麻雀戦術書は「プロのもの」へと帰るか
私はこれまで10冊の麻雀戦術書の執筆に携わってきました。なんの実績もなく、しかもいわゆる「5団体」所属のプロでもない私がなぜこれだけの商業出版に携わることができたのか。
一言で言うならば「時代が良かった」ということでしょう。
もちろん私自身の適正も多少はあったと思っています(結果的に今は麻雀以外の分野も含めた文筆業だけでなんとか生計を立てられるようになっていますし)が、これが15年前ならばそもそも最初の1冊を出版するチャンスすら得られていなかったのは間違いありません。
もともと麻雀の戦術書とは、タイトルを複数獲得しているトッププロが書くものでした(もちろん各時代に例外はありますが割愛)。
それが2010年代、ネット麻雀「天鳳」出身のプレイヤーの本が続々と出版されるようになり、特にここ2年ほどはプロの出す戦術書の方が圧倒的に少ないという状態になっています。
そんな2015年、出版社も「天鳳プレイヤーの書く本って売れるじゃん、他にも書ける人いないの?」となっていたちょうど良いタイミングで十段にタッチするという幸運があり私も本を出せたわけです。
ではなぜ天鳳民ばかりが戦術書を出すようになったのでしょうか。
商業出版である以上は単に「それが売れるから」なのですが、ならばなぜ天鳳民の本が売れた(売れる)のか。
複数の理由が語られてきましたし、私自身も過去にブログなどでいろいろ書いてきましたが今思っているのは「時代が良かった」ということです。
わざと先ほどと同じフレーズを使いましたが厳密には「時代に合っていた」ということになるでしょうか。
今ビジネス書の世界で圧倒的な売り上げを持っている編集者で、箕輪厚介さんという人がいます。
「多動力(堀江貴文)」「メモの魔力(前田裕二)」「日本再興戦略(落合陽一)」と言った本の編集者さんですね。聞いたことがある人も多いと思います。
毎月自らが編集する本を出版し、それら全てがベストセラーとなっているホントに驚異的な編集者なのですが、その箕輪さんが用いている「本を売るための戦略」がコミュニティで売るというもの。
これについてはビジネス書でもネット記事でも多くの人が書き尽くしているので私などが書く必要も無さそうですが、簡単に言えば「SNSというコミュニティを使ってファンに拡散してもらうこと」を重要視しているということです。
インフルエンサーという言葉が登場して久しいですが、今はテレビや新聞広告というマスメディアが広告するよりも、SNSで「バズる」方が売り上げに貢献する時代です。
あなたもきっと、TwitterのTLで話題だったものをつい買ってしまったという経験はあると思います。「昨年度売上第一位!」なんていうテレビCMの謡い文句よりも、仲の良い(それも複数の)フォロワーの「あの商品よかったよ」という言葉の方が信用できるのはある種当然のことです。
モノを売りたいならSNS等をはじめとした「コミュニティ」で話題にしてもらうこと、これは書籍以外の分野にも共通する令和時代の絶対的なセオリーです。
そう考えた時、AbemaTVがはじまる以前の麻雀プロは、そのようなコミュニティを持っていませんでした。もちろん多くのプロにファンはいましたが、ファン同士という横のつながりが希薄だったのです。
それは麻雀の研鑽に全力を注いでいるある種「まじめな」プロが多く、SNSの重要性が浸透していなかったという背景もあるでしょうし、(一部の)プロ団体の主な収益源が会員の納める会費であるという「一般のファンをお金の流れに取り込めていない」というビジネスモデルの問題もあったかもしれません。
その点天鳳は、そのユーザ同士がTwitterを介して強くつながっています。誰かが本を出版するとなったら発売前から話題になり、出版後はそのレビューのようなツイートが飛び交います。「コミュニティで売る」というセオリーが自然と満たされる環境だったわけです。
私自身も、最初の作品を出版した2016年はフォロワー1000人程度でしたが福地誠先生をはじめとする多くの人が話題にしてくださったおかげで、私のフォロワーの外にも多くその作品を認知していただくことができたと思います。
さて、先ほど「AbemaTVがはじまる以前の麻雀プロは」と書きました。
