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「起業の極意」 「起業の科学」から学んだ事


2020年9月1日に連続起業家の田所雅之さんの「起業の極意 -事業の立ち上げ期に最も重要な3つの戦略-」というオンライン講座に参加してきました。

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また、それと同時に講師である田所雅之さんの著書「起業の科学」を読みましたので、そちらについて合わせてまとめていこうと思います。

名著「起業の科学」とは?

「起業の科学」は、2017年11月に出版されたもので、スタートアップが事業を立ち上げる際に失敗しない方法を学ぶための名著です。

「大成功するスタートアップや新規事業を作ることはアート」であり再現性は低いが「失敗しないスタートアップや新規事業」を学び実践することは可能

と著者が言うよう、本書からは再現性が高く失敗の確率を減らすスタートアップや新規事業の立ち上げ方を学ぶことができます。


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著者の田所雅之さんはこの本を書く上で、5年間約2500時間を費やし、1000人以上の起業家、投資家、スタートアップ関係者と対話をしてきました。

「起業の科学」というタイトルからは一見、起業のためのファイナンスや会社経営にまつわる話かと思われますが、その中身の多くはプロダクト開発や事業開発のための示唆となります。

2年程前、webサイト等でも情報が公開され話題になったことや、企業研修や推薦図書としても名を連ねることが多く、一度は見た方や一部に触れた方も多いかと思いますが、今回は私が実際にセミナーの参加と本の熟読から学んだことを、備忘録も含め改めてまとめていきたいと思います。

※セミナーでの講義内容は「起業の科学」をベースとされていたため、今回は良くまとまっている「起業の科学」を中心にまとめていきます


【結論】 学んだこと要約

先に結論から、今回私がセミナーの参加と本から学んだことをまとめます。

1. スタートアップ&新規事業において1番大事なことはPMF(Product Market Fit: 顧客が熱狂的に欲しがるものを作れる状態)を達成すること
2. PMFを達成するためには大きく以下のステップが大事
1)課題を発見しアイデアを検証する(リーンキャンバスでPlanAを作成)
2)課題の質をあげる(本当にその課題は実在するか?を徹底的に磨く)
3)ソリューションの検証する(プロトタイプと検証と改善)
4)人が欲しがるものをつくる(MVPの市場投入と磨き込み or ピボット)
3. その他としての学びは、
1)スタートアップと大企業の事業立ち上げではやり方に相違点もあるが、類似点も多い。相違点からは逆説的に学び、類似点からは大企業の新規事業に積極的に取り入れる
2)この本で語られていることはUXデザインの基本ワークがほとんど。最初から最後(ここではPMF)を俯瞰して流れとして見れ、1つ1つのタスクの意味やポイントを知ることが出来るので、理解が深まる
3)PMFまではとにかく小さく作って、顧客視点で何度も何度も検証することが大事。ピボットを過剰に恐れない

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まとめてしまうと「何を当たり前のことを言っているんだ?」と感じてしまうかもしれませんが、本書では第1章〜第4章までを使って、この当たり前のことに対しての「有益な手法や考え方」を詳細に記載してくれています。

頭ではなんとなく大事だと分かっていることも、本書を読むとなぜそれが大事か?それを実現するにはどうすれば良いか?何から着手すれば良いか?それを行う上でのポイントは何か?がしっかり学べます。ここからは、第1章〜第4章までの大事なポイントをピックアップする形でまとめていきたいと思います。

※5章はPMF後の「スケールするための変革」となり、事業立ち上げとは毛色が少し違うため割愛します


【第1章】 アイデアの検証

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まず初めのステップとしては「どういう課題を解決するか?」と課題にフォーカスした後、アイデアの大枠を立案し、検証可能なPlanAをリーンキャンバスを用いて作ることから始まります。

ここまでは起業(あるいは事業化)せずとも実施可能なフェーズであり、スピーディーに複数案を検証しながら、次の課題検証ステップに進むためのPlanAを作りきることが大事です。それぞれのタスク毎に示唆に富むことが記載されていたので、ピックアップしていきます。


