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【小説編】「このBLがやばい!2015」発表前に、独断と性癖で選ぶ「このBLに萌えた!2015」を考えてみたよ

12月突入。そろそろ商業腐女子にとっての一大イベント「このBLがやばい!2015」発表の時期です。そこで、それに先駆けて、私なりに選ぶ「このBLに萌えた! 2015」を発表させていただきます。マンガについてはマンガHONZのレビューで書きましたので、ここでは小説について。対象作品は「やばい!」同様、2013年10月〜2014年9月の発売作品です。

いやーーー個人的に自分のメイン萌えフィールドは小説のつもりなので、マンガより迷いました。「性癖」押しで決めるべきか、より多くの人に共有可能な「おもしろさ」ベースで決めるか……結果は以下のとおり。


10位 流砂の記憶(松岡なつき、キャラ文庫)

古代エジプトの王族×タイムトリップした現代の考古学者。すでに23巻を数える超人気シリーズ「FLESH&BLOOD」の松岡なつき先生の新作です。

BLのクライマックスといえば、「受の貞操のピンチ」「攻の失脚」などがド定番ですが、『流砂の記憶』はそれらもありつつ最終的には、「攻めが守ってきた神殿を受けが発掘しようとするのを攻めが阻止する」という展開。し、神殿かーーーー! と、なんかすごい新鮮だったけど、やっぱ受けと攻めのプライドのぶつかりあいこそがBLだよなとわくわくしました。

9位 恋はドーナツの穴のように(砂原糖子、ディアプラス文庫)

ほのぼの日常ラブコメ枠をここでひとつ。東京から出戻って地方都市のドーナツ屋の雇われ店長をしている疲れたアラサーが、しっかり返事のできない無気力今どき高校生バイトとの歳の差ラブに、いつのまにか癒やされていくお話。はーーー宝井理人先生のイラストがきゃわいすぎる。

最初こそコミュ力の低い使えねえ高校生のようにうつる攻めですが、実はかくれた一芸を持っていたうえ、今年読んだBLのなかでもなかなかの男前度をほこるキャラでした。

だって、アドレス帳に残る別れた不倫相手の名前を苦い表情で頻繁に眺めているアラサー店長を見て、「こうすれば大丈夫」と、その登録名を「森のくまさんとウサギのメヌエット」(ドーナツ屋の限定商品)に変更してあげるんですよ? 17歳男子高校生の彼氏力やばくないですか??? もうこのエピソードだけで男子高校生と付き合いたい気持ちに満ちあふれますよ。

可南さらさ先生の『先輩とは呼べないけれど』と迷ったのですが、男子高校生には勝てなかった……。砂原先生はささいな日常描写をきらめかせる天才です……。あとペンネームが異常に好きです(笑)。

8位 ボーダー(佐田三季、ショコラ文庫)

はい、今私の性癖をもっともわしづかみにしているのが佐田三季先生。リストラ!非正規雇用!風俗狂い!パラサイトシングル!毒母!ゲイフォビア!みたいな、重い要素たちが陰鬱なリアリティをもって書かれています。ページをめくるごとに、世の中の世知辛さ、人間この小さきいきものの悲しさを感じる。だがそこが萌える。

表題作よりも、同時収録の「揺れる境界線の上」の受けが最高にクズくてツボでした。うんうん、会社が倒産して、それでもがんばろうと思ったのに、奥さんが「○○証券につとめてないなら結婚してる意味なんてないわ」とか電話しているの聞いちゃうのつらいよね。しかも再就職したものの、離婚した妻の交際相手が勤める一流企業に、出入りの業者としてツナギ姿で行くのつらいよね……。そりゃ、自分のことを明らかに好きな男の家にいりびたって彼の好意に甘えつつ、AV観て風俗嬢呼んで、でもその男の好意は無視し続けて……みたいなイヤなやつになってもしょうがないよな……。あ、でもこの受け、高校時代からそういうことしてたわ……元からねじくれてた……だがそれがいい。

