広告デザイン必携書物

お薦め書籍を少々ご紹介。

『こころの眼』
アンリ・カルティエ=ブレッソン著
堀内花子訳
岩波書店刊

あの著名な写真家が自ら綴った写真を巡るエッセイ。120ページ。とても薄い書籍だが、中身は濃い。素晴らしい言葉が数多くちりばめられている。

「私は今もアマチュアだ。だが、もはや愛好家ではない。」

アンリ・カルティエ=ブレッソンが、写真そのものへの愛情と、写真で生きている自分というものの存在を端的に、客観的に表現した名言だと思う。
写真家にはジャーナリズムの感性が必要だ。この本を読むと、彼の真摯な姿勢がよく伝わってくる。
日本人である我々にとってこの書物が素晴らしい一冊になった功績は、間違いなく翻訳にある。訳者に感謝。

『みんなに好かれようとして、みんなに嫌われる』
仲畑貴志著
宣伝会議刊

以前、万象堂の書籍紹介コーナー『書物迷宮』でも取り上げた仲畑貴志さん。そこで取り上げたのは『最初で最後の広告作法』という貴重極まる広告制作ノウハウ大公開テキストだったが、この書籍はそのノウハウに一層磨きを掛けて書籍にしたものだ。
悪いはずはない。
版元の紹介文では『数珠のビジネスエッセイ』と書かれているが、そんな生ぬるいものではない。ここに書かれていることは『広告制作者の心構えとメソッド』である。“作り方”が書いてあると言い換えてもいい。レシピである。
広告制作に関わっている全ての人が読むべき一冊。もう、これは絶対だ。絶対読んでほしい。
それは、広告を作る側の人だけではなく、発注する側の人にも。

『アイデア 333号』
エミール・ルーダー著
ヘルムート・シュミット編
誠文堂新光社刊

これも万象堂の書籍紹介コーナー『書物迷宮』でも取り上げたが、エミール・ルーダーというスイス・タイポグラフィーの神様のような人がいる。彼の弟子でヘルムート・シュミットさんというデザイナーが日本在住で活動しているが、ルーダーの名著『Typography』を元に、ルーダーの思想と実績、デザイン理論、方法論を幅広く編集した一冊だ。
とうとうルーダーの言説が日本語でまとまって読めるようになった。これは奇跡である。ここ数年の『アイデア』誌は、日本のデザイン史に残る出版を数多く実践してくれている。感謝してもしきれないくらいだ。
ヤン・チヒョルトの大特集で度肝を抜かれ、ハーブ・ルバリンの特集で感動し、エミグレの特集で唖然としたが、今回はエミール・ルーダー。とうとうやってくれた。
スイスデザインについては好みが分かれるところもあるだろうが、グラフィックデザイナーなら、やはりこの書物は必携と言うしかない。

最後に、おまけ。
広告とは直接関係ないがビジネスをやっているのは間違いないので、知っていた方がいい男の教養である。

『The Handbook of Style』
Esquire Magazine 編
HEARST BOOKS 刊

全ての大人の男性に向けられたスタイリングのガイドブック。エスクァイアマガジンがまとめた手軽かつボリュームたっぷりの書籍で、200ページ以上にわたって、スーツ、シャツ、ネクタイ、コート、シューズなど、衣服に関する重要なポイントを指南している。
衣服には、実はルールがある。何を着てもいい自由と、服には正しい着方があるという見識の共存は、矛盾しない真実だ。そういう男と服装の基本は、意外と知られていないのである。

書籍の帯に記されていた“名言”も、こんな感じだ。

ファッションは色あせるが、スタイルは永遠だ。
イヴ・サンローラン

重要なことは、いくつかのシンプルな衣装を持つこと。
シンプルこそより良い。それが秘訣だ。
ケーリー・グラント

帽子を傾けたまえ。アングルは態度そのものなんだ。
フランク・シナトラ

ちなみに洋書なので英文だが、大丈夫。読める。

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毎度の事ながら、いい書物と出会うと自分が成長したような気になる。
気になるだけではなく、本当に成長しなくてはいけないのだが。

Nori
2009.03.28
www.hiratagraphics.com