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「ゴジラのたまご」などの名を付けた個性的なスイカを開発

  

    2度目の育種体験記をお読みいただく前に

 3月1日ブドウ「高尾」等を育成した故芦川孝三郎さんの育種体験記をnoteに初めて投稿しました。その後、50名以上の方が私の作品を読んでくださり、感激しています。

 2度目の育種体験記を投稿するに当たり、noteに育種の体験記を紹介する思いの一端を述べさせていただきます。
 
 わが国のグルメブームは、外食元年と言われる1970年にファミリーレストランの「すかいらーく」が出現し、その後1983年にビックコミックに掲載されたマンガ「美味しんぼ」が火付け役となり、始まったと言われています。現在、テレビでは各局が調理番組やおいしいレストラン、郷土料理等を紹介する番組を流し、書店にはレシピ本が氾濫し、その熱は益々高まっているように思えます。

 このようなグルメブームと言われる豊食の時代が実現したのには、バブルによる好景気、海外等の幅広い料理を作る料理人の出現、輸送技術や冷凍保存技術の向上等の要因があることはもちろんですが、我々が食べる料理のもと食材の味や品質が向上し、バラエティに富んだ穀物、野菜、果樹等が数多く開発されていることを忘れてはならないと思います。そこに、新品種を作ろうと努力を続けてきた育種家の存在が大変に大きかったと私が思う理由があるのです。

 稲の育種家であった故角田公正東京大学農学教授は、「肥料、農薬、、農業機械等の関係者に戦後の稲作技術の改善にどれだけ貢献してきたかと聞くと、誰もが自分の分野の貢献度合いが数十%等と高く答える。それを足すと、合計数は100%を優に超えてしまうんだ。しかし、どの関係者も声をそろえて言うことは、育種の貢献度の高さだけは別格だというんだよ。」と話してくれたことがあります。

 育種が果たした貢献は、生産技術の改善だけではありません。稲においては、とりわけ売れる品種を作ろうとの各県による競争が激しく行われています。できた品種の名称も、広く県内から募集して決めたりしているところもあり、以前の品種に見られた相撲力士(○○錦など)のような名称は無くなり、「きらら397」「青天の霹靂」「ひとめぼれ」「もりのくまさん」などの名称をつけての販売競争も激しくなっています。

 そのように育種に力を入れた取り組みによって、かっては必ずしも味がいいと言われなかった北海道などでも、近年は「ゆめぴりか」「ななつぼし」など、美味しいと言われる品種が次々と誕生してきているのです。

  バラエティに富んだ品種をたくさん目にするようになったのは、観賞植物である草花なども同様です。最近は、自分もどんな花なのか名前を聞いてもわからないこともあり、その種類の多さに驚かされます。これまでわが国の気候条件ではうまく育てられなかった海外の花に日本の品種と交配されることによって、日本でも栽培されるようになったものもあります。逆に、日本の花が輸出されて海外で人気を呼んでいるものもあります。

 育種家の努力は、花色、花形、開花時期など、これまでどこにもなかったオリジナルな草花の新品種をどんどん生み出しているのです。
 
 私は6年前に農林水産省を辞めましたが、育成者から出願された新品種が登録すべき要件を供えているかを審査する審査官の仕事に長く就いていました。

 出願品種を調べるために、出願者の栽培圃場に出かけることが度々ありました。どんな品種なんだろうとその品種を見て調査を行うのも楽しみでしたが、審査を終えて後などにその品種を作った育成者のその品種育成にかけた思いや苦労の様子を聞けたことが、何よりもの喜びでした。

 育種は、植物によっては10年、15年以上という長期間を要し、思うような花や実はなかなか得られないリスクを伴う作業です。でも、「こういう品種を作りたい」と目を輝かせて話してくれる育種家の皆さんに、なぜこれだけのモチベーションを保ち続けられるのかとその都度不思議に思いましたが、夢に挑戦し続ける姿に調査をする私が感動し、教えられてきました。

 しかし、より美味しい、草花ならより美しい、丈夫で、栽培が楽で、たくさん採れるといった夢をもって、私達の生活を豊かにするために取り組んでいる育種家のことは十分理解されているとはいえず、費やした労力等の見返りとなる収益も少なく、育種家の高齢化が進んでいます。

 それでも、個人育種家が育成し品種登録に出願した品種数は、平成4年末で27%、登録数は26%を占めており、育種に果たしている個人育種家の貢献度合いは、まだ高いことは述べておきたいと思います。

       

      私の育種体験記



話し手  柳彰憲さん

        

