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愛、愛しき人よ5

            作者アマノコトネ

男心と女心
近頃ヒロコは東京に出て行く事が多くなった。
そんな彼女を尻目に 、酒でウサを紛らわす、佐川。

ヒロコ・・・じゃあ行って来るね。

佐川・・・・行っておいで、今日はどこに、おい  
      でですか?

ヒロコ・・・はい今日は東京大学の勝田教授
      との共同研究です。

佐川・・・・私はあの人嫌いだな。君を利用して
      いるだけじゃあないの?

ヒロコ・・・わたしはお役に立てて光栄です。今
      度本を出すの。今佳境です。

佐川・・・・金にもならないのに君よくやるよ
      ね。

ヒロコ・・・あっつ急がなくっちゃ。新幹線に遅
      れちゃう。送って、ダメ。

佐川・・・・今日はそんな気分じゃありません。

ヒロコ・・・了解です。いい子しててね。


      いく。

佐川・・・・何がいい子だ、私の気も知らない
      で。


佐川・・・・おう。秋田さんですか。どう、そち
      らの動きは、東京は動きある。
そう、よくないんだね。こっちはも
      っと悪いよ。
金持ちが居なくなったのかな。私が
     思い描いて居た軽井沢は何処へ・・・
という感じかな。
そうか、また東京に戻るからそした
      ら、頑張りますよ。
うん。ヒロさんが頑張って居てくれ
      るから、ウチは安泰。ホントいい奥  
      さんですよ。じゃあ、また。一度遊
      びに来てよ。


     え事をする。立つと、寝室に消える。       
    鈴木、ソーっと佐川の様子を見に来る。
車を確かめて、帰っていく。
しばらくして佐川出て来る。

佐川・・・・誰か来たかな、身体が思うようじゃ
      ないね。
肝臓がおかしいのかもしれない。自
      分が稼いでいるわけじゃあないって
      ことは紐ってことだよな。
皆んなが、私をそう思っている。お
      人好しのヒロさんをいいように扱っ
      て、悪い男だ。皆んなそう思ってい
      るんだ。


佐川・・・ハイもしもし、佐川ですが、やあ、久
     木さんどうされました。エ。病院です
か、ヒロコさんは今日は東京に行って
      います。彼女の番号解りますか?
大丈夫ですよ、私の方は元気ですか
    ら。また軽井沢の方へおいでください。
待っ てますよ。アツ解りました。後ほど。


佐川・・・・もしかしたら、今夜はヒロコさん遅
   いかもしれないな。しかし、久木さんまだ
ここに来て、そんなに時間経ってな
    いだろう、この前来たばかりじゃあない
か、どうしたっていうんだ。正月のメイ
     ンゲストにしておいたんじゃあないの
か。?あの慌てようはどうしたんだ、


佐川・・・・ああ、私だが、今久木さんから電話
    だったよ。君を探しているようだ。電話
してあげて下さい。あそう、倫子さん
    と一緒なんだね。そう、色々あって彼女
も大変だろう、 こちらにつれてきてい
    いから 、泊まれるようにしておくよ。


     (二階から下りてくる。急いで着替えして
出ていく。車の音。 )


      時間がたっている。夕方の気配。
ヒロコと、倫子が玄関に立つ。二人
      とも疲れている。

ヒロコ・・・佐川はん。・・・帰りましたよ。あ
      ら、居ないわ。どこに行ったのかし
     ら。家 の中も綺麗にしてある珍しい。
      あなたが来るのは彼にとったらいい   
      事ね。あがって、お座りになって。

倫子・・・・ショックです。解っていたことよ。
   でも突き詰められると私弱い立場だったん
ですね。もーイヤ。アンナに私馬鹿
    にされる存在じゃあないし、久木の女な
んて見下された、なんで何にもしな
    い人が、たかが、妻というだけであんな
に偉そうに。久木さんも久木さんで
     すよ。悔しい。(涙)

ヒロコ・・・今日はひどい1日だったわね、隣のホ
    テルの大きな露天風呂に入っていらっし
やい。予約しておきますから。
(外から佐川がキノコを収穫して、帰ってくる。)


ヒロコ・・・お帰りなさい。

佐川・・・・山で滋養がつくキノコを取って来た
   よ。キノコ鍋にするから倫子さんと二人で
隣の露天に行っておいで。わたしが
      鍋は用意しておくから。


ヒロコ・・・いいのじゃあいってくるわね。
      私も一っプロ浴びたかったのよ。


佐川・・・・ああ久木さん、今二人は隣の風呂に
      行きましたよ。
解りました。任せてください。男に
      は色々ありますから。了解です。


     キッチンに消える。

    エプロン姿の佐川、コンロ、もうすで
    に出来上がった鍋を用意する。切り分け
た野菜の皿が置かれる。
風呂から女性達が帰ってくる。

佐川・・・・さあさあ、冷たいビールいかがです
      か。まずは1杯。

倫子・・・・佐川の優しさにえんえんと声を上げ
      てなく。
倫子・・・・私って、こんなに弱かったんです。
いつも世間から久木さんに守っても
   らっていました。久木さんがお客さんを連
れて来てくれたからできた仕事なん
      です。
離婚した後二人で結婚する約束で
      す。なのに・・・


佐川・・・・どうしたの?とヒロコをみる。

ヒロコ・・・嫌な私に見えた?ゴメン。

ヒロコ黙って鍋を準備する。佐川が注いでくれたビールを飲む。

倫子・・・・今日久木が検査入院で慶應病院に入
    院したんです。当然私のコネクションで
す。そこに娘さんと奥さんがやって
    来て我が物顔で私に命令するんです。私
    は会社の人間でもないし、なんであの人
    に命令されなくちゃあならないんですか
久木さんも「おう、おう」なんて言っち
     ゃって。
解りますよ、娘にはいい顔した いの
    はでも、私のプライドはズタズタです。
それも会社の部下の前でですよ。
最後になんて言われたと思います。
     それもあちらの親戚の人にですよ、
「ああ、久木の女ね。」って言われた
     んです。わあーとまた泣く。