2010年代前半、麻雀界におけるインフルエンサーのほとんどは福地先生や天鳳位といった天鳳民でした。
では今は、と考えるとその規模を圧倒的に上回るインフルエンサーが麻雀界に誕生しています。
そう、Mリーガーです。
これまでの麻雀界で「有名人」とされる人のフォロワーは多くても1万人前後だったのに対して、Mリーガーの中にはフォロワー数2万以上の人がゴロゴロいます。トップはおそらく二階堂亜樹プロの6万弱、ですかね。当然今後もフォロワーは増え続けるでしょう。
麻雀本は実売で5000部売れれば相当売れた部類に入るくらいの市場ですが、フォロワーの10人に1人が買ってくれればベストセラー、という状況になるわけです。
すなわちこれまでSNSにおける影響度合いが
天鳳民>プロ
だったのが
Mリーガー>天鳳民
になるわけで、当然モノの売りやすさという点でも変化が起きるはず。
もしクオリティに大きな差が無いという前提で考えるならば「麻雀戦術書は再び麻雀プロが書くものに戻る」と言えるのかもしれません。
と、まぁこれはあくまでマーケティング的な観点で見た話しであって、出版を取り巻く要素には他にも様々なものがあります。
例えば「麻雀本を書くことが著者にメリットをもたらすか?」というものです。
本を出すメリットと言うと「印税が入る」ことだと思っている人が多いと思いますが、実際に印税だけで生活できるような人なんて麻雀界に限らずほとんどいません。
メンタリストのDaiGoさんや堀江貴文さんクラスにならないと厳しいでしょう。
ではなんで各分野の専門家や経営者がこぞって本を出すかというと、それがブランディングや広告の役割を果たして本業となるビジネスに良い影響を与えるから、です。
以前お話した経営者の方は、本を出すことで自分の考えやビジネスモデルに共感した若者が一緒に働きたいと連絡してきてくれるから、求人広告を出すより質の高い求人ができる、と言っていました。
そういったメリットがMリーガーにあるかというと、もちろん人気にはつながりますが、具体的な収益(ビジネスモデルに組み込めるか)という意味では微妙ですよね。
自分でオンラインサロンを開く人や、YoutubeをやるMリーガーが出てきたら、もしかしたら堀江貴文さんのように毎月その人の戦術書が出版される、なんて未来もあり得るかもしれません。
しかしそうでない多くのプロにとって、本を書く労力を上回るメリットがあるのかは微妙なところじゃないかなと思います(もちろんその人の価値観によるので厳密なことは言えませんが)。
天鳳系著者のほとんどは私を含めてみんな実際に自分で文章を書いているはずです。
何を当然のことを?と思われるかもしれませんが、多くのビジネス書や実用書は、著者ではないライターが、著者の話を聞いて文章に起こすということをしています。堀江貴文さんなんかは「そうじゃなきゃこんなに本をたくさん出せるわけない」といったようにそれを公言していますね。
ただ麻雀本に関しては、少なくとも現状はこの仕組みがあまり用いられていません。
そもそも取材をして文章を書こうにも、牌姿や立体図というのは実際に本人に作ってもらわなければいけないし、ライター側の雀力も相応にないと正しく理解して文章にすることができません。
そういった背景から「麻雀本は著者への負担が大きい分野」と言えるかもしれません。
このような話もあるので必ずしも今後中長期的に麻雀プロの本が増えるかはわかりませんが、すくなくとも今年と来年あたりはMリーガーの本が増えるようです。まずは一読者としてそれを楽しみにしたいと思います。
・・・あ、もしこの文章を見てる出版関係者の方がいらっしゃいましたら是非ライターに使ってくださいw
僕なら何回か取材するだけで適切な牌姿や立体図を含めて文章を作成する能力があるので限られたスケジュールかつ執筆のできない著者さんでも本を作れますし、いろいろと大人の事情があるならペンネーム使って正体隠します。たぶんこれだけ便利なライター麻雀界にそういないと思いますよ。
・・・あ、そんなMリーガー本の先陣を切る松本吉弘プロの著書をレビューした動画作りましたのでよかったらお願いします。
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