この雨にやられて――長柄高校馬事文化研究部活動記録⑫

「いやー、先週の重賞は見ごたえがあったね。どっちも三歳牝馬の優勝で」
「札幌記念のソダシは持ち前のしぶとさでラヴズオンリーユー以下古馬のGⅠホースを撃破。『クロフネ産駒は芝2000m以上の重賞を勝てない』なんてジンクスも一蹴して、秋華賞へ向けて視界が明るくなったわね」
「北九州記念のヨカヨカもすごかった! なんてたって熊本産馬初のJRA重賞制覇だもんね。生産者さんもうれしかっただろうなあと思うと、私もちょっと泣いちゃったよー」
 僕たちにしてはめずらしく、部室に集まるとすぐに競馬の話題が始まった。いや、めずらしいとか言っちゃいけないんだけど。なんたって僕らは、馬事文化研究部なのだ。
 女子三人が健全な部活動に勤しむテーブルに、僕も遅れて加わる。
「お疲れ様」
「ああ、ハヤタ。お疲れー」
「今日はみんな、早かったんだね」
「まあね。前回のラスト、『小〇恵〇でした』とか謎の終わり方しちゃってたから、今回はマジメにやらないとダメかなって思って」
 ……室谷さんのひとことに、凍りついたよね、僕の笑顔が。
 いや、違うんだ。あれはちょっとした出来心というか、魔がさしたというか……。
「ホント、勘弁しなさいよね。普段ツッコミ役の人間に突然ボケられると、まわりはどう対応したものか戸惑うんだから」
「そうだよー。ハヤタ君とホ〇ちゃんがボケていいのは半年に1回までって決まってるんだから」
 阿久津さんと渡辺さんからも苦言を呈されてしまった。
 ていうか、ボケ半年に1回までとか、そんなルールあったんだ……。厳しいなあ。これでみんなが僕に黙ってY〇u T〇beとか始めちゃったら、こっちから解散切り出しちゃうよ?
「いやまあ、それは冗談だけどさ。振り返る二歳戦も増えてきたし、先週はPOG指名馬の出走も重なったから、マジメにやらなきゃいけないのはホントなんだよ。というわけでまずは先週の新馬戦回顧から、どうぞ」
 だそうです……。

8/21 札幌5R 芝1500m 勝ち馬:ウォーターナビレラ
評価☆3

姫「スタートを決めてハナに立ち、そのまま逃げ切り勝ち。上2頭はホッカイドウ競馬デビューで2歳時から活躍しているけど、この馬は芝でデビューを飾ったわね」
ハヤタ「少し歩様が硬い面もあるらしいし、血統的にもダートとの兼用も視野に入るかもしれないね」

