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愛 さらば愛しき人よ2

第一場 家選び

平成 20 年の春、軽井沢の駅そば徒歩10分の所にある二階建て、事務所を完備している住宅とい
う指摘にピッタリの昭和にたった建物。トイレは水洗で舞台から見ると事務所側にある。玄関が左に有り誰が来たか客席からは分かる。玄関の側が事務所に なっている風呂場と洗面場の前がキッチンになっている。
冬の暖房も考えてのことであろう舞台からはキッチンは見えない。キッチンに つながる ドアは常に空いている。二階の部屋にはこちらのキッチンから上がる。
二階は大部屋が三つ、襖を外し続き部屋にすると、6名はゆったり泊まれる。
事務所の上が大きな納戸になっており、クローゼットなどという洒落たものがなくても乾ききらない洗濯物の避難所にもなる優れ物の部屋も付いていた。
一階は大きな居間がある、ここの壁がカビている。右隣は六畳の和室であるが舞台からは見えない。ここが寝室になっている、ヒロコは物持ちらしく、隅々まで見て歩いている。

ヒロコ・・・いいわね。ここ、気に入ったわ。
      まずは事務所があることよ。


ヒロコ・・・佐川さんが軽井沢で仕事をするから    
      事務所を移そうと言い出した時には
ビックリしたけれど考え方ひとつで
      どうにでもできるものね。


ヒロコ・・・それに私の大好きなアウトレットも
       近いしね。
駅からも近いし、スーパーマーケッ
      トも目の前だし。
隣に軽井沢一番の本屋があること事
      だし。

京子・・・ねえ、ママ本当にいいの。
東京を引いて軽井沢なんて今まで住
      んだこと無いところへ越してくるな
      んて。

ヒロコ・・・愛の逃避行・・・なんてね。
     (つぶやく)
私はこっちで暮らすつもりよ、事務
      所もこちらに移して、東京には新幹
      線でかようわよ。

京子・・・私達は構わないけど、冬の生活は平気
     なの?

ヒロコ・・・だからやって見なくちゃ、解らない
      でしょ。
山を買った、そこに家を建てて
      からでは遅いのよ。
少し住んでこちらの生活に慣れなく
      ちゃあね。

京子・・・そんなものですかね。
     ところで佐川はんはここで、いい
     のかな?

ヒロコ・・・なんでも、一人でやらなくちゃあ気
      が済まない人だから、仕事を済ませ
      てこちらに向かうって。

京子・・・ママは浮かれてますけど、この壁どう
     にかしないとまずいよね。

ヒロコ・・・大丈夫でしょ。ここも仮の住まいだ
      から、佐川はん専門家だしどうに  
      かしてくれるわよ。

京子・・・本当にいいの。軽井沢の家ってこん
      なに湿気対策必要だなんて知らなか
      った。

ヒロコ・・・いいのいいの。サア引越し考えなく
      ちゃ。ワクワクしちゃう。

京子・・・全く本田のジジババの転勤族の血で
      すかね。
まあ私はどんなところに収まるか見
      定めに来ているわけですから美味し
      いものをご馳走してくれるならおん
      のじですわ。

ヒロコ・・・軽井沢に来たらお蕎麦でしょ。ロタ
      リーのところに行きつけのお蕎麦や
      さんがあるわよ。

京子・・・ああ、川上庵さんね。本当にママ達贅
     沢なんだから。


ヒロコ・・・あ、車が来たは。佐川はんかな?

京子 ・・・残念でした、不動産屋さんです。

不動産屋・・いかがですか?おきにめしました
    か?こんな物件は、滅多に出ませんよ。

京子 ・・・午後にこの家に住むもう一人の人が
      来ます。その人の意見で決まります
       んで。

ヒロコ・・・こちらの大家さんは東京の方ですか?

不動産屋・・いいえ、駅の向こうのマンションにお
      住みです。

京子・・・なるほど、カビがすごいですものね。


不動産屋・・それでは私午後にまた参りますの
      で、御用の説はご連絡ください。


鈴木・・・・本田さんいる?窓が開いてたから、
      どんなあんばいか、見に来たワ。

ヒロコ・・・ありがとう、鈴木さん。古い家だけ
      ど私気に入ってるのよ。
アッツ、この子、私の娘の京子です。

京子・・・・初めまして、お噂は母から聞いてお
ります。本当にわがままな人ですが、
今後 共 よろしくお願いいたします。

鈴木・・・ ワガママはお互い様ですよ。私軽井
沢銀座の方で、猫のグッズの店をやって
います。どうぞよろしく。

ヒロコ・・・鈴木さん。今から川上庵さんに行く
んだけど御一緒に如何ですか?

