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1991年夏「ロング・シーズン」は確かにあった

新宿ステーションスクエアで開催されたヴァージンメガストア1周年記念のライブの1ヶ月前となる1991年7月26日、フィッシュマンズは現在は東京ドームシティとなった後楽園ゆうえんちの野外ステージ「ルナ・パーク」にS-KENさんプロデュースのスペシャルイベント「東京ラテン宣言スペシャル'91」に参加した。この日は「Panic Paradise」でも一緒だったあのKUSU KUSUとフィッシュマンズが出演したはずだ。というのは自分はなにかの用事で遅れて会場に着いたのでKUSU KUSUの演奏は見ていない。フィッシュマンズのメンバー達から「KUSUKUSUの演奏が良かった、上手くなったよね。」とかKUSU KUSUのファンたちがリハーサルを見たいためにジェットコースターに何度も乗っては黄色い声援を上げていた様子について楽しそうに話していたのを後から聞いた。

かつての後楽園ゆうえんちがどういうレイアウト構造であったかはもはや記憶にないのだが確か2階のデッキのようなところを歩いて野外ステージに向かっていった覚えがある。午後の日差しが和らぎ始めた時間帯だったと思う。すでにフィッシュマンズの演奏は始まっており暗いゆったりとしたレゲエナンバーが演奏されていて佐藤くんの切ない声とベースが鳴り響いていた。自分が歩いているデッキより下にあったはずのステージから出ていたフィッシュマンズの演奏はどういうわけか後楽園ゆうえんち中に鳴り響いていた。

「Special Night」?「Future」?いや全く知らないぞ、この曲。悲しげなコード進行にのって佐藤くんのヴォーカルも悲しげに歌い上がる。そしてなぜ野外なのにこんなに美しい残響とディレイが響き渡るんだ?これまで経験したことのないような音の空間に僕は驚愕した。正直その後フィッシュマンズがどんな演奏をしたかもあまり記憶に残っていない。ゆったりとした「FUTURE」はやって最後は「いなごが飛んでる」あたりのノリノリの曲で〆ていた気もする。それだけ未知の暗いレゲエナンバーとその曲が繰り広げた圧倒的な「音空間」があまりにも強烈すぎたのだ。

ライブが終わってPAブース近くにいたディレクターのY君を捕まえて「ねえ、あの暗いレゲエ曲は新曲かい?」と尋ねたらY君はこう答えた「ああ、あれは「Blue Summer」って曲。けっこう昔の曲だよ。」。「すごいいい曲じゃないか!そして今日のディレイやエコーがすごく効いているのは何故なの?」「あれは”ダブ”だよ。今日は大阪から松ちゃんていうすごいエンジニアが来ているんだ!」。松ちゃん=ZAK氏であるのは言うまでもない。


”ダブ”はもちろん自分も知っていた。フィッシュマンズの1stアルバムでも使われていたし。でもさっきのライブで聴いたものは自分が知っている”ダブ”の概念の大きく超えていた。本当にフィッシュマンズの演奏が後楽園ゆうえんち全体を覆いこむような響きの膜のように聴こえてそれがだんだん夕暮れに近づいていく街の風景と一緒になっていくようだった。それは後の「ロング・シーズン」と同じ響きがあの時、確かにそこに出現していた。僕がこのバンドは得体の知れないとんでもない何かを持っていると最初に思った出来事だった。

今思えばあれはフィッシュマンズにとって初めての野外ステージだったらしい。佐藤くんは「あのライブはアマチュア時代にもどったみたいなテレテレしたライブだったけどかなり良かったよ!来年はぜひとも野音でやりたいね!」とラジオで話していた。

最後まで読んでいただいたありがとうございました。個人的な昔話ばかりで恐縮ですが楽しんでいただけたら幸いです。記事を気に入っていただけたら「スキ」を押していただけるととても励みになります!