8/21 小倉5R 芝1200m 勝ち馬:アキバ
評価☆3

恵麻「17頭立ての牝馬限定戦。混戦を断ったのは中団追走から直線は外に出して差し切った11番人気のアキバでした」
ハヤタ「小柄でも筋肉は意外にあったし、流れも向いた感じかな」
璃子「そしてじつは私たち、このレースで5着に入ったバーニングアイをJRA‐VANのPOGで指名してました! 最後は差し追い込み勢に飲み込まれたけど、ハナを切るスピードを見せてくれたのは収穫だよね」
ハヤタ「小柄なのはわかってたけど、どのくらいの馬体重で出てくるのかなと思ってたら、420キロ。まあ心配してたよりは細くはなかったかな。さすがに非力さは感じさせるけど、平坦の芝コースならスピードを生かせるんじゃないかな」
璃子「身内にからいでおなじみのハヤタにしたら褒めてるほうと取っていいんだよね? そういえばこの馬の父親ってダノンレジェンドだけど、この馬にまつわるちょっと怖い私の体験談ってみんなに話したことあったっけ?」
恵麻「え? なになに?」
璃子「いやね、ダノンレジェンドが現役時代、大井の東京盃に出たときのことなんだけどさ。当時ダノンレジェンドは前々年のカペラS以来、8勝2着1回3着2回、4着以下は一度もなし。短距離ダート重賞の中心的存在として君臨してたんだ。近走も地方交流重賞を2連勝中で、この時も当然1番人気。私もちょうど大井競馬場へ観戦しに行ってて、『今日もダノンかなあ』なんて思いながらパドックを眺めてたの。そうしたら見知らぬ若い兄ちゃんが隣に来てさ。ストリート系のキャップをかぶったわりとオシャレな身なりの兄ちゃんだよ。その兄ちゃんがさ、目を輝かせながら私に話しかけてくるわけ。『ダノン、いいっすよねえ! やっぱダノンで間違いないっすよね? うん、今日もダノンだわ!』。いきなり話しかけられて私もびっくりしたけど、別に否定することもないから、『え、ええ。いいですよねえ、ダノン』とか適当に返したわけ。そうしたらキャップの兄ちゃん、『やっぱそうっすよねえ!』とか鼻息を荒くして、足早にスタンドへ向かっていく。きっとダノンで大勝負する馬券を買いに行ったんだろうね。そして迎えた運命の一戦。見事な差し切り勝ちを決めたのは9歳の古豪ドリームバレンチノ。鉄板と思われたダノンレジェンドはコーリンベリーの機先を制して逃げを打ったものの、まさかの5着に沈み……いやぁぁああっ!」
ハヤタ「怖いって、馬券的な意味で!?」
恵麻「ていうかそれ、璃子ちゃんナンパされてたんじゃ……?」
姫「いやそれ以前に、その東京盃の時って、璃子、あんた歳いくつよ? 時空の歪みってことでごまかしておくけど……」
璃子「よい子のみんなも、鉄板の1番人気とキャップの兄ちゃんには思わぬ危険が潜んでるから、気をつけてね? 以上、今週の脱線でした」
ハヤタ「僕がやったら怒られるのに……」

8/21 小倉6R ダート1700m 勝ち馬:ラインオブプリンス
評価☆4

ハヤタ「前躯にも後躯にもしっかり筋肉がついてて、フットワークも力強い。いかにもダート向きの馬だと思うよ」
恵麻「外を回してあっさりって勝ちっぷりだったよね」
ハヤタ「うん。でも2着のペプチドヤマトもダート適性を感じさせる馬体で、今回はまだ体つきに余裕もあったから次走で上積みがありそう」
姫「それはぜひ覚えておきたいわね」

8/21 新潟5R 芝1200m 勝ち馬:ジャスパークローネ
評価☆5

璃子「1番人気のジャスパークローネがダッシュよくハナを切って直線でも後続を突き放す楽勝だったね」
ハヤタ「脚長の体型で、かつ筋肉にもなかなかバネを感じさせるよね。良いスピードがあってクラスが上がっても見どころがあると思う」
恵麻「1分10秒台の決着で時計的には平凡だったけど、まだ余裕がありそうだし、タイムは詰められそうだよね」

8/22 札幌5R 芝1800m 勝ち馬:スカイフォール
評価☆5

姫「ペースが落ち着いて直線での追い比べになったわね。内をついて抜け出したスカイフォールはキングカメハメハ産駒、近親にトゥザヴィクトリーなどがいる良血馬よ」
ハヤタ「まだ若干体つきに余裕があるようにも見えたけど、うまく脚を溜められたのが好走の要因じゃないかな。距離はこのくらいがぴったり」
璃子「そしてそして、このレースでも1頭、POG指名馬に加えました!」
恵麻「3着のレッドランメルトだね。netkeiba.comのPOGダービーの指名馬です」
姫「父ディープインパクト、母父orpenの配合は、有馬記念を制したサトノダイヤモンドと同じなのよね。それもあって結構注目されてたし、単勝も人気になっていたのだけれど」
ハヤタ「たしかに首も脚も胴もスラッと長くて、2400mくらいで真価を発揮しそうな体型だよね。ただ筋肉の収縮力が物足りないかな……」
璃子「あいかわらず身内にからいな、ハヤタは。でも、国枝厩舎の初戦だし、3着なら悲観する内容でもないでしょ。2戦目で勝ち上がれないとちょっとこじらせそうだけど、そこはまあ今から心配してもしょうがないからね。良い意味で楽観していこうよ」