鈴木・・・・そうね、お蕎麦もいいわね。ご一緒
するは。積もる話もあるし。
私の車に乗って頂戴。歩くのも
ね・・・

ヒロコ・・・ありがとう、助かるは。

京子・・・普段の交通手段は、どうするの?

ヒロコ・・・自転車か、タクシー。堅実でしょ。

鈴木・・・・ごめん、仕事があるのでちょっと速やか
      にお願いしても良いですか。

ヒロコ・・・悪い悪い。ここにいると、軽井沢時
      間になってしまって。
さあ行きましょう。

       しばらくして車が入ってくる。
      佐川である。くるまからおりる。一
      人留守の家にあがる。
色々 見て回り、家の周りも見回
      る。
家の中を細かくチェックしてタバコ
      をすいながら携帯電話をかける。

佐川・・・・私ですが、家に来たんだけど、誰も
      いないから。今どこ。
ああ、川上庵ね、鈴木さんもご一緒 
      ですか。判りました、おむかえに行
      きます。
ええ仕事が思ったより早くかたずき
      ましてね。了解です。
うん、いいんじゃあありませんか。
      では、そちらで。


車の音が遠ざかる。誰もいない家の外にお昼の時報がなる。のどかな軽井沢の優雅な時間が流れていく。

第二場      軽井沢    猿事件。
 
 
 
 
すっかり引越しも済み、居間にソファーと大テーブル似合いのイス6脚
壁は綺麗になっている。
 
 
ヒロコ・・・佐川はん。ご飯できましたよ。起き
      てください。
 
            ーーー目をこすりながら、パジャマ姿で起きてくる。
 
佐川・・・君はこっちに来てからうるさくなった
     ね。もう少し、寝せておいてくれない
     のかな。
 
ヒロコ・・・やだ。
 
佐川・・・・眠たい。
 
ヒロコ・・・申し訳ありませんね、私がこちらに
      越したせいで、友人達が来たい
 
            と言う電話で寝れないものですから。
 
佐川・・・・今度はどちら様。何処かに逃げたく
      なっちゃうよな。
 
ヒロコ・・・だって、あなたも倫子さんがいくら
      美人だって、彼氏と来たいなんてい
      う言葉に、「いいですよ、僕たち協
      力しますよ」はないでしょ。
      彼女本気にしちゃって、もうその気
      満々よ。
 
佐川・・・・いいじゃないか、世の中幸せな人だ
      らけにしてあげようよ。
      今朝は生卵かけご飯がいいな。奥軽
      井沢の農園の、産みたて卵は早く食
      べてしまわないとね、誰かさんのた
      めにも。
 
ヒロコ・・・うんうん、また買って来なくっちゃ
      あね。佐川はん大好きですものね。
      でもこの前みたいに8個は食べすぎ
       でしょ。タンパク質の取りすぎも   
       よくないみたいよ。
 
 
 
            ーーー玄関の引き戸が勢いよく開く。血相変えて鈴木が入ってくる。
 
 
鈴木・・・・クマです。いや、間違った。猿です。
 
ヒロコ・・・やだ、ビックリした。鈴木さん。
 
佐川・・・・いやあ、おはようございます。どうした
      んですか。
 
鈴木・・・・水入らずのところ失礼とは思ったのです
      が、軽井沢の住人として注意するこ
      と があったのでね。
 
ーーー鈴木、手当たり次第窓を閉める。
 
鈴木・・・・実はさっきの猟友会のニュースで今
      ここら辺に猿の集団がきているらし
      いの。お宅達何も知らないから、窓
      開けっ放しにしていると大変だから
      手伝いに来てあげた訳。座っていな
      いで二階から全部窓を閉めて。
      やつら通り過ぎるまでこちらは身を
      潜めて過ぎ去るのを待つ。        
      嵐のようなものだからね。
 
 
ーーー3人おもいおもいの方向に散り窓を閉める。
 
佐川・・・事務所の窓も見て・・・
 
 
ーーー慌ててヒロコ飛んで行く。
 
佐川・・・・二階に布団干してなかったか?
 
