確かな職人技とブランドの成長を強く感じたSeivson2025年春夏コレクション
台湾人デザイナーのヅゥチン・シンがクリエイティブディレクターを務めるブランド・Seivson(セイヴソン)。確かな実績と名声で確実に世界に歩みを進める同ブランドは、今回「TRACE」というテーマを掲げて最新コレクションを発表した。
日本語で「痕跡」を意味するこの言葉、これは2017年に日本でコレクションを発表してから感じてきた現代社会における情報過多や歪んだ現実、また、それによって傷ついてきた経験を示しているとデザイナーは語る。
今回のコレクションの見どころは「歪み」の表現方法の豊かさだ。
コレクション前半のルックには肩や胸元、下半身では太腿あたりを中心に過度なダメージ加工を施し、そこで生まれた傷を包帯で覆うように何重にも細い布地を重ねることで傷や歪みを表現した。
そんな足元まで全身に広がるダメージ加工だが、それでもいやらしさを全く感じないのがSeivsonの強みだ。ルック中盤ではインナーに半透明なトップスや切りっぱなしのシャツをレイヤードすることで奥深さと軽やかさを同時に表現することを可能にしている。
もともと繊細で儚さを強く感じるクリエイションを多く発表してきた同ブランドにとって、過度なダメージ加工をフェミニン且モードに落とし込むその表現方法には流石の一言だ。
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また、ルック後半に登場して観客の視線を集めたのがアースカラーをカラーパレットとしたボンバージャケットやデニムパンツ、短丈のカットソーやキャップなどを中心としたストリートを彷彿とさせるアイテムの数々だ。
近年台湾や韓国など東アジア(日本では爆発的に流行している印象は受けないが)を中心に高い人気を集めている独特なストリートファッションにも共通するものを感じるが、そこにSeivsonならではの世界観やクラフツマンシップが合わさることで他のブランドとは一線を画す完成度の高さを感じる。
また、今回のコレクションで観客の度肝を抜かした点が、京都の西陣織の技術を用いたルックの数々だ。それに先駆け「Seivson JAPAN」という同ブランドの日本拠点も立ち上げたのだそうだが、視覚的なデザインのみならず、本格的に職人のクラフツマンシップを取り入れた今回のコレクションは、まさしくSeivsonのブランドとしてのレベルを数段上に引き上げることを証明したことになるだろう。
これまで今日の世の中における歪んだ現実や情報過多をテーマにおいたコレクションを発表したブランドは数知れず存在するが、今回のSeivsonほど忠実にファッションとして昇華させたブランドは珍しいと感じた。
また、今回のコレクションでもう一つ印象に残っているのが、フロントローに数名の著名人をゲストとして迎えていた姿だ。いわゆるフロントローのレッドカーペット化にはファッション業界でも様々な意見があるが、フロントローに著名人を呼ぶということは、それほどそのブランドが業界外から客観的な高評価を得ているということ。今回のSeivsonのフロントローの様子を見て、同ブランドが確実に、且凄まじいスピードで成長しているのだという実感もあった。