55歳、真夏の大冒険――長柄高校馬事文化研究部活動記録⑪

「いやぁ、それにしてもすごかったよね」
「ホント、あの歳での偉業達成なんて、感服だわ」
「まさに真夏の大冒険! って感じだね」
 クラスの用事があって少し遅れて部室に着くと、先に来ていた女子部員三人がそんな会話に花を咲かせていた。
 あ、これはあれだな。ピンときたぞ。つい先日、閉会を迎えたばかりの、あれだ。みんな、意外と見てたみたいだしね。
 僕は挨拶もそうそうに着席し、会話に加わった。
「昨日、テレビのニュースなんかでもダイジェストを放送してたもんね、スケートボードのあのシーン」
「え? スケボー? いや、違う違う」
 僕の斜め前に座る室谷さんが顔の前で平手を振る。えー、違うのぉ?
「先週のレパードSの話よ」
 と、僕のとなりの席から補足が入った。阿久津さんだ。
「勝ったメイショウムラクモに騎乗した柴田善臣騎手は五十五歳。この勝利でJRA最年長重賞勝利記録を更新したってわけ」
「さらにすごいのは、その翌日、盛岡競馬場でおこなわれた交流重賞クラスターCも勝利しちゃったこと! 五十五歳で二日連続の重賞制覇なんてハンパないよね!」
 前のめりになって目を輝かせる室谷さん。
「クラスターCでは四コーナーから内に入れ、埒沿いを滑るように鋭く抜け出してきた。まるでスケートボードのトリックを見てるみたいだったよね」
 渡辺さんも声を弾ませる。みんな好きだなあ、善臣騎手のこと。
「オリンピックを見てると若手選手が圧倒的に有利って競技もあるけど、こうやって息の長い活躍ができる点は競馬の騎手の特徴だよね」
 僕の言葉に、室谷さんは深くうなずく。
「ベテランの味だよねえ。私もああいう大人になりたいもんだよ。仕事を楽しんでて、趣味も多彩だし。釣りに車に犬にワイン。それと鷹狩りね。やっぱり人生、鷹飼い出してからが本番だから」
 いや、鷹は意味がわからないけど……。えと、みんな善臣騎手が好きなんだよね? イジってるわけじゃないよね?
「私たち長柄高校馬事文化研究部は、柴田善臣騎手と鷹を、応援しています!」
 と、真面目な顔で握りこぶしを固め、声をそろえる女子部員三名。ねえ、イジってるわけじゃないんだよね?
 と、まあ、この日もある意味、平常運転で、部活動本番、先週の新馬戦回顧が始まったのだった。

8/7 函館5R 芝1200m 勝ち馬:ヴィアドロローサ
評価☆4

ハヤタ「パドックではリズムよく歩けていたし、この距離は向いてると思う。最後は3頭で接戦だったけど、力が上位の馬同士で順当に決着したんじゃないかな」
恵麻「好スタートから二番手で先頭にプレッシャーをかけられたし、立ち回りの上手さでレースを制した感じかな。そのわりに最後は詰め寄られて危なかったけど」
璃子「2、3着の馬も使って良くなってきそうだし、次走狙ってみるのもおもしろいかも」

8/7 新潟5R 芝1600m 勝ち馬:フォラブリューテ
評価☆5

恵麻「スローペースとはいえ上がり三ハロン33秒0の鋭脚で二着を四馬身突き放した。上がり時計と勝ちっぷりは評価できそうだよね」
姫「母のブルーメンブラッドは現役時代にマイルチャンピオンシップを勝ったGⅠ馬よ。産駒は意外にダートでの活躍が目立つけど、この馬は芝向きっぽいわね」
ハヤタ「うん。皮膚が薄くて繊細な筋肉だし、いかにも軽い芝向きのバネがあるって感じだよね。小柄なぶん重たい芝やタフなレースはどうかまだ未知数だけど、おもしろいところはありそうだね」

8/7 新潟6R ダート1800m 勝ち馬:ビヨンドザファザー
評価☆5

璃子「この馬の追い切りが映像で見れたんだけど、併せ馬で最後は相手に大きく遅れちゃって、あんまり印象は良くないんだよね。ただ、この映像を見たハヤタがぽつりとひと言。『この馬、ダートだなあ』」
ハヤタ「え、ええ? そんなこと言ったっけ?」
姫「無意識に漏らしたってことは、直観的にそう感じたってことね」
ハヤタ「ええと、そうだね。バネはないけど、跳びがすごく大きくて一完歩一完歩しっかり地面をつかんで走る感じは、やっぱりダート向きだと思う。背中も胴も長くて、距離はもっと長いほうが向くんじゃないかな。まだ体に芯が入りきってないところもあって続けて好走できるかはわからないけど」
恵麻「そういえば直線ではちょっと脚を滑らせるようなシーンもあったよね」
璃子「ダートの長距離となると番組的に厳しいけど……忘れた頃にやってきて穴をあけるタイプかもしれないね」
姫「あと、じつはこのレース、マイネルサハラあたりをPOG指名しようか迷ってたのよね。一番人気で七着とちょっと振るわなかったけど……」
ハヤタ「うーん、パドックで見た感じだと、ダートにこだわらず芝で走らせるのもおもしろいんじゃないかと思った」
璃子「私たちは結局指名を見送ったけど、もし指名した人がいればまだ楽しみはありますよ、と」

