フリー・コミティッド観劇感想

11月16日の配信
11月21日ソワレ
11月30日千秋楽

久しぶりに同じ演目をリピートした。
チケット取ったときは少しコロナもおさまってきた雰囲気もあったしね。

21日はアフタートークがあったので、急遽観に行った。長くて深くて面白いアフタートークだったので、思いきっていってよかった。

フリー・コミティッド(略してフリコミ)は、2018年にも一度だけ観た。
その時は38役をこなす成河さんのスゴさに圧倒されて、あまり深く物語について考える余裕がなかった。
とにかく登場人物がほぼ全員イラッとくる。
私は初演のサムも嫌いだった。自分で自分の首を絞めてるじゃんと思ってイライラした。しかも、ラストはカッコつけてお金置いていっちゃうし!とも思った。

再演はラストが180度変わって、サムはお金を受けとるし、周りの困っている人の優位にたつ。
いい人で周りから"都合のよい"人物だったサムの立場の逆転に、私はスカッとした清清しい気持ちになった。

演劇的には「なぜサムはお金を受け取らずに出ていってしまったのか」と考えさせられるラストのほうが面白いとは思うんだけど、とにかく初演のラストは暗かった。
私はあまり当てはまる自覚はないんだけど、日本人でかつ社会に出て働いてる人は、波風たたせずにnoよりも、とりあえずのyesで流していることも多いんじゃないだろうか。
そういう人はサムの気持ちに同化しやすいと思う。
共感という意味では初演の方が共感しやすかったかもなとは思う。

私は登場人物で好きなのはヘクターだったりする。
「俺が賄いを作ったことと、賄いが無くなっちゃったことは別の話だ」って言い切っちゃうとこが好き(笑)
なにもかも自分のせいにされたらたまんないって思うし。
サムが賄い食べられなかったのなんて「知らんがな」である。
冷たいかもしれないが、世の中生きていくにはそれくらいの図太さも必要だと思うんだよね。

マイペースなオスカーもかなり好きです。

サムは基本とても"いい人"
でも、役者を目指すならそんな毒を持たない、いい人が大成できるとはとても思えないんですよね。
事務所の人に「何かが足りない」って言われるの、私は「図星だわ~」と思いながら観た。
ジャン・クロードに「本物の俳優ならレストランで予約なんか受けてない」って言われちゃうのも図星すぎるほど図星で、この言葉を聞いたあとの成河さんの演技が素晴らしいなぁと思って眺めてました。
この言葉でサムが変わるんですよね。

アフタートークで「清濁合わせ飲む」ってのを言ってましたが、人が強くなるにはまさにそうだなと思いました。
確かに清廉潔白、綺麗なままでいるのが難しい世の中ですし、綺麗なままでいることはすごい精神力の持ち主だし、聖人は尊敬されるでしょうね。綺麗な方が気持ち良いとも思う。
でも、聖人君子でいられるのなんて、この世に生きている人の何人がそうなれるのか。
私は凡人だから無理だし、そんなの無欲じゃなきゃ無理だと思う。
人が○○したい、○○になりたい、そういう欲を持つ以上、綺麗なままでいるのなんて無理だし、欲こそが濁でもあるだろう。
夢とかいう綺麗に聞こえる言葉に置き換えても、そこに欲はあると思う。
何かをつかみたいなら、ましてや人を蹴落として何かをつかまなきゃならないのなら、多少の汚れなんて気にしていたら無理。

コネをつかんでマウントを取ってきた俳優仲間のジェリーに対して、自分で掴んだコネでマウントを取り返すサムに対して、私は気持ちよさを感じた。
成河さんがアフトクでアメリカ的な『victory』の話だって言ってましたが、まさにロッキー・バルボアがリングで拳をあげて「エイドリアーン!」って叫ぶあの感じだなぁと思いました。

トイレ掃除のことを嘲笑ったシェフにハッキリと味の批評をしたことでシェフの弱さを引き出したとき、ジャン・クロードが困り果ててサムの欲求を飲むのも気持ち良かった。

サムが髪を整えて、赤い薔薇なんか胸に飾って軽い足取りで上にあがって歌を披露したあと、オーディションはもちろん受かるし、もしかしたらレストランで大物プロデューサーに見初められて明るい未来が待ってるんじゃないかなぁなんて思える今回のラストは、コロナなんて得たいの知れないものに振り回されてる現実をほんの少しでも忘れさせてくれる、ほっこりした時間だった。
きっと、サムの未来は薔薇色だ。

ちょっと汚れちゃったサムは、ちょっと汚れている自分と同じで、親近感もわく。

窮屈な時代だからこそ「いーじゃん、いーじゃん、ちょっとくらい汚れても人は生きていけるよ!」
そう思えれば、人は生きるのがものすごく楽になるんじゃないかなぁと思うのだ。

汚れすぎちゃうのも考えものですが(苦笑)

でも、自分の汚れに気づける人は大丈夫だと思うんですよね。
汚れなんてね、また洗えばいいんです。

このお話、クリスマス前の話なんだけど、謎の登場人物デコステさんを私はサンタクロースだなと思って見てました。
ファンタジーのサンタさんなのか、それこそ華僑みたいな大金持ちなのかわかりませんけど、サムに希望と夢を叶えるプレゼントはくれましたよね。
プレゼントが現実感丸出しの『お金』なところにブラックなユーモアを感じて、とても好きなんですが私が腹黒いからかしらねぇwwwなどと、自分で自分を笑いたくなりますが、私は私の腹黒さはもう認めてますので落ち込んだりしません(笑)

私自身があまり食に興味がないので、並んでまで美味しいと言うものを食べたいと思わないから余計にかもしれませんが、

予約に必死になる客たちも、たかがレストランに必死で滑稽だなぁ、なんて思ったり。

でもその滑稽さが、舞台のチケット取りに必死になってる自分と同じで重なったりしてね(笑)
演劇はやはり自分の鏡だな。

シェイクスピアみたいに人間の普遍を追求した演劇もいいけど、今回みたいに時代にそった演出に変えられる演劇も有ってしかるべきだなとも思った。

少なくとも、初演のままだったら、私はここまで書かなかったと思う。
今、こんな世の中だからこそ、フリー・コミティッドを観て感じたことを書き残しておく。

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