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佐藤伸治くんの詩集「ロングシーズン」を買う

フィッシュマンズとの付き合いはそれこそ30年以上になるのに先日初めて「ロングシーズン」を買った。奥付を見ると初版は2000年2月発行とある。j自分の環境的には大阪から東京に戻ってきてテレビ局のプロモーションを担当していて一番忙しくしていた頃だった。

担当しているテレビ局の番組のディレクターがフィッシュマンズが好きでその前の年に出た「男たちの別れ」アルバムを聞いて感動したと話してくれたので持っていた「フィッシュマンズ辞典」をあげた。他のレーベルのプロモーターだった年下の女の子がフィッシュマンズが好きなんですと話してくれたので自前で持っていた「ラママライブのカセット」(映画でも使われた8mmビデオから音声だけをコピーしたもの)をあげた。佐藤くんが亡くなってから自分的にフィッシュマンズの音楽に聴くことがしばらく難しい時期があったけどフィッシュマンズが好きだと言ってくれた人には自分の持っていた形見のようなものを共有したいと思っていたのかなと思う。

その後、結婚して生活環境も変わり会社の仕事も音楽の部署から映像作品を扱う部署に移動したため音楽自体に離れていた時期がしばらく続いた。そんな時に気づかないうちに「世の中がフィッシュマンズを取り巻く環境が変わったんだな」と思ったことが一つある。映画作品のプロモーションに携わっている時に人気韓流スターのイ・ビョンホン主演の映画「甘い生活」キム・ジウン監督の来日プロモーションに同行した時のことだ。キム・ジウン監督はホラー出身の映画監督で韓国で「箪笥」という作品をヒットさせ人気韓流スターのイ・ビョンホン氏主演の「甘い生活」も大変に話題になったタイミングでのプロモーション来日だった。様々な取材をこなした来日2日目の昼食時、監督の好物である日本のうなぎを麻布の有名な鰻屋・野田岩本店で食べましょうとなった時だったと思う。

前後で何の会話をしていたか全く記憶にないのだが好きな音楽とかそんなことについて他愛もない話をしていたのかも知れない。キム・ジウン監督がわりと唐突に「日本のフィッシュマンズが好きです」と言う話をし始めた。取材スケジュールも順調に進みまた好物のうなぎを食べるというところで監督もリラックスしていたのだろう。「え?バンドのフィッシュマンズですか?」と僕は思わず聞き返した。「そうです。日本のバンドのフィッシュマンズです。彼らのサウンドが好きなんです。彼らは韓国の若者の間でとても人気があります。」通訳の方を通じて聞いたのだがこんな内容だったと思う。その時は韓国の若者たちはCDも発売していないし(ナップスター的なネット上でのファイル交換みたいなものはあったかもしれない)、ライブもやっていないのにどうやってフィッシュマンズを知って好きになったのかとかなど疑問しには思ったが、私はキム・ジウン監督のような異国の一流のクリエイターがフィッシュマンズを大好きだと聞いて舞い上がってしまった。「自分はフィッシュマンズの初期のスタッフだったのですよ」とか「明日あなたのために初期の貴重なCDサンプルを持ってきます」なんて言ったのだと思う。翌日韓国に帰国するキム・ジウン監督のお見送りのタイミングに家に1枚だけ残っていた「Chappie,Don't Cry」ヴァージン・ジャパン初回盤デジパック仕様を(すでにあまりキレイなものではなかった)がプレゼントしたと思う。キム・ジウン監督も喜んでくれたように見えたと思う。今思えば非常に自己満足的な行動だったがとても誇らしい気持ちになったことを憶えている。

音楽から離れていた仕事をしていた2000年代で唯一フィッシュマンズに触れる機会が今思えばその時だった。その後キム・ジウン監督と仕事で再会する機会はなかったが、随分経ってから韓国で「空中キャンプ」なるカフェ(ライブハウス?)があることを知った。日本語がわからなくてもフィッシュマンズの音楽の素晴らしさが伝わるんだということが理解できるまで随分と時間がかかったものだった。

最後まで読んでいただいたありがとうございました。個人的な昔話ばかりで恐縮ですが楽しんでいただけたら幸いです。記事を気に入っていただけたら「スキ」を押していただけるととても励みになります!