は停止しシステムの一部となっていく。
そして、その先にあるのはアウシュビッツのようなものではないかと思っています。

ユミはそれになりかけていたわけですが…。


片や、反対に人間的な感情の発露の仕方によっては、

何気なく言った一言や行動が、
人を救いもするし殺しもする。


今作でユミは、
理由のない無意識下の一言により山田くんを生かし、そして殺すことになるのですが、

その何気ない
無意識下の言動の中にこそ、
人間の、「優しさ」や「悪意」の本質が含まれているのではないのか、と思っています。

それは、
名付けようのない、
人間としての本質的な「何か」なのかもしれないですが。

(↑その「何か」に関してはまだまだ自分の中で考えてる途中というか、
もう少し掘り下げて描きたいなと思っていて、今三途の川アウトレットパークの話のひとつとして描いている最中です。もしお目にかかる日がきたら、「あ、あいつがあの時言ってたのこれか!」と思っていただければ嬉しいです。)




話が逸れたので
戻すと、


無意識下の言動には、
人としての本質的な「何か」が含まれる。(それを人は「優しさ」と呼んだり「悪意」と呼んだりする。)

だからこそ、
そういった無意識下の言動が、
人に決定的な何かを及ぼすことが多い。


そういった無意識下をコントロールできるようになれたら1番いいのかもしれないけど、
それはとても難しいことだし、
意識的になると、そういった無意識下の決定的なエネルギーみたいなものを無くしてしまう可能性がある。

そうやって
無意識と意識の間で波に揺られるように上手く生きていかなければいけないんだろうなあ…と。



そんなことを考えながら描きました。

別に誰かを断罪したいとか、
称賛したいとか、
そんなんじゃなく、

それを思ったとき、それがとても大事なことのように思えたので
描きとめておきたいな、
と思って。


数多ある本の中から、
この本を手に取ってくださり
ありがとうございました。


この先、
人に優しく出来ないとき、
逆に優しくない仕打ちを受けたとき、

この本が
山田君にとって、
ユミにとってのハンカチのような存在になれば嬉しいです。



PS.

後に、それでも世界が続くならのボーカル篠塚さんに
「黒猫は泣かない。」を読んでもらったら、
この漫画と酷似した経験があるそうです。

僕はきっとそれを無意識のうちにあの曲から受け取って
この物語を描いたんだろうなぁ…と。

芸術ってすごいなあ…。

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