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白蛇伝追記 弥栄9 土地の所有者

問題の土地の所有権はよし子の母親の豊とその甥になる。良平であった。

良平・・・大叔母さん。
亡くなった、母さんの長年の念願であ
った、この屋敷と酒蔵を解体し、売る
事に、同意して下さい。

豊・・・あんたのお母さんだって売れなかった
土地ですよ。

良平・・・俺はいくらかでもお金が欲しい。東京
で事業やるって、大変なんだよ。

豊・・・・売れるなら考えてあげます。
しかし、ここには白蛇様がおいでだ
し、きちんとお祓いもしないといけな
いし。
良平・・・白蛇様のお参りの事や、家の解体にか
んする、おまつりごとは、悪いけど大
叔母さんやって下さい。

豊・・・・えっ。

良平・・・売れたらそこから払います。

豊・・・・解体業者さんが家に入る前に白蛇様を
どうにかしなくては。
祟り神になられたら、私達の命はあり
ませんよ。
良平・・・嘘でしょ、脅かさないでください。
お任せします。

豊・・・娘に相談するから、時間をちょいだい

(数日してよし子が母に呼ばれて来る。)

よし子・・お母さん私、昨夜変な夢を見たの。

豊・・・・えー。どんな夢?

よし子・・・余り私が白蛇様の事しか考えていない
からかもしれません。

豊・・・私の実家の事で貴女に心配かけて。
悪かったね。

よし子・・いえ私が見た夢ですから。
     お母さんには信じてもらえないかもしれ
ませんが白蛇様が夢枕に立たれたんで
す。

豊・・・・そうなの?

よし子・・有難い事と手を合わせますと白蛇様は私
の体をぐるぐると巻き空を飛びました。
眼下に川がみえました。その川をずっと
さかのぼり山が見えました。変わった形
の山でした。
豊・・・怖くはなかったの?

よし子・怖くなんて、ありませんぐるぐる巻きにされ
     ているのに、きつく
もなく、かえって気持ちが良かったので
す。
豊・・・そうだったのね。
実は話さないでおこうと思ったのだけ
ど、昨夜、私も同じ夢をみました。

よし子・・えー。お母さんも?
     これは白蛇様が私達に何か伝えたいこと
がお有りになるのかもしれません。

豊・・・・誰か白蛇様と話が出来る人が居たらよ
いのだけれど。
よし子・・今の時代、そんな人がいるのでしょう
か?
豊・・・・私はね。あの屋敷にはいい思い出が無
いのそれでもあのままにしておきたい
のが本心よ。
よし子・・わかります。

豊・・・・白蛇様もおられるしね。
よし子・・お母さんは見たの?
豊・・・・7センチくらいの小さな白蛇が扉に挟ま
れていたのを助けて川に返した事はあ
るわ。
よし子・・うちには白蛇様をお祀りした、大きな
社(やしろ)が酒蔵にありましたよね。
豊・・・・そうね。あの社取り外したと、言って
たけどきちっとお祀りして閉じたのか
しら?あのおじさん夫婦は信心の心が
無い人だったからね。

よし子・・・特におばさん、酷かったんでしょ。

豊・・・・そうね。怖がりだったのよ。
我が家は昔、天皇様から頂いた白蛇
様がおられるという噂があったのよ。
特に白蛇様を大切にしたの。
屋敷の中で良く見かけたしね。

よし子・・・私も抜け殻は何度も見たことありま
す。

豊・・・・まず、貴女は白蛇様と話ができる人を
探して頂戴。家と酒蔵を解体しても白
蛇様から恨まれ無い様にしなければな
らないからね。

よし子・・ハイ、わかりました。

・・・暗転・・・

巫女と娘の語り

よし子・・やっとの事で探しあてました。
失礼ですが、貴女様は
白蛇様とお話が出来るそうですね。

巫女・・・多分他の方より口寄せは出来ると思いま
すが、どの様な事ですか?

よし子・・ほとほと困りました。
どうぞ、お聴き下さい。

巫女 ・・・ハイ。

よし子・・・長い話にならない様、かいつまんで申
し上げます。

(と言って、書き留めた紙をだす。)

よし子・・私の母からの頼みごとです。

巫女・・・ハイ。

よし子・・母の生家は昔からの造り酒屋で、庄屋
でございます。
以前から、こちらには 由緒ある白蛇様
がおられ 家の者もお姿を拝見してお
ります。

巫女 ・・・それは、それは。

よし子・・・実はこの度この土地を売る事になりま
した。既に供養もせずに、お宮を撤去
しています。

巫女・・・・それはまずい。勝手にそんなことをや
れ ば間違いなくお怒りをかいます。
白蛇様を 祟り神にしてはいけませ
ん。
(巫女居ずまいを正して、瞑想に入る。娘も神妙に静かにお答えを待っ。)

巫女・・・・(声が変わる。)
人間とは、摩訶不思議な生き物よ。
純情かと思えば騙し
騙されたと思えば、素直になる。
世も変わり、人も変わる。何を信じ
何を持って共に歩めば良いのか?

