カレンとキズナでShall we ダンス――長柄高校馬事文化研究部活動記録⑦

 部活が終わり、僕がトイレから戻ってくると、渡辺さんがひとりで部室に残っていた。てっきりほかのふたりと一緒に先に帰ったものだと思っていたけど……ひとりでノートPCの画面を眺めてうっとりしている。どうしたの?
「ああ、ハヤタ君。ちょっと、YOUTUBEでTCKのプロモーションムービーを見てたんだよ。ハヤタ君も見る?」
 渡辺さんがノートPCの向きを変えて、僕にもその映像を見せてくれた。
『トゥインクルレース35周年記念 Short Movie「トゥインクルレースっていいなって思った。」』という題名の、東京シティ競馬が制作した公式映像だ。日本初のナイター競馬である「トゥインクルレース」35周年記念として作られたショートストーリームービー。大友花恋さん演じる新社会人の女性が、職場の飲み会で競馬の話題が出たことをきっかけに、田中哲司さん演じる父親とトゥインクルレースやそれにまつわる家族との思い出を語り合う、という内容だ。
「ああ、これはたしかに、素敵なお話だねえ」
 素直に心が温かくなった。思春期には疎遠になっていた娘と父親が、競馬の話題を通じて絆を深める。馬やレースのドラマと家族の思い出が重なり合うところとか、世代を超えて語り継がれる競馬の魅力をうまく表現していると思う。映像とともに流れるテーマソングもあいまって、胸にグッとくる物語だ。
「姫ちゃんなんて、これ見てボロ泣きしてたよ」
 ああ、それは納得だ。阿久津さんもお父さんの影響で競馬に興味を持ったらしいから、自分と重なるところがあるのだろう。
「トゥインクルレースで活躍した実在の名馬の名前を出すあたりも、古参のファンの心をくすぐる粋な演出だよね。あと、的場文男騎手も出演してるし」
「えっ、どこどこ?」
 映像を見返したら、ホントだ、いた! レース映像だけじゃなく、ちゃんとムービー本編にも出演している。しかも台詞つき。あまりに場面になじんでいるものだから、初見では気づかなかった……。
「ねー。璃子ちゃんも、『ウ〇娘の細〇純子さんばりにナチュラルな演技だ』って言ってたよ」
 それは褒めていると捉えていいんだよね……?
 ついでに言えば、ストロング缶で酔っぱらった田村先生もこの映像について感想を漏らしていたらしいけど、細〇さんのアサ〇コラムも顔負けの、感動を確実に台無しするナンチッテな内容だったため、さすがの渡辺さんも口に出すのは憚られるとのことだった。お母さんがこのあとめちゃくちゃ的場ダンス……?
 ま、まあこちらのムービーはYOUTUBE等でぜひ見ていただくとして、ここからは先週の中央競馬でおこなわれた2歳新馬戦の振り返りをお送りします。

7/10函館5R 芝1200m 勝ち馬:イチローイチロー
評価☆3

璃子「ゴール前はハンデ戦みたいに4頭横並び!」
ハヤタ「たしかに力差のないメンバーだったよね」
姫「うながしながらも先団についていった池添騎手の判断もよかったわね」

7/10小倉5R 芝1200m 勝ち馬:サイード
評価☆4

姫「勝ったサイードは上に重賞を勝ったベルカントやイベリスがいる良血馬。父もキズナだから、ノースヒルズゆかりの血統ね」
璃子「この馬は上二頭とは少しタイプが違うとも言われてるけど、どう? ハヤタ」
ハヤタ「たしかにスピードで一気に押し切るってタイプではないかも。後ろ脚も長めで、1400mくらいでもうまく立ち回れそうに見える」

7/10福島5R 芝1800m 勝ち馬:オンリーオピニオン
評価☆5

ハヤタ「キズナの産駒らしい胸の深い体型で、心肺能力が高そう。蹄も少し起きていて荒れた馬場もさほど苦にしないんだと思う」
恵麻「内枠の有利さもあったとはいえ、逃げて最後は後続を突き放す内容。安心して見ていられる勝ちっぷりだったよね」
璃子「逆にもまれこんだ場合にどうかって懸念は残るけど、自分のかたちに持ち込めれば上のクラスでも勝機ありって感じか」

7/10福島6R 芝1200m 勝ち馬:フミバレンタイン
評価☆3

ハヤタ「体も仕上がってたし、すらりと脚が伸びるなかなかの好馬体」
姫「最後は詰め寄られたけど、好スタートからハナを切って軽快に飛ばせていたし、スピードを武器にするタイプなのは間違いなさそうね」

