僕らがウ〇娘をやらない理由――長柄高校馬事文化研究部活動記録⑬

「和生!」
「武史!」
「典弘!」
「「「イエェェイッ!」」」
 僕が遅れて部室にやってくると、先に来ていた女子部員三人による謎のレイヴが繰り広げられていた。もちろん感染対策はしているとはいえ、このご時世だと怒られかねない盛り上がりである。なにこれ? いったい何MONOGATRI?
「ああ、ハヤタ、お疲れ。いやね、いま、みんなで先週のオホーツクステークスを見返してたんだよ」
 そう言って室谷さんはテーブルの上に置かれたノートPCの画面を僕にも見せてくれた。画面上で再生が始まったのは、先週土曜日札幌のメインレースの映像だ。
「このレース、1着アンティシペイト、2着ソルドラード、3着ターキッシュパレスって決着だったんだけど、この3頭の鞍上がそれぞれ、横山和生、横山武史、横山典弘なんだよね。つまり史上初の横山家親子3人によるワンツースリー! 和生、武史、典弘! イエェイッ!」
 イエェイッって……。たしかにすごいことだと思うけど、それでここまではしゃげるの? 室谷さんだけじゃなく、普段は冷静な阿久津さんや渡辺さんまで小躍りしちゃってるし……今日はみんな、変にテンション高いなあ。これじゃあ僕がボケさせてもらえる余地なんて微塵もなさそうだ。グスン。
「まあなんにせよ、こうやって競馬の話題で毎週盛り上がれるっていうのは、馬事文化研究部としては願ったり叶ったりと言うべきなのかな」
「そう、そこ! まさにそこなんだよ、競馬の素晴らしいところは! ねえハヤタ、誇り高き馬事文化研究部員である私たちがなぜ、ただのひとりもウ〇娘をプレイしていないか、わかる?」
 不敵な顔つきになった室谷さんが、唐突にそんなことを訊いてきた。自分たちが誇り高き存在だったというのは初耳だけど、そういえばみんながウ〇娘をやっているって話は聞かないな。あれだけ話題になっているのにね。僕は単に流行りモノにはなんとなく尻込みしちゃうからってだけなんだが、ほかのみんなはなにか手を出さない理由があるのだろうか?
「私たちがウ〇娘をやらない理由……それはね、『現実の競馬こそが究極のソシャゲだから』なんだよ!」
 ん……? どういうこと?
「つまりね、ウ〇娘を含めたソーシャルゲームの醍醐味って、定期的に開催されるゲーム内イベントへの参加にあるわけじゃん? 毎回趣向を凝らしたイベントでほかのプレーヤーと競い合って盛り上がれるかどうかが、ソシャゲの生命線というか。とすると、競馬も一種のソシャゲみたいなものだととらえられるんじゃなかろうか。毎週必ず、レースの決着を予想するというイベントが運営によって用意されていて、プレーヤーはそれに参加しておおいに盛り上がるわけだから。しかもこのイベントがおもしろいことこの上なし。どのレースも毎回メンバーや条件が微妙に違ってるから予想に飽きることがないし、結果も今回の『横山家3連単』みたいなドラマが起こる。しかも予想が当たったらご褒美に現金までもらえちゃうわけだから、これはもう中毒にならざるをえないでしょ!」
 いやソシャゲにしろ競馬にしろ中毒になっちゃうのはマズいと思うけど……言わんとしていることはなんとなくわかった。たしかに日本のいまの競馬は興行としてよくできているんだろうし、だからこそこのご時世でも大衆を楽しませる娯楽としての地位を確保できているんだろう。もちろん、ソシャゲはソシャゲでおもしろいし、ウ〇娘もウェルメイドなコンテンツであることは多言を要しないはずだ。
「それはもちろん。げんに私たちだってアニメ版は第2期までしっかり観させてもらってて、こだわりぬいた設定やストーリーにはおおいに胸躍らせたもん。ツインターボちゃんかわいいし。ゲームのほうまで手を出せてないのは、現実の競馬を追いかけるのに忙しくて手が回らないだけってのもあるしね」
 ツインターボちゃんの件も含め、それは僕としても同意できる。日々の勉強や生活の合間を縫ってこの活動記録をまとめるのも、なかなか大変だし。
 まあ、やるべきことややりたいことの、優先順位の問題だ。どれが上でどれが下とかじゃなく。
「なお、究極のソシャゲである競馬は、課金の面でも究極になる恐れがあることをお忘れなく……」
 うわ、びっくりした! いま一瞬、入口のところに田村先生の亡霊が見えた気がしたけど……気のせいだよね?
「……」
 念のためみんなで田村先生の無事を強く祈ってから、この日の部活は始まったのだった……。