巫女・・・・白蛇様は何を御立腹であられます
か?

巫女 (声が変わる)
私は白蛇である。この酒蔵が建つ以
前からこの場所は私の住処である。
蔵を壊す話が持ち上がっておるよう
     だが我らにとってもゆゆしき事態である。

よし子・・どうしましょう。母が死んでしまい
ます。

巫女・・・お静かに。

よし子・・すみません。

巫女 (声が変わる')
建物に住む人間を守る家主神の役目
は、既に果たした。
ここには龍門がある。我々は天界に
登る龍神の従者として従える特権を
与えられた。由緒ある白蛇である。
よし子・・・どうしたら宜しいのでしょう。

巫女・・・・白蛇様、どうしたらお鎮まりくださ
いますか?

(声が変わる)
施主は我らを自由にせよ。
かつて我らと人とが、交わせし約束
事より解き放ち、我らを納得させる
ことの出来る法力を持つ者をよこし
なさい。

よし子・・・私にはそのような方の心当たりがあり
ません。

巫女・・・・私が知って居ります。
しかし、よほどでなければお頼みは出
来ませんし諸国行脚の方ですから、今
どちらにおられるか!連絡を取ってみ
ましょう。

よし子・・・ありがとうございます。感謝致しま
す。どうか、よしなにお伝えくださ
い。

巫女・・・・何かまだお沙汰があります。

よし子・・・何でしょう。

巫女(声が変わる)
我らの生きた証を残せ。
我らは、長い年月、人を守り従者とし
ての役割を守って来た。
我々が何をもってここに留まり何をも
って人に語りたいか記述せよ。

よし子・・どんな事をしたらよろしいのでしょう。

巫女・・・本にすればよろしいでしょうか?
能の様にすればよろしいでしょうか?
長い年月この今治の水脈を守っておら
れた、尊き白蛇様でございます。白蛇
伝として残せと言うには語りつくせな
いほどの物語りをお話くださるのであ
ろうと思います。どうか、私にお任せ
下さいませ。

(巫女は白蛇様を呼び出す。 )

巫女・・・今治の水脈を守られます、白蛇様。
どうぞお話しくださいませ。

(しばらくして )

白蛇・・・わしを呼ぶのはだれだ。

巫女・・・ハハー。おそれおおくも、恩名をお呼
び致しました。巫女でございます。
名は控えさせていただきます。

白蛇・・・わしも人と、話すことはない。
名は呪いがかけやすい故必要は無い。

巫女・・・この度貴方さまの社に害が及ぶかもし
れません案件が持ち込まれました。

白蛇・・・了解した、我らも正確に中継ぎをして
くれる者を求めておった。

巫女・・・有り難いことです。

白蛇・・・我々は人間がこの地に住まうずーっと
前から暮らして居る。

巫女・・・どれほど前になりますか?

白蛇・・・わしの四代前が1500年ほど前になる。
用明天皇の時期であった。

巫女・・・そのお方々は皆様精霊となり、永遠の
命を得ておられますのか?

白蛇・・・そうじゃ。

巫女・・・それでは皆様人間に何が伝えたいので
すか?

白蛇・・・1400年前は般若姫の語りごとの様な
悲しい海難事故があった。その事故を
目の当たりにした、四代前はこの健気
な姫 のお心を守り、海の航路の安全と
人の生活の安定を守って来た。もちろ
ん水を守ることもおおせつかった。
天皇との、約束事でもある。

巫女・・・そうでしたか?
白蛇様がお守りの水脈は今治全体に張
り巡らせたものですか?

白蛇・・・そうじゃ。その豊かな水脈で人人は米
や酒などという潤いを得ている。

白蛇・・・長い時間が過ぎ暫くすると、最初は家
主神として、崇められ、祀られた。
次は商売繁盛の願いを込めて祀られま
した。
その頃は姿を見てその存在を知り、更
なる信仰心も湧かせる事もできまし
た。

巫女・・・なるほど。

白蛇・・・しかし、今の世になりましてから
は、誰も振り返る者すらおりません。
我らも人が祀らなくなれば、ちからを
発する必要も無く、力を貸す必要がな
くなりました。
巫女・・・そうなのですね。知りませんでした。

白蛇・・・そんな、忘れられた存在であっても
我ら白蛇の血筋は脈々と続いおりま
す。この地を守る事、素晴らしいこの
地の地下水脈を守ることは、我ら白蛇
族が天から託された、我らの仕事で御
座います。
この仕事があってこそ、精霊となりま
してもお勤めに励んでおります。
巫女・・・さようでございましたか?
私達人間は何も知らず傲慢になってお
りますね。

(静かに時は過ぎていく。)


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