7/11函館5R 芝1800m 勝ち馬:エクラノーブル
評価☆3

ハヤタ「小柄な牝馬でどうかなって言っちゃったけど、いやはやおみそれしました」
璃子「ゲートも二の脚も早かった。スローペースでハマった面もあるけど、これも自分のかたちに持ち込めれば強いタイプかも」

7/11小倉5R 芝1800m 勝ち馬:ピースオブエイト
評価☆5

ハヤタ「ピースオブエイトは体のハリが良くて、良い瞬発力があるね。距離はマイル前後がベストだと思う」
姫「2着のグランディアは人気で負けてしまったけど、ハービンジャー産駒だしまだまだ上がり目はあると見てよさそうね」
ハヤタ「3着のヴェローナシチーも芝の中距離で安定して力を出せそう。4着のテイエムハニーダンはお尻が大きくて背中が長い馬。ダートの1400mあたりで先行して良さが出るイメージもあるよ」
恵麻「ここは4着までの馬は今後順当に勝ち上がってきそうな一戦かな」

7/11福島5R 芝2000m 勝ち馬:トーセンクレセント
評価☆3

ハヤタ「特別、荒れ馬場が得意そうな足元には見えなかったけど、前脚を叩きつける感じのフットワークを見ると、こういう馬場でもしっかり走れるタイプなんだろうね。ダートでもいいかもしれない」
宮子「逆に負けた組で荒れた馬場を苦にした馬もいるかもしれないわね。そういう馬の次走での巻き返しに注意が必要よ」

7/11小倉6R 芝1200m 勝ち馬:テイエムスパーダ
評価☆4

ハヤタ「胴が長いけどお尻が大きくてピッチ走法。短距離でダッシュをきかせて押し切れる、わかりやすい短距離馬だよね」
璃子「人気馬を先に行かせて二番手から抜け出す競馬。福永騎手の巧みな騎乗振りも目を引いた」
ハヤタ「そうだね。二着のアンジーニョも短距離の馬だけど、こっちは脚をためて差すようなレースが合ってるかもしれない」
璃子「三着のペイダリースノーも差はなかったし、この二頭は次走注目だね」

7/11福島6R 芝1200m 勝ち馬:ケッツァー
評価☆4

宮子「出遅れたときは正直、終わったと思ったわ……」
姫「あ、先生、この馬の馬券買ってたんですね……。出遅れっていうより、二の脚のダッシュがつかなかった感じですか」
恵麻「フットワークが定まるまでに数完歩かかってたよね。でも行き脚がついてからはすいすい盛り返していったし、最後はねじ伏せたわけだから、力は一枚上だったってことだよね」
ハヤタ「うん。筋肉の質が抜けて良かったからね。斜尻だし、急かしていくよりは追い込みで力を発揮できるタイプだと思う」
璃子「ただ、まだまだ粗削りなのはたしか。ここは相手関係もあってなんとかなったけど、クラスが上がって勝ち負けするにはもう少しレースを覚えていかないとダメかもね」

 というわけで以上、先週の新馬戦回顧でした。
 血統面で言うと、キズナ産駒が3勝、カレンブラックヒル産駒が2勝と固め打ち。あ、渡辺さんが急に東京シティ競馬のPVを見出したのって、ひょっとしてこれがきっかけだったのかな? 大友「花恋」さん主演で親子の「絆」を描くストーリー……いや、ちょっと苦しいか。的場ダンスは全然関係ないし。
 そうそう、今週末土曜日には今年初の中央二歳重賞、函館2歳ステークスがおこなわれる予定。僕たちの新馬戦評価値ではカイカノキセキが最上位になるわけだけど……結果はもちろん来週の部活で報告します。
 では、また。

登場人物紹介


室谷璃子
将来は馬券生活者を目指すBAKEJO。馬事文化研究部部長。好きな馬券の買い方は二、三着を入れ替えた三連単フォーメーション。

阿久津姫
いずれ馬主になり「阿久津姫HD」を立ち上げる予定のヌシドンナ。馬事文化研究部血統班。好きな馬券の買い方は馬単・三連単軸一頭流しマルチ。

渡辺恵麻
馬の写真を撮ることが大好きなカメオンナ。馬事文化研究部データ班。好きな買い方はがんばれ馬券。名前も入ってなんかカワイイから。

田村宮子
華麗かつ健全にケイバを楽しむシュクジョ……のはず。馬事文化研究部顧問。好きな買い方は三連複五頭ボックス。なのに単勝万張りでしばしばやらかす。

天塩隼太
ニューマーケットから来た帰国子女。相馬眼を持つ男。馬事文化研究部馬体班。好きな買い方は初心者なので詳しくないけどわかりやすい単勝かなあ。

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