そんなわけで、攻めであり従兄弟の国見の好意に甘え続けてきた性悪男・佐々木が、堪忍袋の緒がキレた国見に猛反撃されていくさまが、さいこーーーーーーーーーーーに萌えでした。ありがとう。佐田先生ありがとう。感謝の言葉しか浮かびません。

個人的には、前作『彼は死者の声を聞く』のほうが好きなんですけどね。絵を描くのは好きだが、自分よりも絵の才能がある自閉症の姉を両親がかわいがるために、姉を激しく憎み、しかもその姉を自分の悪意がきっかけで死なせてしまった主人公……(しかもここまではイントロって感じで、本編でもどんどん主人公に不幸がふりかかる)。いまBL界でいちばん、世界や人間の「いやなところ」をえぐりとっていると思う作家さんです。

7位 愛の罠にはまれ!(樋口美沙緒、花丸文庫)

みんなだいすき擬人化もの。そのなかでもとくに人気シリーズに成長している樋口美沙緒先生の昆虫擬人化シリーズの第4弾が『愛の罠にはまれ!』です。

擬人化といっても、厳密にいうと、虫がそのまま人のかたちになっているわけではなくて、普通の人類が絶滅し、節足動物と人間が融合した新人類が生活をしているという世界観。樋口先生の昆虫愛が爆発しており、いろいろな昆虫豆知識も学べてオトク!

今回、「男性妊娠」が重要なファクターとなっているんですが、それも実際に昆虫の世界の病気として存在する「ボルバキア症」が元ネタなんですよね。ボルバキアは寄生虫が宿主の生殖システムを自分に都合のいいように作り変えてメス化させちゃったりするものらしいのですが(そんな腐女子に都合のいい現実があるなんて!)、受けである篤郎(オオスズメバチ出身)はこれにかかり、好きでもないはずだった攻め・兜(当然ヘラクレスオオカブト出身)の子供を妊娠、苦悩するのです。

このシリーズ、いつも発想はおもしろいなあと思いつつ、ロウクラス(小さい虫)に病弱という設定があり、受けがいつも弱々しくて健気で心優しい子たちだったので、あまり個人的なキャラ萌えの琴線にふれてきませんでした。

しかし、今回の篤郎は、前作の受けである義兄や家族との関係をこじらせて悪辣放蕩の限りをつくし、しかも義兄をチンピラたちの餌食にしてしまった過去を持つ、「悪い子」。今作では、自分が義兄にしたことを後悔し、家族から隠れてつつましくおだやかに暮らしているのですが、義兄の知り合いであった兜に発見され、「かわいそうな子好き」の兜に振り回されることになるのです。

とにかく兜がクズすぎてやばい。代議士の息子で、自分も弁護士で、特権階級であるハイクラスに分類される種族なのに、身体も地位も弱いロウクラスに友好的で、かわいそうな子を見ると放って置けなくて、周囲からは正義感あふれる男として一目おかれている兜。でも実は彼は、人を自分のヒロイズムを満足させる道具としてしか見ていないんですよね。

そんな兜の性質を見抜き、彼のことを好きになっても幸せになれるはずがないと、自分にセーブをかける篤郎。そんなことも気付かず、知らず知らず篤郎に本当に夢中になっていって、それゆえにだんだん化けの皮がはがれていく兜。さすがに最中に篤郎を平手打ちしたときは「この男いっぺん死ね」と思ったけど、反面「きたこれ!!」と萌えてしまった……。その兜がどうやって改心していくか、妊娠した篤郎がどうなったかは、本編をご覧いただければ。

樋口先生、ぜひ今後もっとクズ攻めの分野に乗り出してくださるようお願い致します。

6位 COLD HEART(木原音瀬、ビーボーイノベルズ)