1-1. 課題の発見とフォーカス

・スタートアップにおいて最も重要なアイデアは「課題にフォーカス」すること
・目指すべきは課題の質とソリューションの質がいずれも高いアイデアであこと
・先にソリューションに囚われると失敗する(GoogleGrassが良い例)
・ターゲットする課題が「自分ごと」であると成功しやすい
・その課題に少なくともトップが深い共感を持っていることが重要
・その課題にストーリー(原体験)があるかどうかは強みとなる
・スタートアップのアイデアは99%の人が不要と感じるものがベスト
・スタートアップ においては競争は負け犬がすること。大企業など誰もやらないハードな道が近道になる
・スタートアップ で避けるべきアイデアは「最初から良いように見えるアイデア」「ニッチすぎるアイデア」「想像上の課題であるアイデア」「分析から生まれたアイデア」
・課題の質がソリューションの質を高め、サービスの価値を創る

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1-2. アイデアの立案とリーンキャンバスでPlanAを作る

・アイデアはタイミングが命。「なぜ今か?」にハマるものが強い
・5〜10年先を見据え、今後、需要に対して供給が足りなくなるところは?次のパラダイムシフトはどうなる?かを考える
・PEST分析で兆しを見つける。政治、経済、社会、技術はどのように変わってきているか?それらの変革は大きなチャンスが転がっている
・弱い立場にあるものは破壊的イノベーションにこだわる。大企業と同じことでは絶対に敵わない
・この段階では役割や組織間による分断状況を作らない
・アイデア創出の10のフレームワークが存在する。「中間プロセスの排除」「休眠資産の活用」「コンビネーション」「タイムマシン」「アービトラージ」「As a service化する」などがあり、このフレームワークとアイデアの種を掛け合わせてみる
・リーンキャンバスを用いて検証を開始する準備をする。壮大で緻密な事業計画やファイナンシャルプランは不要
・リーンキャンバスで重要なのは「課題」と「顧客」。さらに顧客はアーリーアダプラーを狙えているかが重要
・PlanAは今後も検証を重ねる中でピボットする可能性は十分にある。しかしビジョンはピボットできない

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【第2章】 課題の質を上げる

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アイデアの立案&検証が完了したら、今度は課題の質を上げるために「その課題は本当に存在しているのか?」「本気でその課題を解決したいと思うか」を突き詰めていく必要があります。このステージを充分に行わず、アイデアを形(MVP)にしていくことは時間の大幅ロスや、間違ったバイアスで進んでしまう危険があるため禁物です。このステージではCPF(Customer Problem Fit: 顧客の課題が存在しているか)を達成します。

具体的には顧客が抱えている課題を言語化し、仮説を構築し、ジャベリンボードを使って前提条件を洗い出し、実際に検証していくことが必要となります。


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2-1. 課題の言語化と前提条件の洗い出し

・「人間中心/課題中心」「特定のターゲットを絞る」「チーム内でのイメージ共有」のためにペルソナを策定する。共感マップで心理状態を深掘りする
・カスタマー目線でストーリーを語れるようカスタマージャーニーを作成する。特にファウンダーはストーリーでプロダクトを語れることが重要。カスタマーが複数のステークホルダーで構成される場合はそれぞれのステークホルダーのジャーニーを作成する
・課題の仮説を深掘りし、前提条件を洗い出すためにはジャベリングボードが有効な手段。特に課題の前提条件が何かを特定し、その課題が本当に存在しておりボリュームとして存在するかを理解する(例:外国人向けに空港でwifiルーターを貸し出すサービス=旅行者は前提条件としてルーターを持っていない事が必須)

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2-2. 課題〜前提の検証

・想定したペルソナに対してインタビュー を実施する
・デプスインタビューで課題〜前提の検証をする際は「エバンジェリスト」「アーリーアダプター」を選定する。彼らは課題を認知しており、積極的にソリューションも探しており、批判的な意見も持ち合わせているため非常に参考になる意見をくれる
・インタビューについてはUX系の書籍で書かれている教科書的なものが多いが、「弟子入りする」「解決策ではなく課題を尋ねる」「非言語コミュニケーションを観察する」等がポイント
・インタビュー 結果をKJ法でまとめ、課題の真因を言語化する
・インタビューの目安は20人。4つのセグメント x 5名のインタビューで20人にインタビューすることを目安とする
・仮説構築と検証のサイクルを5〜6回繰り返せば、フォーカスすべき課題はおのずと見えてくる。CPFの終了条件としては「課題が存在することが確認できたか」

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【第3章】 ソリューションの検証

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次に取り掛かるのがPSF(Problem Solution Fit: 課題とソリューションが合致しているか)の達成です。MVPを市場に出す一歩手前の段階でプロトタイプを作ります。PSFの段階でプロトタイプを作成し、検証を繰り返すことで、課題に対するソリューションが適切かどうかを判断していきます。