  北海道の札幌から約40キロほど北東の月形町に住む柳彰憲です。私は昭和58年、22歳で就農しました。

 我が家は稲作農家でしたが、政府の減反政策▾によりスイカ、メロンなどに転換して、今に至っています。メロンは夕張メロンが有名ですが、私の住む地域も古くからの産地です。元は青肉メロンのキングエメルテーを作っていましたが、夕張に代表される赤肉メロンの人気が高まり、各地に赤肉メロンを作付けする産地が誕生しました。それによって、青色メロンは価格が下落してしまったのです。

 そのころ、道内で黒皮スイカが注目されるようになり、私の地域でも作付けが始まりました。しかし、当時の黒皮スイカは全て赤肉品種だったことから、黄肉スイカを作ろうと、平成元年からスイカの育種を始めたのです。種苗メーカーでは扱わないような個性的で、楽しい品種を作りたいとの思いからでした。

 東京農業大学時代に遺伝育種学の講義がありましたが、当時は育種には興味がなく、農業を始めてからやりたい思いが強くなって農業雑誌などから学びました。

 黒皮黄肉大玉スイカは、縞皮黄肉の「こがね」と岡山県在来▾の黒すいかを元にして、平成13年に「だいこくおう」名で品種登録を取りました。流通名は「おつきさま」と名付けました。果皮が薄い黒皮暗緑色で高球形、肉質

おつきさま(品種名 : だいこくおう)

がみずみずしく多汁・高糖度で、クリームスイカ特有のさわやかな食味の品種です。黒皮黄肉のは珍しく高級感があり、食味が良いとの評価をもらっています。

 黒皮で赤肉及び黄肉の小玉スイカも育成し、「夏のひととき」の名前で赤肉と黄肉双方をセット販売しています。また、無地皮の楕円形スイカは、ユニークな形から「ゴジラのたまご」の名で柵に入れて販売しています。

 スイカ栽培は、通常ユウガオに接木していますが、栃木県では古くからかんぴょう栽培にはネギを混植すると良いと言われていたそうです。若者がそれを面倒だとやめたら病害が発生しだしました。ねぎの分泌物がユウガオの根をを犯す病原菌を忌避することが後に判明したことから、スイカの土壌病害抑制のために私もネギを混植しています。

 また、アライグマの食害対策に良いと言われ、オオカミの尿を使用しています。

 スイカは縞皮赤肉スイカが主流で、多くの種苗メーカーから発表され、全国の量販店で売られていますが、夏のお中元等の贈り物としては珍しさが足りません。目新しいユニークな品種と目を引くパッケージ(子供たちにも喜ばれています)により、付加価値を高め、贈り物として高値・有利販売をめざしています。主に、札幌、東京、名古屋、大阪の各市場で販売しています。
    

   《横須賀に住む84歳のおばあさんからの手紙》   

   横須賀に住んでいる私は昔、ゴジラが上陸したという設定で、海岸
  に大きなゴジラがいました。ゴジラの映画が上映される度に、孫を連
  れてデートするのが恒例になっていました。嫁に行った孫から東京で
  売っていると「ゴジラのたまご」の写真が送られてきたので、感動し
  て買ってくれと孫に頼みました。孫がわざわざ持ってきてくれた「ゴ
  ジラのたまご」の味はとてもおいしく、たまごのなくなった柵の中には
  ゴジラのオブジェが3体入って、部屋の中心に飾られています。本当に
  このアイデアがすばらしい。ありがとうございました。そして、ごちそ
       うさまでした。

ゴジラのたまご

 私の育成したスイカは、かっては地元の数件の農家が栽培してくれていましたが、その人達が高齢となって重量のかさむスイカ作りを敬遠してやめたり、コンバイン等を使って大規模生産ができる米麦等の作物に転換したりして、だれも作ってくれなくなってしまいました。

 我が家の作業でも、収穫等を頼める人が近所にはいないので、札幌の派遣会社に他の頼んでアルバイトを雇っていますが、アルバイト料も高額となり、アルバイトに払う金を稼ぐために働いているような状態で、苦労しています。

 今後も、スイカでは赤肉で種も赤い品種、小玉白肉で赤い種の品種、メロンでは1玉5㎏以上になる超大玉品種、まくわうりで糖度の高い品種など、個性的で楽しい品種育成に挑戦してまいります。
                  
(柳さんは、全国新品種育成者の会の会員であり、この体験記はノンフィク
 ション作品です)
 
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  #ゴジラのたまご   #オオカミの尿   #ゴジラが上陸
  #赤い種のスイカ    

          用語(▾印)解説 
減反政策: 米の生産を抑制するために生産調整を行う農業政策。生産過剰と
  なった米の生産量を調整し、米の代わりに麦や大豆などへ転換させた。
  国が農業者に生産目標量を配分し、添削支援の補助金を支給することに
  よって調整を行った。1970年に開始されたが、2018年に廃止さ
  れた。
在来(在来品種):ある地域に古くから栽培され、その地域に気候風土に
  適応した生物種やその系統。

                      


 

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