だんだんこのランキング、「このクズ男がすごい!2015」の様相を呈してきました。すみませんが6位もクズ攻めです。「BL界の芥川賞作家」の異名を持ち、最近は一般文芸誌でも活躍しながらも、「クズ攻め」の4次元ポケットを持つ作家・木原音瀬先生の最新作。「COLD」という人気シリーズのスピンオフですが、このCOLD HEART上下巻だけでも読めます。

天才子役としてもてはやされたものの今は落ちぶれてしまった俳優・秋沢(マジヤバイ人)×自社ブランドのイメージモデルを探すうちに彼と出会い、とんでもない目にあうことになる、アクセサリーブランド副社長・楠田(常識人)。

これまでも、攻めとしてというレベルではなく、人間レベルでクズい攻めたちを生み出してきた木原先生ですが、今回もやばい。自分は浮気するくせに「楠田が地方ロケについてきてくれなかったからじゃん。俺は性欲処理しただけ。ついてきてくれない楠田が悪い」とのたまい、「そんな理屈、たえられないから別れる」と言った受けに、彼が何をしたかって……いや、それは本編で読んでください。

攻めが受けにした「あること」により、受けはとんでもない精神的・肉体的トラウマをうえつけられます。その挙句、「このままじゃ攻めに殺される」と思いつめて、周囲に人に「俺はもう死んだことにしてくれ」といってニューヨークに渡るという……。敵とか追手とかから逃げるんならともかく、恋人から逃げる手段だからね? まあそれくらいのレベル感のことを攻めがしでかすんですけどね。

正直現実の友達から相談されたら、それが異性だろうと同性だろうと「いや、その男はマジでやめよう、今すぐ逃げよう、ってか警察行こう」と言うべきレベルにいかれてる男が攻めの秋沢。でも、彼がそういう人間になった経緯とか、彼の才能(一度読んだ台本はすぐ覚え、完全にその役に「なってしまう」化け物的才能を持つ)とかもきちんと描かれているので、いつのまにか、受けと同様、「こいつほんとしょうもねえけど、しょうがねえなあ」と思ってしまうミラクル……。木原先生、これからも萌えるクズ攻めを楽しみにしております。

5位 素敵な入れ替わり(小林典雅、ディアプラス文庫)

クズ攻めばかりが続いてきましたが、ちゃんとそれ以外も読んでますよ! ということで、スラップスティックBLの女王・小林典雅先生の『素敵な入れ替わり』を。小林典雅だいすき芸人でもあるので、雑誌掲載時から文庫化を楽しみにしていました。

主人公は、20歳でできちゃった婚をしたものの、出産と同時に妻をなくし、惣菜屋を切り盛りしながら息子を育ててきた37歳シングルファーザー・広海(受け)。我が子同然にかわいがってきた、息子の親友・倫己がここ数年そっけないことを除けば、つつがなく暮らしていた広海ですが、高校生の息子が危篤におちいったのをきっかけに息子と身体が入れ替わってしまうことに。彼のかわりに学園生活を送ることになりますが、はたして無事隠しおおせるのか?というお話。

「入れ替わり」のドタバタは作品を読んでいただくとして、今回も素晴らしかったのは、典雅先生お得意の「一方が一方を全力で説得して両想いになる」スタイルです。

この世の大方のBLというのは、

・言葉を使わずに思いが自然と通じ合ってヤる
・無理やりヤッた結果、紆余曲折あり、思いが通じる

の2パターンに分類できます。

前者はともかく、後者は「お前ら、人間というのはバーバルコミュニケーションのできる生き物なのだからもうちょっと話し合えよ」と思うこともしばしばなわけです。

しかし、典雅先生はご自身もつねづね「一方がめっちゃ恋してて努力で相手を振り向かせる話が好き」と書かれているとおり、とにかく言葉や行動により、きわめてジェントルに(だがしかしコミカルに)一方が一方を振り向かせるのです。さすがBL界の三谷幸喜!(『素敵な入れ替わり』というタイトルもそうですし、典雅作品には三谷幸喜作品オマージュが頻出します)

