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15年かけて品種改良し、どこの家でも飾れる可愛らしい胡蝶ラン《ミディー胡蝶ラン》を作りました 

 

話し手  椎名正剛さん

 ❖梨農家から洋ラン栽培を志す

千葉県北東部、太平洋に面し九十九里浜の最北端に位置する旭市で、コチョウランを生産している椎名洋ラン園の椎名正剛です。

 私は、茂原市の学校で農業を学んだ時に知り合った生産者から聞いて洋ランに興味を持ち、ランの生産農家で2年間の研修を経て、1976年にシンビジウムを主体とした洋ラン栽培を始めました。

 父は梨の生産農家でしたが、梨は収穫が年に1回で、台風などで大きな損害を受けることもありました。当時はランの栽培農家も少ない中でもあり、父や家族の反対もありましたが、ランは高価格で取引されていたことから、お金はかかったものの梨畑に温室を建てランの栽培農家となったのです。

  ❖可愛くて品格とボリュームのある胡蝶ランの育種を開始

 当初は、シンビジウムの外、コチョウラン、カトレア、パフィオ、オドント、オンシ、バンダ、デンファレ、デンドロ等、多くのランに取組み試行錯誤を繰り返していました。

 バブル前の高度成長期だったので、ランは業務需要が大半で、豪華で大きなものが高価格で取引される時代でした。でも、そのような中で、「どうしてランはこんなに高いの? 大きすぎて家には飾れないよ!」と、大半のお客さんが話す声が聞こえてきたのです。

コンパクトなランとしては、ミニコチョウランもありましたが、ボリュームが乏しく花持ちが悪い欠点を持っていました。それなら、皆に満足いただけるものを作ろうと私は決意しました。

  ➀ランの品格を保ちつつも可愛らしくきれい
  ②花持ちとバランスが良い
  ③コンパクトで存在感がある
  ④栽培が容易で価格が手頃

との目標を定め、これらを満たすランとしてコチョウランの育種を1983年から始めたのです。

❖15年かけて目指した「ミディー胡蝶ラン」の品種を多数育成


 それからは、様々な親株を入手して交配を重ねましたが、選抜するまで4~5年の年月が必要で、なかなか理想の品種に出会うことはできませんでした。F2代目の交配では最初の選抜までに12年、出願して登録までに3年と計15年がかかり、その間に莫大な資金と時間、労力を費やすこととなりました。

 それでも、育種と同時に栽培方法も改善することもできました。主流だった素焼き鉢での水苔栽培▾からバーク栽培▾に切り替えたことで、フラスコ苗から出荷まで2年半~3年を要していた栽培期間を1年半~2年に短縮し、全体の回転率を大幅に改善することができたのです。

 この結果、大輪のコチョウランとミニコチョウランの中間に位置する育成種を「ミディ―コチョウラン」として、多くの品種を誕生させることができました。ミディーコチョウランは、コンパクトながらボリューム感があり、単体でも存在感のある私が目指していた理想のコチョウランとなり、その地
位が確立されるまでになりました。

ミディー胡蝶蘭



 ❖2022年オランダの国際園芸博覧会で5品種が金賞を受賞

 「ランラン」と「リンリン」の2品種は、それぞれ1万鉢のクローン▾で増殖した苗が商品となり、当時の第一園芸を主体として12主要市場に出荷し、大きな反響を得て好調な販売を得ることができました。注文価格で飛ぶように売れるとともに、セリ価格が注文価格を超えた高値で売れることも珍しくありませんでした。

ランラン                 リンリン

  

 2002年には、オランダのアムステルダム近郊で開かれた国際園芸博覧会(フロリア―ド2002)に5品種を出品し、全品種で金賞を受賞できました。

ナオミゴールド
(2018~2019年フラワーオブイヤー最優秀賞)

  ❖中国北京で苗生産し、アメリカ・ヨーロッパで販売

 その後はアメリカ、オランダからオファーがあり、海外への種苗販売を行う契機となりましたが、日本でのクローン苗▾の価格が高過ぎて国際競争力がなく、大量販売には至りませんでした。

 そのため、生産コストを下げるようと中国の北京に生産を委託しました。品質や変異等の問題も生じましたが、努力の結果2006年から北京で生産した苗でアメリカ、オランダへの販売を始めることができました。その後に育成した品種「ハッピービビアン チュンリー」も年間150万本のクローン苗がアメリカ、ヨーロッパに販売されています。

 海外旅行の旅先で自分の品種が販売され、お客が購入してくれる姿を見たときの感動は忘れることができません。

  ❖家庭でも飾ってもらえる更なるオリジナル品種の開発をめざす
  
 私は、直接購入される消費者と接しながら、どんな品種なら喜ばれるかを考えて開発と販売を行ってきました。消費者に喜ばれる品種の開発が成功に繋がったのだと、育種者としての幸せを感じています。

 一般家庭で手軽に飾ってくれる品種を育成してきたことで、幸いにしてコロナ禍にあっても巣ごもり需要により、前年と比較しても需要は伸びており、これをチャンスとして、花を飾る文化がヨーロッパやアメリカのように定着するよう育種と商品開発に力を入れたいと思っています。

 更に、現在委託農場のある中国とベトナムから、SHEENA(椎名)のオリジナル品種の販売を東南アジアへと広げていくつもりです。

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《話し手の椎名正剛さんは全国新品種育成者の会の会員で、この記事はノンフィクション作品です。》

  

             用語(▾印)解説

水苔栽培:湿地に生育する苔の一種を乾燥・圧縮した水苔を植え込み材料
   として使った栽培。保水性が高く、主にランの栽培に使われる。
バーク栽培:樹木の表皮を砕いたもので、通気性、吸水性、保水性、保肥
   性に優れているバークを、植え込み材料として使った栽培。コチョウ
   ランの栽培に適している。
クローン:遺伝的に同一である固体や細胞(の集合)をいう。
クローン苗:同じ遺伝子を持つ苗木。優良種苗から採取した指し穂による
   挿し木や接ぎ木で増殖して生産される。同じ遺伝子を持つ苗木を大量
   に確保できるメリットがある。


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