この章ではUXブループリンとの作成、プロトタイプの作成、プロトタイプを使ったインタビュー方法について言及しています。


3-1. プロトタイプを作る

・プロトタイプの「最適化」には注力せず「検証」に注力する。成功しているスタートアップ は「最適化」ではなく「検証」に時間を割いた企業が多いというデータがある。例えばラーメン屋を開業する時に、ラーメンが出来ていないのに店やトイレの装飾にこだわったり食材の仕入れ交渉を進めたりは不要で、核となるラーメンを複数作り、検証を繰り返すような「検証」にフォーカスすること。初期のプロトタイプは簡易的なペーパープロトタイプで充分
・プロトタイプ制作のプロセスを可視化するプロトタイプカンバンボードはチームワークを実践する上で有効な手段
・まずはフィーチャー(大きく分類できる機能)を洗い出し、フィーチャーの優先順位をつける
・初期の段階ではフィーチャーの中でも「Must-have」の実装のに注力する。やってしまいがちの問題は「Nice-to-have」な機能も実装することであるが、それはビジネスをスケールする段階で充分。まずは「Must-have」を複数案検討し、充分に検討すること。最も大事なのはトップページから最終的に課題を解決するまでの核となる部分のストーリーをいかに磨けるか
・プロトタイプはメンバーと共同しながら付箋などを使って作るのも効果的。見た目は気にしない。ユーザーテストできるレベルの品質にブラッシュアップする場合に個人作業でも行う
・エレベーターピッチを作成し、プロダクトから曖昧さを無くし、プロダクトの核心を明確にする

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3-2. プロトタイプの検証

・プロトタイプのユーザーテストについては専門の著書があるのでここでは割愛
・「Must-have」ではなく「Nice-to-have」な機能が盛り込まれすぎているとユーザーの意見がそちらに注力され、真に重要なフィードバックを得られない可能性がある
・ソリューションの仮説検証プロセスを高速に実践するメソッドとしてデザインスプリントがあるので実践するのも効果的(5日間でアイデア創出→プロトタイプ→テスト→分析検証を実施する)
・PSFの終了を判断する自身への質問には「顧客がそのソリューションを利用する理由を明確に言語化できるか?」「ソリューション仮説の磨き込みを通じてカスタマーが持つ課題の理解がさらに深まったか?」
・検証の結果、自分たちが立てた仮説に基づくソリューションが顧客に受け入れられないと分かった場合、3-1に戻り、プロトタイプの作成からやり直し、何度も何度も磨き込もう

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【第4章】 人が欲しがるものをつくる

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この本の最後のステップは、カスタマーの反応を探る実験を行うプロダクトMVP(Minimum Viable Product: 実用最小限の製品)を市場に出し、想定しているカスタマーが熱烈に欲しがるものを実現するPMF(Product Market Fit: 顧客が熱狂的に欲しがるものを作れる状態)を達成することです。

MVPを投入し、PMFの達成を目指すフレームワークは大きく3つに分かれ、「プロトタイプをもとにカスタマーに受け入れられそうなMVPを構築する」「MVPに対する反応を計測し、機能やUXの改善を高速に繰り返す」「改善を繰り返してもどうしても成果が出ない場合は根本からの軌道修正(ピボット)を判断する」というものです。


4-1. MVPを構築する

・MVPの構築には数ヶ月かかる。だからこそ最初のCPFやPSFを重視し、誰も欲しがらないものを時間とお金をかけて作らないようにする。CPFやPSFは早くて1ヶ月で完了するので失敗の可能性を大幅に削減する。MVP構築前にCPFやPSFが改めて達成基準をクリアしているか確認する
・MVPの作り方は、例えば移動するためのプロダクトであれば、はじめに「スケートボード」を作り顧客の声を聞き(顧客の声=ハンドルで方向転換したい)その後に「キックボード」を作り顧客の声を聞き(顧客の声=もっと早く走りたい)その後に「自転車」を作り顧客の声を聞き(顧客の声=楽に自動で走りたい)その後に「バイク」「自動車」を作っていくこと
・必要最低限の機能=MVPとはいえ、競合にはない桁違いの価値提案が1つはある必要がある
・MVPには「ランディングページMVP」「オーディエンス開発型MVP」「コンシェルジュMVP」「ピースミールMVP」等が存在する。実際の製品でなくても良い
・MVPはMSP(販売可能な最小限の製品)であることも望ましく、お金をもらうことからしか学習できないことがある
・MVPの構築にはスプリントキャンバスとスプリントカンバンボードを使う。ここでもアジャイル開発型で、1ヶ月単位でリリースと改善を繰り返していく
・MVPは投入して終わるだけではなく、結果を分析し、高速に改善することでPSFが達成できる