今回の攻めも、最初はクールでそっけないイケメンかと思いきや、年の差性別周囲の状況もろもろ考えて彼を拒む受けに対して、3ページ以上も、自分がいかに受けのことが好きか、ていうかセックスしたいか、えんえん説き、さいごはもはや駄々をこねだしますからね……新しい……。

これまでの典雅作品にくらべてもストーリー、キャラ、ラブ、全体のバランスのよい一冊でした。ぜひこの一冊で興味を持っていただき、『美男の達人』『嘘と誤解は恋のせい』などのよりトンチキな典雅ワールドに足をツッコんでいただければ!

4位 神さまには誓わない(英田サキ、リンクスロマンス)

文字数尋常じゃないですがまだまだ続きます……悩んだ末この順位にしたのが、英田サキ先生の『神さまには誓わない』。

『エス』『DEAD LOCK』といった警察ものが好きすぎて、あまり英田先生のファンタジーものにはしっくりきていなかったのですが、今作はすごくよかった。一応『ファラウェイ』という作品のスピンオフですが、この作品だけで読めます。

主人公は、何百万年も生きている腹黒悪魔のアシュトレト。ニューヨークの弁護士の身体を借りて生活しているアシュトレトですが、旧友(もちろん悪魔)アモンが日本で恋人をつくったため遊びにくるうちに、日本で牧師をし、娘を男手一つで育てているアシュレイと仲良くなるように。しかしある日、アシュレイは交通事故で命を落としてしまいます。

アシュレイの娘を猫かわいがりしていたアシュトレトは、死んだアシュレイの身体に乗り替わり、飽きるまでの間は彼女を育てようと決めます。そんなアシュレイをひいてしまったのは、近所でケーキ屋をいとなむパティシエの上総。事故を心配して頻繁にたずねてくる上総が、実はアシュレイを好きになっていることに気づいたアシュトレトは彼を誘惑して交際することに……。

アシュトレトは気まぐれに人間世界で暮らしていますが、悪魔にとって人間は、犬猫も同然の愛玩動物にすぎません。当然恋なんてするはずもなかったのに、ただただ快楽に忠実に上総と交際しはじめたアシュトレトがいつのまにか上総を愛してしまい、とまどう過程がめっちゃかわいい。でも、高等生物の悪魔さまなので、そんな感情にふりまわされている自分が嫌で、上総への愛を自覚した瞬間に、その愛をぶちこわす「あること」をしでかすんですよねえ……。うわーーーー、これはこじらせ女子にもありがちなやつや!と読んでて頭を抱えました。

紆余曲折を経て、アシュトレトと上総という寿命の違う2人が選んだ愛のかたちには、数々のBLのラストを読んできたにもかかわらず、ちょっと涙ぐんでしまいました……っていうかアシュトレトとてもかわいい。正統派にラブストーリーを堪能できるBLだと思います。

3位 ソムサン〜総務部三課〜(西野花、ビーボーイスラッシュノベルズ)

はい。実は私、ぎりぎりまで正直1位でもいいんじゃないかと悩んでたんですけど(笑)、設定的には2014年でいちばん推したいのが、西野花先生の『ソムサン』です。ショムニじゃなくてソムサンです。

内容はタイトルのとおり、カイゼルコーポレーションという大企業に設置された「総務部三課」(ソムサン)に属する人々の恋愛模様……なのですが。 まあ、もはや帯にも書いてありますけど、社内のさまざまなトラブルを力技で解決していたショムニに対し、ソムサンが何をするかといえば、社内外のトラブルの解決や、業績をあげた社員の表彰、重要な取引先の接待として、「セックスワーク」を提供するんです。 

最初設定を聞いたとき、ちょっと意味がわからなかったですよね。え? は? え???? 正気か????? みたいな(西野先生、すみません)。

でも実際読むとあら不思議、つねに社の利益を考え職務をまっとうするプロのソムサンのプロ社員たち、そして文章の90%くらい濡れ場なのにちゃんと起承転結もつけて物語としてのカタルシスを感じさせてくれる西野花先生に、感謝の気持ちしか浮かびません。