(佐川、倫子に気を使っている。何かを思い出すように黙って目を剃らせているヒロコ。そんなヒロコにハッと気がつく佐川。
ヒロコは佐川の弟にその言葉をぶつけられていた。 )

佐川・・・・思い出した?ゴメンね。あの時ヒロ
も辛かったよね。


ヒロコ・・・今は、私じゃないでしょ。倫子さん
に集中して。

佐川・・・・つらかったね。でも久木さんの立場
      も解ってあげようね。
倫子・・・・でもなんだったんですか?私は奥さ
      んから直接言われたんです。
どうもありがとうございました。此
     れからは全て久木のことは妻の私がやり
ますのであなたは久木のそばでウロ  
    ウロするのはやめていただきます。って
今まで何にもしてこなかった人が突然です        
    よ。あれじゃあ殺されちゃいますよ。久
      木さんガンなんですよ。

佐川・・・・携帯の着信記録もチェックされてい 
      るようだね。私の電話にかけるとい
      っていたよ。

倫子・・・・私たちズーッと一緒に戦って来たん
   です。彼のことは私が一番知っているんで
す。私の会社の純粋な社長は彼なん
   です。こんな形に何から何まで奪うことは
あの人には出来ないし、そんな権利
     は無いはずです。

倫子・・・・先生助けてください。相談に乗って
      ください。

ヒロコ・・・(静かな声で。)解りました。その
       ために久木さんが私を病院に呼ば
       れたのでしょう。
今は佐川が真心込めて作った、滋養の
     つくキノコのスープを召し上がってく
ださい。さあどうぞ。

倫子・・・・美味しい。暖かい。優しいお味です
ね。

ヒロコ・・・しっかり食べて、しっかり寝ましょ
う。負けてはいられませんよ。


佐川・・・・久木さんです。


倫子・・・・すみません、私酔ってしまいまし
      た。寝てもよろしいですか。

佐川・・・・寝る準備はできているよ。私の携帯もっていっていいですよ。

倫子・・・・お世話になります。


ヒロコ・・・パジャマを持って後をおう。


      佐川ヒロコに声をかける。

佐川・・・・ねえ。

ヒロコ・・・何。

佐川・・・・よくわからないのだけれど。

ヒロコ・・・何が?

佐川・・・・君はなんで私にしたの?私を受け入
      れたの?

ヒロコ・・・あなたは覚えて居ないのよね。
「愛しているのはお前だけだ。」
と言ってくれたことがあったでし
      ょ。
うそでもいいのよ女は、私だけを本
      気で愛してくれる男
そんな男と暮らしたいものなの。


ヒロコ・・・そう思って、一度でも真剣にそう言
      ってくれたことが嬉しかった。
着の身着のままで家を出てきた。私
      の部屋の前で、あなたは私に、
そう言って、倒れ込んだの。

佐川・・・・その後野村病院に運ばれたのか?

ヒロコ・・・そうよ。

佐川・・・・でも、あの時病院に離婚前の女房が来た
      だろ。

ヒロコ・・・うん。私がサチコちゃんに頼んだ
      の。家族みんな来たよね。

佐川・・・・じゃあ、あの時何があったのか知っ
      ているよね。

ヒロコ・・・カーテンの陰で見ていた。

佐川・・・・情けない私の姿も見たんだ。

ヒロコ・・・うん。

佐川・・・・女房に離婚しないでくれと情けなく
      も懇願した姿を見たのか?

ヒロコ・・・うん。

佐川・・・・なのに何故なんだ?

ヒロコ・・・あなたは、奥さんにこっぴどく、断
      わられた。
これで、あなたは私だけのものにな
      った。と確信した。覚悟が決まった。
離婚調停で何を言われても私の気持
      ちは一歩も引かなかった。
これが私の女としてのプライド。

佐川・・・・じゃああの時無残に打ち砕かれた、
      私の男としてのプライドは・・・
それでも君に支えてもらっってどう
    にか生きている。この私のプライドは?
情けない。ア〜恥ずかしい。もう
       堂々と他人の前に顔を出せない。

ヒロコ・・・なんで?どうして。
私は精一杯私と生きてくれるあなた
      がいればいい。

佐川・・・・男はそうは、いかないんだよ。

ヒロコ・・・いいじゃない。もっと
人生を楽しみましょうよ。
      あなたは私の為に凄い仕事をいくつもや
      ってくれたじゃない。失敗は糧にして頑
      張って来たじゃない。私はもうそれで充
      分。誇りにもおもってる。今は皆の為に
      一生懸命になっているあなたが、好き。
      それではいけない?その為なら私は働く
      事などなんでもない。

佐川・・・・無口になる。

ーーー酒を飲むピッチが上る。
心配そうに、見つめるヒロコ。
佐川やがてフラフラと立ち上がり、ヒロコを抱きしめる。
佐川は、今さらながらヒロコの強さを見た思いがした。
それと同時に今まで考えてもいなかったヒロコがかぶったものの大きさに気が ついたのだった。

佐川・・・・キミと言う人は、私には過ぎた人だな。
      弱さを見せてもいいんだよ。

ヒロコ・・・私はあなたさえいれば、幸せなのよ。

ーーー静かにヒロコの肩が揺れていた。
そして佐川も、更に強くヒロコを抱きしめた。

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