M&A:買収防衛策

ひろです。それでは買収防衛策についてまとめていきます。

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さて、「敵対的買収(会社の経営陣の賛同を得ずに行われる買収)」に対抗するために、企業が導入するのが買収防衛策です。
買収行為を抑止するよう事前に導入するものと、実際に買収が仕掛けられた(たとえばTOB【Take-Over Bid:公開買付】)段階で事後に実行するものに大別されます。

先にTOBについて軽く整理しておくと、上場会社の場合、買収者が2/3以上の持分を取得する場合は全部買付(応募された全てを買い付ける)が求められます。
一方、ヤフーによるZOZO買収のように50.1%の持分取得でぴたりと止めることもできますし、ユニゾ事例のように40%超で実質的な経営権を取得して止める、なんてことも(成就していれば実際にも)できてしまいます。
1/3超の取得の場合はTOBが必要ですが、それ以下であれば特定の株主から取得することも可能です。
日本のTOB制度は買収者にとってフレンドリーと評価してもよいでしょうね。

さて、話を①事前策②事後策に戻しましょう。どのようなものがあるのでしょうか?
書籍を参考に簡単に整理してみます。

①事前策については、(1) 導入時に新株予約権等を発行するものと、(2) 大量の株式買付行為に関するルールを定め、将来的に発動事由が生じた場合に対抗措置をとること等を決定・公表しておくもの(事前警告型買収防衛策)、に大別されます。

(1) は、たとえば割当先を特定の友好者としたり、また、差別的内容(買収者は行使できない等)の新株予約権を信託財産として信託銀行等に留めおき、買収者が出現した場合にその時点の全株主に新株予約権を交付する(信託型ライツ・プラン)、等があります。
しかし、友好者はどの会社にいるとは限りませんし、信託型は信託手数料等のコストが発生するので、(2) 事前警告型買収防衛策が主流となっています。

(2) 事前警告型買収防衛策については、「ルール」「対抗措置」といった曖昧な定義からして分かる通り会社によって内容は様々ですが、多くは20%(たまに15%)の持分取得をトリガーとして発動されます。

典型的なプロセスとしては、
(a) 一定割合以上の持分を保有した・することとなる場合には、買収者は事前に発行会社に買収防衛策の手続きに従うことを誓約し、買収に関する情報等を提供する。
(b) 一定の期間内に対象会社で当該買収について検討し、意見を株主に対して公表する。
(c) なお、対象会社での当該検討が終了するまで、買収者は買収を開始することはできない。
(d) 買収が上記ルールに従われない場合や買収が企業価値を毀損すると判断された場合等、一定の発動要件を満たす場合は、全ての株主に対して差別的内容の新株予約権が無償で割り当てられる。
(e) 当該新株予約権は買収者やその関係者は行使できず、また、買収者やその関係者以外の新株予約権保有者から株式を対価に新株予約権を取得できる取得条項が付されている。
というものです。

この防衛策の発動には、取締役会決議のみならず、独立社外者で構成される特別委員会の発動勧告を経ることとされるケースが多いです。
多くは1~3年の有効期間が設定されており、定期的に株主の意思確認を行うほか、期間中でも取締役会や株主総会でいつでも消却可能とされています。

具体的事例としては、イオンを挙げておきますね。とても丁寧にHPで解説されています。トリガーは20%ですね。

当社取締役会が設定する本件ルールとは、①大量株式取得者は当社取締役会に対して大量株式取得に先立ち必要かつ十分な情報を提供しなければならず、②当社取締役会が当該情報を検討するために必要である一定の評価期間が経過した後にのみ、大量株式取得者は大量株式取得を開始することができるというものです。

当社取締役会は、取締役会評価期間中、まず独立委員会による大量株式取得の評価を求めます。

大量株式取得者が本件ルールを遵守した場合には、原則として当該大量株式取得に対する対抗措置はとりません。
ただし、取締役会が当該大量株式取得が当社株主全体の利益を著しく損なうものと評価した場合、または独立委員会において当該大量株式取得が当社株主全体の利益を著しく損なうものと評価された場合には当該評価を最大限尊重した上で、当社取締役会は、取締役としての善管注意義務に従い、当社株主の皆さまの利益を守るために適切と考える方策をとることがあります。

大量株式取得者が本件ルールを遵守しない場合には、具体的な買付方法の如何にかかわらず、当社取締役会は、当社および当社株主全体の利益を守ることを目的として、新株予約権の発行等、会社法その他の法律および当社定款により認められる対抗措置をとり、当該大量株式取得に対抗する場合があります。…具体的対抗措置として、現状では、その実施が相当と認められる限り、原則として、株主割当てにより別紙3記載のような新株予約権を無償発行することを考えていますが、これに限定するものではありません。…株主共同の利益が害されるおそれが大きいと判断される場合に、大量株式取得者の権利行使が制限される行使条件差別型新株予約権を発行するときは、新株予約権は、会社による取得条項付とさせていただきます。

このように、典型的なプロセスのよい見本かと思います。

なお、買収防衛策導入社数は、2008年の569社をピークに減少傾向にあり、2019年4月22日時点では377社となっています(MARR online)。
背景としては、「買収防衛策は経営者の保身につながる」という批判から、株主総会での反対票の増加があると指摘されています。
一方、日本の買収者フレンドリーなTOB制度に鑑みると、必ずしも保身と言い切れない所もあるのは、既に見てきたとおりです。

買収防衛策については経産省から指針が出されており、
(1) 企業価値・株主共同の利益の確保・向上の原則
買収防衛策の導入、発動及び廃止は、企業価値、ひいては、株主共同の利益を確保し、又は向上させる目的をもって行うべきである。
(2) 事前開示・株主意思の原則
買収防衛策は、その導入に際して、目的、内容等が具体的に開示され、かつ、株主の合理的な意思に依拠すべきである。
(3) 必要性・相当性確保の原則
買収防衛策は、買収を防止するために、必要かつ相当なものとすべきである。
の三原則が定められています。

さて、かなり文量がかさんできたので、②事後策は簡単にのみ整理しますね。
(1) ホワイトナイト(対抗買収者)を探す。
まさしくフォートレスがホワイトナイトに該当しますね。
(2) 株式等を他の第三者に対して発行して買収者の持分を希薄化させる。
(3) 増配を決議・公表し、株価向上による買収者の買収断念・失敗を狙う。
(4) クラウンジュエル(買収の狙いとなっているような重要な第三者に売却等をして買収魅力を減らす)
他にも考えられるとは思いますが、いったんは書籍の実例紹介に従い、この程度とします。

少し長くなってしまったので、買収防衛策についてはここまでとしますね。

~ここまで過去の記事~

ではではまた。

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