アンソロジーでの読み切り連載を連作短編集としてまとめているのもあり、サラリーマンもののかたちをとりつつも、毎話、媚薬だとかアラブだとか3Pだとか童貞だとかおもらしだとか、毛色の違うシチュエーションがもりだくさん。何かもはや読んでて感動するレベルです。アホエロ・トンチキBLはもちろんたくさんあるんですけど、ここまで真摯にやられると、スタンディングオベーションしかない。

最近はTL界にも名をとどろかせている西野先生ですが、こういうトンチキだけど真面目なBLを、今後もぜひご執筆いただきたい……。  

2位 暁に堕ちる星(和泉桂、リンクスロマンス)

みんなだいすき清澗寺シリーズ。没落しつつある旧家・清澗寺家の男たちの人間模様を描いた作品です。 

大正時代を生きる三兄弟それぞれの恋模様を描いた後、その父・冬貴、清澗寺のそもそもの成り立ちを探る平安編などを経て、現在三兄弟の次の世代、第一次世界大戦後の混沌期を描く「第二部」が展開しています。三兄弟全員男とカップルになってるんですけど、社会活動家と駆け落ちした末っ子の妹の置き土産の双子とか、分家からひきとった養子とかがいるから、世代を超えてBLがつづく! 素晴らしい! 

個人的には、呪われし清澗寺の業を一身に背負った罪の子にしてスーパー奔放受けな冬貴を中心にすえた『罪の褥も濡れる夜』が素晴らしすぎて(ていうかBLCDだと遊佐浩二×神谷浩史なんですよ奥さん!)、第二部にはあんまりピンときてなかったんですけど、今回の養子・貴郁編、めちゃくちゃツボってしまった……性癖的に……。義父兄×婿養子の3Pです。 

舞台は昭和21年。帝国大学法学部に在籍する清澗寺貴郁は、鹿児島の特攻基地から帰還し、学問に没頭しているものの、いまいち生の実感の持てない日々を過ごしています。分家から養子になった貴郁ですが、実は奔放な清澗寺前当主・冬貴の息子。しかし、あちこちで子供をつくっており全く頓着していない冬貴にはもちろんかえりみられておらず、育ての父には金とひきかえに本家に養子にだされ、養父であり兄でもある和貴には「お前は僕に似ていない」とことあるごとに言われ、屈折して育ったのです(これは自分の血を恥じている和貴にとっては最高の褒め言葉なんですけどね)。そのうえ、跡取りとして引き取られたはずなのに、冬貴の一人娘・鞠子が生んだ双子が清澗寺家に引き取られたことで、いよいよ居場所をなくしてしまったと感じています。 

そんな折、和貴から、新興企業である黒田商事の娘・秋穂との縁談を提案された貴郁は、居場所のない本家にいてもしょうがないと、失意のうちに婿入りを決めます。義務としての結婚生活をまっとうしようとしていた貴郁でしたが、黒田家の人々と暮らすうちに、自分の理想的な父親像を体現した義父・宗晃と、優しく包容力のある義兄・篤行それぞれにひかれていくことに……。 

貴郁は、これまでの作品にもちらちら登場していて、人間味の薄い優等生として描かれていたのですが、まさか胸のうちにこんな葛藤を秘めていたとは……。3人の父を持ちながら、その父たちすべてに裏切られてきた貴郁。すくなくとも和貴にかんして言えば、貴郁を愛するがゆえの言動が裏目に出てきたわけなのですが、まあそんなこと、子どもには関係ありませんよね。 