8/28 小倉5R 芝1800m 勝ち馬:ラスマドレス
評価☆6

璃子「牝馬限定戦だったけど評判馬もそろってたし、これは結構強い内容だったんじゃないの?」
ハヤタ「脚長の体型もあって、馬体重以上に大きく見せるよね。筋肉も繊細な感じでストライドも大きいし、かなり良い馬だと思う」
璃子「たしかに直線なんか『おっ』と思わせる走りだったし、結構いいところまで行けそう感じだよね」
姫「きょうだいにはダート重賞勝ちのジェベルムーサやマイル路線で活躍中のカテドラルがいるわね。血統的にも見どころがあるわよ」
恵麻「評価は期待も込めて☆6だね」

8/28 札幌5R ダート1700m 勝ち馬:クリノメガミエース
評価☆4

璃子「このレースは落馬もあってスムーズさを欠いた馬も多かったみたいだけど、クリノメガミエースはしっかり走りきれたってことでいいのかな」
ハヤタ「そうだね。意外に柔軟性のある筋肉だし、芝向きの機敏さには欠けるけど、ダートならしっかり走れる馬体だよね。蹄はベタだから湿った馬場もこなせそう」

8/28 新潟5R 芝1800m 勝ち馬:イクイノックス
評価☆7

璃子「そしてやってきましたよ、我らがPOG指名馬、イクイノックスが!」
ハヤタ「手前味噌かもしれないけど、この馬は馬体からして抜けた存在だったよねえ。四肢や首がすらりと伸びた好馬体で。父親のキタサンブラックの面影も濃いよね。さすがにまだ2歳だからお父さんの域までには達してないけど、代表産駒になれるだけの素質は秘めてると思う」
恵麻「関係者もデビュー前から馬体の良さを絶賛してたって話だもんね」
姫「血統も筋が通ってるわ。母のシャトーブランシュは現役時にGⅢマーメイドSを制覇。繁殖牝馬としても順調な滑り出しをしてて、ひとつ上の兄ヴァイスメテオールが今年のラジオNIKKEI賞を勝っているわ。イクイノックスにはこの兄を超える活躍を期待したいわよね。血統表を眺めてると、サンデーサイレンス、サクラバクシンオー、ダンシングブレーヴ、トニービン、ノーザンテースト……と日本競馬を彩った名馬、名種牡馬が続々と目に飛び込んできて、当たり前のことなんだけど、ホント胸が躍るわ……」
恵麻「上がり3ハロンのタイムが34秒5というのは新潟コースにしては平凡に映るかもしれないけど、これは直線でかなり強い向かい風の影響があったかららしいね。6馬身差の圧勝だし、タイム面は心配しなくてよさそう。強いて言うなら、一線級との瞬発力勝負が課題になってくるかな」
璃子「なんにせよ今後が楽しみな逸材ってことだね! 評価はもうトップタイの☆7いっちゃおう! ジオグリフとの対決も楽しみにしたい!」

8/28 新潟6R 芝1600m 勝ち馬:ソネットフレーズ
評価☆6

璃子「そしてそして! なんと私たちもこのソネットフレーズもPOG指名しているのだ! いやホント、今年のPOGは怖いくらい順調な滑り出しだよね」
姫「母系は女傑エアグルーヴにさかのぼる名牝系。そこにいま活力のあるエピファネイアがついているわけだから、デビュー前から評判になるのもうなずけるわよね」
ハヤタ「均整の取れた良い馬体だよね。肉付きもちょうどよくて、ストライドもよく伸びてた。馬体や走り的には距離の融通もききそうだけど、問題は気性なのかな?」
恵麻「ハミ受けに難しいところがあるって話みたいだよね。お父さんも折り合いには苦労する馬だったし、少し心配ではあるよね、やっぱり」
璃子「ただ課題がはっきりしてるなら対応もしやすいだろうし、評価は期待も込めて☆6にしとこう。とりあえず阪神JFを目指して頑張ってほしい!」

