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映画のことが全然わからないので、詳しい人に「ひとつの映画がお客さんに観られるまで」を聞いてみた

毎週映画館に足を運ぶようになって、数年が経ちました。年間300本!400本!みたいなシネフィルには全く及ばないし、旧作の蓄積がないので、ひよっこもひよっこなのですが、それでも世間の平均よりは映画を観るうちに、「そういえば映画ビジネスのこと、私全然知らないな?」と思うようになりました。シナリオ術の本とかはあるけど、ビジネスの本はあんまりないし、良書もわからないなあ…と思っていた2020年1月、まさにそうした需要にマッチした、映画ワークショップを、配給・映画館運営の「アップリンク」が主催していることを知りました。喜び勇んで申し込みをしたものの、なんと定員オーバーで受付終了、説明会だけ行ってみて面白かったので次の期の募集で絶対入るぞ〜と思っていたら、なんとコロナ禍に突入でワークショップの開催が停止に。同タイミングで代表による従業員へのハラスメントの事実も発覚したので、これは再開したとして受講するわけにはいかないかなあ…どうしよう……と悩んだ結果、しばらく没交渉だった友人Aさんが映画プロデューサーに転身していることが発覚。まだマスクをしないで出歩けた頃に、「映画ビジネスのこと教えて!」と頼んだら、いろいろ話してくれました。

当時は、固有名詞などもコミで自分の記録用にまとめてそのままになっていたのですが、最近Aさんと久しぶりにしゃべる機会があり「もう少しいろんな人が知っても、意味があることじゃないかなあ」と思い、今回、差し支える部分は伏せ、事実に反しない上で、noteにまとめ直すことに。というわけで、いつものテイストとちょっと違いますが、以下本編です。「映画ができるまで」は無料で読めます。

Aさん(30代前半)
大学の先輩。元々全く違う業種に就職したが、映画の仕事がしたいと決めて、転職することに。現在プロデューサー業5年目。(改めて全文チェックいただいてありがとうございます…!)


1つの映画ができるまで

Aさんが現在所属しているのは「制作プロダクション」にあたる会社。メンバーは現在10人いない。うち、監督1人で残りがプロデューサー。Aさんは数年前から、プロデューサーの1人として働いている。

基本的にはプロダクション内にいる監督の作品を作るが、作品によっては外部の監督とやったものも。基本的には、監督+プロダクション内のプロデューサー2人+あとは外部のスタッフで作品を作っていく。

最近手掛け、2020年春ごろに公開された作品を例に、まずは「作る」ところから。

0から1を生み出す(2018年春〜)
とある小説をもとに映画を撮ろう、となる。出版社に連絡をして、映像化権をおさえる。とにかく「原作を大切にして作る」ことを話して、許諾を得る。

権利獲得など、0→1にする段階では4つの役割を果たすプロデューサーが必要になる。以下、役割。一人が兼務するときもあれば、複数人のことも。

企画を作るプロデューサー
前述

お金を作るプロデューサー
製作費を出してくれる人を探して行脚しまわる。Aさんのプロダクションでは基本的に製作委員会方式をとってないため、これがなおさら大変。銀行も貸してくれないので、クラウドファンディング、知人の会社など様々な手段をとる。

脚本を直すプロデューサー
外部の脚本家と一緒に脚本を作っていく。ちなみに今回の作品で脚本ができあがったのは、クランクイン3日前。

キャスティングするプロデューサー
主要キャストを考え、オファーをする。

1をひろげて作品にする(〜2019年初め)
企画の大枠が固まり、お金のめどが立ったら、撮影に向けて動き出す。今回は主要キャストのスケジュールがあう2019年の初めに撮影日程を確保。

1をひろげていくためには、さらに多くのプロデューサーが必要になる。この辺りの人たちは専門職なのもあり、フリーランスが多い。とにかく紹介の紹介で人を探す。今回は撮影の4ヶ月前くらいからジョイン。

ラインプロデューサー
予算を振り分け、管理をする。お金が各所できちんと使われてるか確認する。すごい専門職。制作スタッフを探して仕事を依頼するのも、それらの人たちとギャラのやりとりをするのもラインプロデューサー。今回はツテを辿って、業界数十年の大ベテランに依頼することに成功。

ロケ地を管理するプロデューサー
脚本を見ながら、このロケ地で撮ろうか〜とか決める人。民家とか病院とかに撮影のお願いをしにいく。監督からの要望と金額・スケジュール面でできることの間で、いちばん板挟みになる人。ラインプロデューサーが兼務することも多い。

助監督
プロデューサーという名前ではないが、それに匹敵するくらい全体に重要な役割を果たす。手に入れている撮影日の中で脚本を全部撮りきるための香盤表を作る。ちなみに今回の撮影日は14日。主演には1ヶ月あけておいてもらっていたが、それをまるまる使うと製作費がショートしてしまうということで(…)、ラインプロデューサーが「2週間しか無理!」と宣言したため。「雨」が重要な役割を果たす映画でもあったため、雨を降らすマシーンは使わねばならず、それがとても高かった。

これだけプロデューサーがいる中で誰が主導権を握るのか?というと、基本的にはプロダクションに所属しているプロデューサー(つまりAさん)。エンドロールだとただの「プロデューサー」と表記される。ちなみにエンドロールでよく見るエグゼクティブプロデューサーというのは、出資者のこと。

いくらかけたの?

今回作った映画の製作費は、1500万円。

1500万円って、一体どういう内訳で使うの?を聞いてみたところ……

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いつもありがとうございます。より良い浪費に使います。