父に愛されなかった貴郁がたどりついた究極の父性としての宗晃への思いというのは、正直「恋愛」ではなく「宗教」なのでは、と私は思うし、おそらく和泉先生もそういう意図も持ちつつ描いているんだと思いますが、それとは逆に篤行のほうはぐんぐん「恋愛」でくる。最近3Pものは多いんですが、義父と受けの関係、義兄と受けの関係の対比がさすがの和泉先生でいらっしゃる……。私、ほんと「父性との相克」を描いたBLが好きなので、とても萌えました。

あと単純にとにかくえろい……というか淫靡……。目隠し、写真撮影、巫女服、「おとうさん」呼び強要、などいろいろある……まあ率直に言って「人妻もの」最高ですよ。単体でも全然楽しめるので、巻数が多くなって清澗寺シリーズには手を出しにくいという方ぜひに……。

それにしても、3人の関係に一切介入せず、好き勝手に人生楽しんでる秋穂ちゃん最高に進歩的でかわいい。和泉先生の、BLにおける女性の配置のしかた、おもしろいなあと思っています。


やっとここまでたどりついた……いよいよ1位です。


1位 ワンダーリング(一穂ミチ、ディアプラス文庫)

はい、一穂ミチ大好き芸人としては当然の結果ですね……いや、当初『ソムサン』と悩んだんですけどね(笑)。

今回の対象期間に一穂ミチ先生はこの他4作品も刊行されていてですね(『ノーモアベット』、『アンフォーゲタブル』、『ナイトガーデン』、『甘い手、長い腕』)、純粋に選ぶならあと2作品はランクインさせたいものもあったのですが、一番は『ワンダーリング』です。『ノーモアベット』のスピンオフですが、これ単体で大丈夫。

主人公は、日本で唯一の公営カジノ、NMB(ニューマリーナ・ベイ)でディーラーをつとめる芦原雪。7歳のときにラスベガスのカジノで拾われ、自分を引き取ったシンガポールの富豪・令輝から徹底的にルーレットを仕込まれた雪は、一流のディーラーとしてNMBでの仕事を謳歌しています。

しかし、令輝の腹違いの弟にして、雪の名付け親である藤堂が、NMBの社長に就任したことで、雪の平穏な生活に変化が。令輝が雪に有無を言わせずディーラーの道を歩ませていると心配している藤堂は、やたらと雪に干渉してくるのです。しかも、雪が令輝と「ある裏事業」に手をそめていることに気づいた藤堂は、雪に、「自分とルーレット勝負をして、負けたら事業から手をひけ」と要求してきて……というあらすじ。

なんかほのぼの少女漫画っぽいあらすじになってしまったんですけど、手に汗握る真剣勝負BLです。とにかく読んでほしい。読んだらわかるさ、カジノが人を狂わせるってことが、男と男のプライドのぶつかりあいこそがBLだってことが……。

「――人生なんてつまらなくてたまんないって思ってるだろう? そりゃそうだ。お前の人生がつまらないのはな、一度も自分で選んでないからだよ」

「僕を嫌いだといった口でキスするのか」
「え、好きな相手としかしたことないんですか」

「右手の指を折られれば僕は左手で輪(ルーレット)を回す。左手が使えなかったら口で足で回す。足が駄目なら、口で。だから僕を止めたければ、今すぐ首をへし折ってください」

などなど、とにかくキャラたちのセリフもかっこよすぎる。頼むからはやく『ノーモアベット』とともに月9ドラマ化してほしい。ドラマ化はいいからもっと続刊してほしい。夏コミの番外編同人誌もめっちゃ最高だった……。いろいろと非合法な遊びをしているので、複数パスポートを持っている雪……。

でも続刊してほしい一方で、きっと新作でもあたらしい萌えを提供してくれるに違いない一穂先生なので、今後とも、お体には気をつけて、お好きな作品をご執筆いただければなあと思うのです。あ、11月に発売したため、今回のランキングの対象外である『イエスかノーか半分か』のことはまた別途書きます……。


というわけで、お粗末さまでした。みなさま来年も快適なBLライフを!


  


いつもありがとうございます。より良い浪費に使います。