8/29 札幌5R 芝1800m 勝ち馬:レイトカンセイオー
評価☆4

ハヤタ「まだ細身だけど筋肉は意外に繊細でバネがあるよ」
姫「2着馬が直線でよれたとか恵まれた面もあったけど、この馬自身はしっかり走れていたしね。晩性傾向のあるハービンジャー産駒で初戦からこれだけ動けたのなら前途は明るいんじゃないかしら」

8/29 小倉5R 芝2000m 勝ち馬:マテンロウスカイ
評価☆4

ハヤタ「筋肉はそこまで繊細な感じじゃないけど、体幹がしっかりしてて走りにブレがなかった」
璃子「まだまだ余裕のありそうな勝ちっぷりだったし、こういうタイプはクラスが上がっても意外に崩れないかも」

8/29 小倉6R 芝1200m 勝ち馬:ホワイトターフ
評価☆3

璃子「この馬はPOGに入れるか一瞬候補に挙がったんだよね。もろもろの事情があって見送ちゃったけど……」
姫「相手関係とか斤量にも恵まれたとはいえ、良いスピードと粘りを見せたわよね。馬格も私たちが考えてたより大きくて」
ハヤタ「そうだね。ゴールドシップ産駒だけど体つきはいかにも短距離馬って感じ。適度にふっくらとした仕上がりで、初戦から走れる態勢にあったんだろうね」
恵麻「新人の永島騎手も落ち着いたいい騎乗だった。手が合うようなら継続騎乗でもおもしろいかも」

8/29 新潟5R 芝1600m 勝ち馬:トウシンマカオ
評価☆5

姫「ダッシュよく二番手で進めると、直線残り300mまでは持ったまま。追い出されてからもノーステッキで最後まで脚色は衰えず。余裕たっぷりの勝ちっぷりだったわね」
ハヤタ「筋肉質な仔も目立つビッグアーサー産駒だけど、この馬はいい意味で筋肉が付きすぎてない。そのぶん素軽さがあるし、距離はマイルまでかなと思うけど、見どころがあるよ」
恵麻「半兄のベステンダンクは9歳でまだ現役。この馬もお兄さん同様息の長い活躍をしてくれるといいね」
璃子「なお、前日のコンシェルジュで辻さんがこの馬を本命に推していたことを付言しておきます」

8/29 新潟6R ダート1200m 勝ち馬:インコントラーレ
評価☆5

璃子「これはレースを見てびっくりしたよね。人気はあまりなかったけど、スタートよく先手を取って直線では突き放す一方で9馬身差の圧勝。タイムも1分11秒1のコースレコードタイだよ。しかも良馬場で」
ハヤタ「筋肉の質が良かったし、ここでは力が抜けてたんだろうね」
姫「母は重賞3勝のピースオブワールドで、血統的にも筋が通ってるのよね。むしろ人気がなかったのが意外なくらい」
恵麻「気性的に難しい面もあるみたいだけど、これだけの走りができたんだから能力はたしかって言えるんじゃないかな。今後どんなレースを見せてくれるのか楽しみな一頭だね」

8/28 小倉2R未勝利 芝2000m 勝ち馬:キラーアビリティ
修正評価☆5

璃子「未勝利戦から取り上げるとしたらやっぱりこれかなあ、キラーアビリティ」
恵麻「1分59秒5のレコードタイムで7馬身差の完勝。上がり3ハロン34秒2も出色だもんね」
姫「この馬の前走って、例の『テーオーコンドルがローマンネイチャーに襲いかかる事件』のあった新馬戦なのよね。しかも着順的にはその2頭(ローマンネイチャー4着、テーオーコンドル6着)に挟まれた5着だったという……。まあそれじたいは結果論にすぎないとはいえ、今回は落ち着いてレースができて本領を発揮したのね、きっと」
ハヤタ「ディープインパクト産駒らしい、すごく繊細な筋肉の持ち主で、ここでは力が違った感じだよね」
璃子「ちなみにその前走の新馬戦の勝ち馬は我らがPOG指名馬レッドベルアーム。両者とも当然、重賞路線を狙ってくるだろうし、再選となったら要注目だね!」