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4-2. カスタマーに届けて計測する

・このままだと「恥ずかしい」くらいの状態でリリースしてしまう
・カスタマーの生の声を集める。Google Analyticsなどの数字だけではなく、オフィスを飛び出てカスタマーの声を集めに行こう
・マーケティングより直接の対話をする。アンケートによる評価の収集は効果が薄い。アンケート形式で尋ねてしまった場合、カスタマーの考え方を狭くさせ、PMF達成の可能性を下げることになる
・MVPの評価を計測するために、定量分析で定番のAARRR(海賊指標)を実装する。PMFにおいて大事な指標は Activation(ユーザーの活性化)、Retention(継続利用)、 Revenue(購入)の3つ。AARRRでユーザー離脱の穴を1つ1つ埋めていくことが改善行動となる。AARRRを元にプロダクトのKPIを設計する
・KGI(売上やコンバージョン)に直接つながるKPIの設定が重要。マネーフォワードでは「ユーザーの銀行口座情報登録率」を最重要のKPIとし、2014年にサッカーワールドカップで優勝したドイツチームの最重要KPIは「ボールを受け取ってからパスを出すまでの時間短縮(1.6秒)
・MVPの最重要KPIは定着率。まず最初に数人に熱狂的に愛されるプロダクト作りを目指す(最初の10人にすら売れないものは100万人に売れるプロトタイプには絶対になり得ない)
・結果指標(UU、PV、売上、CPA)だけを見ず「アクションできる指標」「因果指標」を見る。虚栄指標に惑わされない
・定量だけでなく定性でカスタマーの声を聞く。「このプロダクトを使って価値を感じましたか?」「なぜこの機能に魅力を感じたのですか?」「なぜ使わなかったのですか?」

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4-3. 新たなスプリントを回す/UXを磨き込む/ピボットを検討する

・1回目のMVP投入後、PSFを達成するのは極わずか。2回目以降のスプリントを高速に回す。1回目と2回目のMVPの計測結果を比較する
・MVPを改善する中で無闇に新しい機能を追加しない。MVP段階で失敗したスタートアップ は、成功したスタートアップ よりも3.4倍のプログラムを書いている
・UXエンゲージメントモデルを使い、UXを磨き込む。利用前UX、利用中UX、利用後UXと流れる体験の中で、カスタマー定着において重要なUXは「累積的UX」。継続的に利用中と利用後のUXを改善することで累積的UXは向上し、顧客の定着率向上に繋がる
・UXの向上には例えば「ユーザーの時間的負担を減らす」「身体的負担を減らす」「脳の負担を減らす」「社会的承認の負担を減らす」などの負担を減らすアプローチや、「希少効果」「アンカー効果」「バンドワゴン効果」など目的達成に導く改善がある。またユーザーに報酬を与える「ソーシャルの報酬」「達成度の報酬」「ハントの報酬」「自律性の報酬」や、ユーザーが投資することで定着を促す「レコメンドの精度向上」「ステータス付与」「過去の投稿の財産化・重石化」などがある
・PMF達成基準は「顧客の高い定着率を保てているか?」「顧客から売り上げを上げるまでの再現可能な仕組み化が出来ているか?」「リーンキャンバス全体を見て成立しているか?」「顧客が熱狂しているか?」
・無傷で終わるピボットはない。痛みの伴うピボットで継続することの浪費を防ぐか、まだ出来ることをやり切っていないか判断する
・ピボットにはいくつか種類があり、完全に白紙になる以外に、CPFやPSFの段階まで戻ることに留まる事もある

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最後に

ここまで長文を読んでいただきありがとうございました。
「起業の科学」は2017年11月に発行され、数年が立っているものではあるが、色あせない不変の価値が節々に存在するように感じます。また、一度概要や本で要点を掴んだ人も、定期的に見直すことで新たな発見や、自分が出来ていないことを思い出すキッカケになるとも思います。

私も仕事をしている中で、自分はどのフェーズにいるかな?と考えると同時に、この本を改めて見返そうと思います。

ありがとうございました!

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