8/8 函館5R 芝1800m 勝ち馬:ダークエクリプス
評価☆5

ハヤタ「ダークエクリプスはパドックでの第一印象が目立って良かった。毛づやも冴えてたし、首や脚がすらっと長くていかにも芝の中距離で走りそうな体つきだよ」
恵麻「レースでは道中、内でじっと我慢。直線で前が開くや鋭く抜け出してきて、センスの良さも感じさせたね。折り合いの心配もなさそうだし、たしかに距離が伸びても対応できそう」
姫「逆に一番人気のレッドラディエンスはちょっとうまくかみ合わなかった印象ね。パドックではチャカついて見えたし、レースでは最内枠で位置取りも後ろからになって、最後は外に持ち出すロスが響いた感じかしら。スローペースでは掲示板争いが精一杯だったわね」
璃子「ちなみに宮姉はこのレッドラディエンスで複勝転がしを狙ってたそうな。南無……」

8/8 新潟5R 芝2000m 勝ち馬:リブースト
評価☆5

ハヤタ「前躯にもしっかり筋肉がついていて、パワフルな印象の馬体。先行して押し切る形に持ち込むのかなと思ってたら、最後方待機でちょっと驚いた」
恵麻「川田騎手も無理に位置を取りに行かなったみたいだね。直線でも窮屈な場面が何度もあって危なかったけど、川田騎手の手綱さばきもあって勝ち切った」
姫「脚色じたいも最後まで余裕があったし、長く良い脚を使えるタイプと見て間違いはないんじゃないかしら」
璃子「前評判も上々だったし、個性派の馬としてクラシック戦線を賑わす存在になる可能性もあるね」

8/8 新潟6R 芝1600m 勝ち馬:ステルナティーア
評価☆6

恵麻「道中は中団をスムーズに追走。直線は馬群の外から気合をつけられただけでぐんぐん追い上げて、最後は3馬身差の快勝。スローペースとはいえ上がり3ハロンは32秒7で、まだまだ脚色に余裕もあった。福永騎手のコメントどおり、初戦としては文句のつけようがないよね」
姫「全兄がマイルチャンピオンシップ勝ちのステルヴィオという良血よ。前評判に違わぬ強さを見せてくれたわね」
ハヤタ「曲飛なのは血統的な特徴かもしれない。でも関節の可動域は大きい印象で、筋肉の優秀さもあって鋭い脚を繰り出せるよね。距離はマイルがベストだと思う」
璃子「逆に初戦から仕上がりすぎてて上積みがどうかって心配もあるけど、兄同様、早い時期から重賞~GⅠ級で活躍が期待できる一頭と見てまちがいなさそうだね」

 というわけで、先週の新馬戦回顧でした。
 さて、ここからはそのほかの気になる二歳戦を取り上げよう。

8/8 函館1R 未勝利 ダート1700m 勝ち馬:ウインアウォード

 新馬戦での個別評価がダート中距離向きで評価☆4だった馬。ダート替わりのここで勝ってくれたことで、僕たちの見立てが正しかったと証明してくれたわけだ。
ちなみにPOG指名馬のコスモルーテウスもここに出走して2着と健闘。正直、相手に恵まれた感はあるけど、ダートに矛先を変えても上位に食い込んでくれた点はよかった。勝ち上がるまでにはまだまだ時間がかかりそうだけど、コンスタントに走ってくれるといいな。

8/7 新潟9R ダリア賞 芝1400m 勝ち馬:ベルウッドブラボー
修正評価値☆4

 ベルウッドブラボーは福島芝1200mの未勝利戦を勝ち上がってきたけど、もともと1400mまではOKな馬。上位拮抗の一戦を制したし、評価値はひとつ上げて☆4とすることになった。

 以上、先週のレースの振り返りでした。
 さて、来週の予定だけど、函館のコスモス賞にホッカイドウ競馬所属のウンが出走するみたい。前走は門別の特別レースで大敗を喫してしまったけど、もともと芝向きの馬だし、ここは巻き返せる舞台じゃないだろうか。メンバー的にもここはチャンスだろうし、いい結果を期待している。
 あと、新しくPOG指名馬も加える予定なので、そちらもいい結果を報告できるといいな。
 それでは、また!

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