8/22 小倉5R 芝1200m 勝ち馬:タイセイブリリオ
評価☆4

恵麻「ポンとスタートを切って一旦は控える素振りも見せたけど、スピードの違いで前に並んでいったって感じだったね。直線でも脚色が衰えることなく堂々の押し切り勝ち」
ハヤタ「前後に良い筋肉がついてるし、重心も低くてたしかにスピードの乗りが良さそうだよね。ダートでもいいかもしれないよ」
璃子「2着のダノンアーリーと3着のジャングロはちょっと流れに乗り損ねた感じだったけど、最後は良い脚で差を詰めてきた。この2頭もレース慣れしてくれば次走以降、十分勝負圏内に入ってきそうだよね」

8/22 新潟3R ダート1800m 勝ち馬:コンサリエーレ
評価☆6

璃子「いやー、この馬は先週の新馬戦の中でも飛びぬけて圧巻の勝ちっぷりだったね」
姫「2着馬に1秒9の大差をつける楽勝だものね」
恵麻「やや重馬場だったとはいえ、1分53秒5、上がり3ハロン37秒7のタイムも優秀だよね」
ハヤタ「540キロの大型馬で、パドックでもやっぱり大きさが際立ってた。それでいて脚も首も長めで重苦しさがないし、力強く地面を捕らえる走りっぷり。ダートならかなりいいところまでいくんじゃないかな。距離が伸びても問題なさそうだし」
璃子「期待のドレフォン産駒だ。来年のジャパンダートダービーでは主役になってる可能性は十分にあるね」

8/22 新潟5R 芝1800m 勝ち馬:シンシアウィッシュ
評価☆4

恵麻「道中は中団をじっくり追走。直線は外に進路を取って上がり3ハロン33秒5の切れ味を見せて快勝したよ」
ハヤタ「キズナ産駒で筋肉の質がいいよね。仕上がりも上々だった」
璃子「牝馬でこの距離で勝ち上がったことは、クラシックを狙う上で大きな自信になったんじゃないかな」

8/22 札幌9R クローバー賞 芝1500m 勝ち馬:ラブリイユアアイズ

璃子「ラブリイユアアイズは新馬戦で☆4の評価だった馬だね」
ハヤタ「このとき2着のトーセンヴァンノは先週のコスモス賞で初勝利を上げたし、振り返ってみるとレベルの高い新馬戦だったのかもしれないね」

8/22 小倉2R 芝1800m 2着:マイシンフォニー

恵麻「ここはPOG指名馬マイシンフォニーの初勝利を期待してたわけだけど……」
姫「距離が伸びて道中は明らかに引っかかっちゃたわね……。それでも直線は抜け出してきてやったかと思ったけど、サウンドクレアの大外強襲に遭ってハナ差の2着……」
ハヤタ「良馬場のほうが断然いい馬なんだけど、新馬戦に続いて今回も雨に見舞われて馬場が悪化しちゃったのも不運……」
璃子「正直、2戦目で取りこぼしたのはこじらせる心配もあるけど……まあ今回はしょうがない。まだまだ先は長いんだし、次走あらためて期待しよう!」

 というわけで先週の振り返りは以上。
 今週は注目の2歳重賞、新潟2歳ステークスがおこなわれる。出走予定馬の中で僕たちの評価値上位の馬を挙げておくと、ウインピクシスとクラウンドマジックが☆6、セリフォス、アライバル、クレイドル、タガノフィナーレが☆5となっている。ただし☆6の2頭はともに中距離向きと見立てていて、マイル路線での最上位評価はセリフォスとクレイドルになる。どうも混戦ムードだけど、もちろんこのレースも来週振り返ります。それでは。


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