8/28 小倉9Rひまわり賞 芝1200m 勝ち馬:ヒノクニ

璃子「さあ今年もやってきたよ、九州産馬のダービー、ひまわり賞が!」
姫「注釈しておくと、九州産馬限定の2歳オープン戦のこのレースを、璃子が勝手に『九州産馬のダービー』と呼んでいるのよ。世間的にはまったく定着していないわ」
恵麻「その『九州産馬ダービー』を制したのは、熊本県産馬のヒノクニ。この馬は6月東京の一般の新馬戦でデビュー。その後、九州産馬限定の未勝利戦に回って4着、2着ときて、ここで嬉しい初勝利。レース経験を積んで着実に良化してたって感じかな」
ハヤタ「そういえばこの馬の生産者って、先週の北九州記念を勝ったヨカヨカと同じ本田さんなんだね」
璃子「ほかにも現在3勝クラスのイロゴトシなんかも生産してるし、勢いあるよねえ。まさに九州のノーザンファームか……!」
姫「もちろん本田さんのところだけじゃなく、九州のほかの牧場からも活躍馬が続々と出てくるともっと盛り上がるでしょうね。期待したいわ」

8/29 新潟11R 新潟2歳S(GⅢ) 芝1600m
勝ち馬:セリフォス

姫「それじゃあ最後は重賞、新潟2歳ステークスを振り返るわね。勝ったのはダイワメジャー産駒のセリフォス。スタートの出が少し悪くて中団からの追走となったけれど、徐々にポジションを上げていって、直線でも内ラチ沿いをついて上がり3ハロン最速の32秒8で突き抜けたわ。2着アライバル、3着オタルエバーと人気を分け合っていたけど、マイル戦では適性で上回るところを見せつけたわね」
ハヤタ「うん。出来もよかったし、内をついて一瞬のキレ味を生かす展開に持ち込んだのも好結果につながったよね。順当な勝利だと思う」
恵麻「騎乗した川田騎手によると、戦前からテンションが高くて左に行く面を見せてたみたい。そこで内の馬場が良くないと知りつつも、あえてラチ沿いを走らせたみたいだね」
璃子「そのあたりの判断はさすが川田騎手だよねえ。ただそうなると、この馬は新馬戦の中京と今回の新潟で、2戦続けて左回りの競馬でしょ? 左に張る面があるとしたら、ラチに頼れなくなる右回りになったときにどうなるかっていうのが課題になるかもね」
姫「暮れの朝日杯フューチュリティステークスは右回りの阪神だし、その点はたしかに気にしておいたほうがよさそうね」
ハヤタ「それと、2着のアライバルはやっぱり中距離向きの馬だし、これも条件が変われば重賞を勝てるチャンスは十分にあると思う。そういう意味では今回勝った馬も負けた馬も、それぞれ収穫のあるレースになったんじゃないかな」

 というわけで、僭越ながら僕が締めの言葉を言わせてもらいました。
 さて来週も注目の2歳戦が盛りだくさん。土曜日には札幌2歳S、日曜日には小倉2歳Sと、夏競馬を締めくくる2歳重賞が2鞍おこなわれる予定だ。注目はなんといっても札幌2歳Sに出走予定のジオグリフだよね。僕たちはこの馬に☆7の最高評価を与えている。それが間違いじゃなかったと証明してくれると嬉しいな。ここはほかにも評価☆5のリューベックダークエクリプスも出走してくるから、レベルの高い一戦になりそう。どんな結果になるのか、いまから楽しみだ。
 いやホントに室谷さんの言葉どおり、こんなふうに毎週毎週胸躍るイベントを提供してくれる競馬って、本当にいいものですよね。話題や興味が尽きない週末に思いを馳せつつ、今回はこのへんで。

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