ヒロコ・・・たいへんだ。一緒に来て。
 
―――二人、飛んで上がる。
 
鈴木・・・・ちょっと店にも電話しておくは。
     (携帯を手に取り)アッツ、英子さ
      ん。猿の大集団が山から降りて着て
      るみたい。銀座の方はどう?そう、
      よかった、でも気をつけてね、外の
      猫の餌もかたずけておいて、お客さ
      んが餌になるものあげないように注
      意してね。それじゃあよろしく。
 
―――ふうふういって二人おりてくる。
 
 ヒロコ・・・そんなに大変なんですか?
 
鈴木・・・・馬鹿にされたら、バックは取られる
      わ、爪でも立てられて破傷風の病原
      菌が入ったら大変。手一本足一本や
      られますからね。
 
鈴木・・・・見ればわかるは、あなたの所は白い
      花をつけたサンザシがあったわよ
      ね、もうあの実が熟れた頃よね。
      きっと奴ら狙って食べにくるから、
      集団で動くときは素早く移動するか
      ら車 にも乗れないのよ。
      おまけに、仕返しのフンは大変よ。
 
佐川・・・・今度はBB弾でも用意して起きましょ
      う。
 
鈴木・・・・それより花火の方が効果あるみたい
      だけど、猿の中には大猿が居るから
      注意なのよ。
 
ヒロコ・・・大ざるってどのくらいの大きさです
      か?
 
佐川・・・・人の大人の丈はあったなあ。
      え~~って感じでしたよ。
 
ヒロコ・・・また、見たようなことを。
 
佐川・・・・いや見ましたよ。別荘の前の電柱か
      ら電柱に前を行くやつが子ザルだと
      思ったら、そいつが普通サイズで
      ね。
 
鈴木・・・・やだ。来た。窓に近ずいちゃダメ
      よ。
 
 ーーー猿のキーキーいう声。屋根の上を駆け回る音。
木々が揺れる音。
 
鈴木・・・・これが軽井沢の一つ目の洗礼かな。
 
ーーー三人テーブルに着きヒロコの出したお茶を飲む。
 
鈴木・・・・ここわ、ホテルのうらだから、クマ
      もよく出没するのよ。
      どんなに暑くとも玄関の扉だけは閉
      めておいたほうがいいわね
 
―――まだ外では大騒ぎが続いている。
 
ヒロコ・・・不動産屋さんそんなこと言って無か
      ったです。
 
 
            (佐川外を伺っている。)
 
 
佐川・・・凄いね、子猿を連れているのもいる
     よ。
 
鈴木・・・・これ軽井沢の常識です。
      これからは、猟友会ニュースは聞く
      ことね。
 
 
 ーーー猿の声が聞こえなくなった。3人外を確認して、お互いうなずく。
 
 
ヒロコ・・・おそろしいものね、外で出くわしたらどうするの?
 
鈴木・・・・どこかの家に逃げ込む。
 
ヒロコ・・・そうよね。怖いもの。
 
鈴木・・・・じゃあ私かえるから。
 
ヒロコ・・・本当にありがとう。
 
佐川・・・・ありがとうございました。色々教えてください。
 
鈴木・・・・当たり前のことだけど、知っておい
      た方が良いことはたくさんあるよ。

       じゃあ、くれぐれも気をつけてね。
 
 
ーーー鈴木を玄関に送る二人

 
 
 
 
ヒロコ・・・ショックだわ。
 
佐川・・・・そりゃあそうだろう。ここは山の中
      だよ。信州の山の中だよ。動物の世
      界に人間が飛び込んで来た。
      こんな事が起きなかったら不思議だ
      ろう。
 
ヒロコ・・・みんな分かっているのかしら?
 
佐川・・・・そう此処は人間の人口より他の動物の数  
       の方が多いのです。
 
               アッツ。後ろ。

ヒロコ・・・きゃー 
 ーーーヒロコ佐川にとびつく。

 
佐川・・・こんな役得もありですね。
 
ヒロコ・・・ヤダ。ウソ。
 
佐川・・・・サア今日はこれから温泉にでもいこ
      うか?サルが入りにくるかもね。
 
ヒロコ・・・星野温泉のトンボの湯に行きましょ
      う。あそこなら、猿は居ないでしょ
      う。そうと決まったら、支度支度。   
      夜まで外にいましょう。割引券を持
      ってね。
 
 
 ーーーヒロコ佐川を急がせ用意をする。二人、仲よさそうに車で出ていく。
 
 
 
 
 
 
 

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