2024夏一首評06

自販機の横にまっすぐ立つ人が夜になったら光りそうだった
/椛沢知世『あおむけの踊り場であおむけ』

http://www.kankanbou.com/books/tanka/0628

 なんですかね、この、出てきてる「人」のNPC(Non Player Character)感。
「夜になったら光りそう」の前提には、ずっとそこに居そう、があって、そこをすっ飛ばしてこれを言ってるんですよね、たぶん。もちろんそこに立ちっぱなしじゃなくても光れるはずだからこのひとが絶対にその前提で言ってるとは断定できないんだけど、この歌はそう思って言ってそうだと思う。

 そもそもの「自販機の横にまっすぐ立つ人」という描写がNPCっぽいですよね。少なくともこの歌の中でこの人は「自販機の横」から動かない。動かされない。「まっすぐ立つ」っていうのも、なんだか、作り物っぽさを感じさせるというか。人間みんなそんなにまっすぐ立たないですからね。
 でもまあ、現実にそういう瞬間はある、はず。あっても別におかしくはない。それをこのように描いて、なにか【へん】だなと読者に思わせたのは、この歌なんですよね。そして「夜になったら光りそうだった」とまで言う。

 今の自分が何を【へん】だと思うか、の無意識のところを詳らかにされた、みたいな感覚なんですよね。「自販機の横にまっすぐ立つ人」って、それ自体は別になんでもないはずなのに、なんか【へん】だな、と思ってしまう自分がいる。そうなってくると、夜までその人がそこにずっといて発光するくらいのことはありそうだと思う……思う、とまではいかなくても、このひとの「夜になったら光りそうだった」に「あ~」くらいの共感をできる。そのライン。

 歌が見せてくる【このひと】の一面が、自分の無意識の一面と重なっていると思うとき、ちょっとゾクっとする、ことがある。共感、がこういうふうに駆動することもあるっていう、この感じが、よかった。

近づくと鳩は歩いてから飛んだ ずっと同じ 目を閉じても同じ
/椛沢知世『あおむけの踊り場であおむけ』

http://www.kankanbou.com/books/tanka/0628

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