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花型・強い香りなど、輸入品にないバラのオリジナル品種を育成し、海外にも進出

   初めてノートに投稿したのが3月の初旬、それから3か月が過ぎ、
  今回11回目の育種体験記の聞き書き作品を投稿する運びとなりま
  した。育種という普通の人には馴染みのない世界で頑張っている
  育種家の話に多くの方が目を通してくださり、10作品累計で100を
  超えるスキをいただけたことに驚くとともに、うれしく思ってい
  ます。4月末に71歳と1つ年を重ねましたが、長くかかる育種に粘
  り強く挑戦する育種家の姿を賞賛し、皆さんに知ってもらうため
  に、益々頑張ってまいりますので、よろしくお願いします。
   これまでの育種体験記で紹介した育種家は、全て全国新品種育成
  者の会(以下「育成者の会」)の会員で、ランを含めた7人が花、
  1人が花木、果樹のぶどうが1人、野菜のスイカが1人となっています。
  30年程前に育成者の会ができた当時は野菜の育種家がほとんどでし
  たが、その後野菜の育種家は種苗会社の育種が主となってほどんど
  いなくなり、果樹の育種家は実がなるまでに期間がかかることもあ
  ってやはり少なく、今は会員の大半が草花の育種家となっています。
  そのため、私の育種体験記は今後も草花の育種家の体験を数多く投
  稿させてもらうことにします。
   11回目となる今回の投稿は、多くの人が大好きなバラの新品種を
  数多く育種されている今井清さんです。今井さんは、主に海外から
  輸入される切り花にはない特性を持ったオリジナル品種の育成を30
  年にわたり続けてこられ、広く海外にも販売されています。2018年
  夏の西日本豪雨により3か所あった農場の2か所が生産中止となる被
  害にあわれましたが、引き続き育種に励まれています。
   では、今井さんの作品を紹介します。


話し手  今井清さん

  瀬戸内海に面する広島県呉市で、バラの育種をしている今井ナーセリーの今井清です。今年73歳となりますが、私は昭和44年に18歳で就農し、病気が多く難しそうなバラの栽培を始めました。

 育種をするようになったのは、当時切り花が多く輸入されていたので、自分がオリジナル品種を作って海外品種との差別化を図ろうと思ったからです。平成5年43歳でした。

 私は、当時大手種苗会社から委託されて苗の生産をしていたおかげで、ヨーロッパの種苗会社に見学に行くことが度々ありました。そこでの育種の様子を見て、言われているより品種はたやすく作れるのではないかと感じたことが、自分もやってみようと思ったきっかけです。平成5年、43歳でした。育種に関する知識は、日本ばら切り花協会の会報を見て学びました。

 目標としたのは、耐病性、多収性、これまでになかった花型と花色、低温下での生産性、香りの強さです。当初の5年間は、母親とするよう品種が見つからず、気に入った品種は創れませんでしたが、苗の生産をしていたことから毎年種苗会社から新しい品種の試作を頼まれていたので、その試作品種の中から期待する親が見つけられたのがラッキーでした。

 育種の一番の問題点は、梅雨時に湿度の高さで種腐れを起こすことでしたが、ヒートポンプ▾を使用してエコモード運転することで除湿が可能になり、育種の精度をを飛躍的に向上させることができました。そうして取り組んだ結果、2004年の5品種を皮切りに、カップ咲き品種、香りの強い品種、スプレー咲き品種等、これまでに約60品種を登録することができたんです。

 そのような特性を持つ品種を作ったのは、輸入するバラにはない品種で差別化を図ろうと取り組んだからです。利用者のニーズにこたえることは大切ですが、流行の変化が速いので、私はそれを気にせずオリジナリティーを追求してきました。育種には時間がかかります。流行を追っても、思うようにはいきません。自分の思う理想のバラをめざして育種しています。

ルージュティーク


アドラ


スペランツァ


ココット


SP  フェアリーチャコ

 品種が持っている最高の形質の組み合わせを見つけるのが、育種だと思います。それが見つかるまでは、チャレンジするしかありません。育成者にとって最高の喜びとは、作り出した花を世界で最初に見られることです。

 今では、世に受け入れられたオリジナル品種を生み出せたおかげで、有利販売ができています。販売する品種は、全国で行われる品種説明会に出向してPRするとともに、ホームページにも紹介しています。今井ナーセリーとしての切り花の出荷と共に、切り花生産者に苗の販売を行い、パテント代の回収や品種の権利自体を販売しています。近年は、ガーデンローズにも力を入れ、種苗会社3社とタイアップして趣味家に販売しています。

 さらに、花の輸入商社を窓口にして海外展開にも取り組み、コロンビア、アメリカ、ケニヤ、エチオピア、ベトナムの5カ国で試作を行い、コロンビア、アメリカ、ケニヤでは、「モンシュシュ」、「ライセンス」等の7品種で約10万本の本格切り花生産に入ってもらっています。海外に進出するには、信用できるところを窓口にすることが必要だと思っています。

 今井ナーセリーは、2018年7月の西日本豪雨で3か所あった農場のうち、倉橋農場(1000坪)と広農場(800坪)の2か所が被災し、生産中止に追い込まれる壊滅的な被害を受けました。倉橋農場は1週間に渡って不通となった道路と電気が回復した後、半年間回復に向けて努力しましたが、結局1本のバラも出荷できませんでした。

 この豪雨で、私の育成品種は10品種程が消失しました。48歳の息子の満が農場の代表で後を継いでくれている(一時コチョウランの育種をしていました)ので、息子に任せて育種だけを楽しもうと思っていましたが、そうもいかなくなってなってしまいました。

 現在は、比較的被害の軽かった1550坪ある野呂山農場で育種に力を入れ、何とか経営を継続しています。私の育成品種は人気があり、他のことをするよりは育種に力を入れた方が生き延びられるのではないかと思ったからです。

 西日本豪雨で被害を受けてから、我が家は悪いことばかりにあっています。更に、コロナの流行よっても結婚式やイベントの中止が相次ぎ、経営は大きな痛手を受けました。しかし、私は育種のおかげでここまでやって来られたんですから、これからも頑張って育種を続けようと思っています。やはり、自分は育種が好きですからね。

 今後も、主幹となる赤かピンクの品種、病気に強く薬剤をあまり使わなくてよい品種、仕事の効率が上がり健康に良い香りを持つ品種の育成を目標として、頑張っていこうと思っています。

   #呉市  #海外品種との差別化   #種腐れ   #カップ咲き品種
#香りの強い品種   #スプレー咲き品種   最高の形質の組み合わせ
#西日本豪雨で被災   #野呂山農場


            用語(▾印)解説  
▾ヒートポンプ: 温度の低いところから高いところに熱を移動させる機
    械。気体の圧縮すると温度が上昇し、膨張させると下がる性質を利
    用して、温度を上昇・低下させ、熱をポンプで移動する。


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