見出し画像

『ファントム』2023 観劇感想②

芝居によって自分の価値観がコロッと変わる体験というのは、なかなか面白いものだと思った、2023のファントム。

先にも書いたけど、2019に観たときはストーリーが嫌いで、たくさんの方が思ってることだと思うけど「クリスティーヌ、顔見て逃げ出すのなんでやねん」ってのがどうにも解せぬし、酷いし、スッキリしない終わり方だよねと思っていた。
キャリエールに対しても、これは今回観てもまだ「おまえは、この先の人生後悔と懺悔の中で生きろ」としか思えないけど、キャリエールにはキャリエールなりにエリックに愛情はあったとは思えた(ただ、与え方を間違った)

『オペラ座の怪人』と違って、『ファントム』はクリスティーヌが勝手に仮面を取るんじゃなくて、クリスティーヌの説得によってエリック自ら仮面を外して顔を見せるのに、いざとなったら逃げるんかいってとこに引っかかりを感じるんだけど、今回の真彩クリスティーヌが前半にこれでもかっていうくらいに善良なる無垢を体現していて、それでも受け止めきれなかったことに「あぁ…人間って弱いし、自分でも思いがけない自分が内にいるのであるなぁ…」と思えたことが大きかったと思う。
クリスティーヌに悪気がないのはわかる。
どうしても隠せない動揺ってのは、もしかしたら私の中にもあるかもしれないし、エリックがもし外の世界に出ても受け入れてくれる人ばかりではないってのは、悲しい現実だとも思うのよね。
ただ、無垢で無知(これはある種の幼さなのかな)のために、エリックを絶望の淵に落とし入れてしまう罪の大きさは『オペラ座の怪人のクリスティーヌ』の比じゃないと思うけど。

エリックに対しても、前回は急にキレ散らかすのはなんでやねんと思っていましたが、今回はその理由付けがわかるようになっていたと思う。
どんなに善良な心を持って生まれたとしても、この住環境じゃまともに育たんわなって思った。
和樹エリックのコミュ障っぽい言動がそう思わせたんだと思う。感情の抑制が利かないんだわ。人ってやはり社会に出てこそ理性って働くようになると思うし。
キャリエールに対して怒るのは、親を試す子どもの態度だなと思うと、育ってない人の説得力が増す。
エリックは年齢重ねてるかもしれないけど、育ってないのだわ。
最初に衣装係を殺しちゃうのも、自分の存在がバレてしまうという短絡的な発想からなので、あまり罪悪感のないようなところも、そういうとこまともではないんだけど、エリックが「まとも」なはずはないわけよね。
で、エリックがまともに育つわけないという目線で見ると、エリックの全てが可哀想すぎて、1幕から延々泣いてた。

加藤和樹くんの芝居の説得力はすごいなと今回再認識したのだけど、エリックのどの動きにも表情にも気持ちがこもってるのよね。
ピアノレッスンのシーンで、クリスティーヌを真っ直ぐに見つめる目と口元に幸せが溢れ出ていて、結末を知ってる身としては、こんな悲しい笑顔はないぞと思うと涙ダダ漏れだったんだけど。

で、今回思ったのが、これは「赦し」の物語なのだわと考えたら、結末にもすごく納得できた。
傷を負ったエリックがキャリエールに語る言葉に、クリスティーヌに対してもキャリエールに対しても、愛をもって赦してるわけですよ。
まさに、エリックの心は綺麗だったわけ。
あの境遇で、こんな育て方をされて、愛した女に酷いことされても、エリックは受け入れてる。こんな心の広い人いる?
私は無理、恨みながら死んでいく(笑)
人生悪くなかったっていうエリックは心の底からそう思っているのが伝わってきて、こんなん泣くしかないやろ〜状態。
クリスティーヌと過ごした時間は短かったかもしれないけど、そこで感じた幸せは本物だったのだろう。
キャリエールに対しても、自分を守ってくれてるという実感はあったのだろう。
(間違ったやり方やけどな!)
なんかもう、エリックめちゃくちゃ素直やん。

最後に父親に撃ち殺されるのも、形としては不幸なんだけど、エリックが外の世界で生きられず(時代性を考えると無理なんだよなぁ…)、未来のない状況でしかないのであれば、父親が自分の願いを叶えてくれるというのも、1つの幸せの形なのかもしれない。
キャリエールにとっても、息子にしてやれる最大のことでもあるし。

クリスティーヌに抱かれて死んでいくエリックは微笑んでるんだけど、自分の人生が「悪くなかった」と思える人と出会えた幸せを抱えて死ねるなら、これは不幸の形をしたハッピーエンドなのかなと思ったことが、私の価値観を真逆にひっくり返された。
いや、もう、このストーリー、めちゃくちゃ奥が深いわ。

今回、私はこの物語の奥が見える扉を開けたばかりで、まだまだ深く考えることのできる演目ではなかろうかと思って、チケットあんまり取らなかったことを後悔している!
千秋楽と同時にBlu-ray発売の発表はあったけど、やはり直に感じたいのよねぇ。

ということで、再演待ちます。

和樹エリックはまだまだ深化しそうだしね。
次は優エリックもちゃんと観たいな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?